少子化する世界

イギリスでも進む晩産化、30歳未満で産んだ人数は1人へ半減 日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー 村上 芽

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 イギリスでは、コーホート合計特殊出生率(以下、コーホート出生率)についても65年間分を一気にみることができる(図表4―2)。コーホート出生率は、女性の世代別に、一生に子どもを何人産んだかという人数を示す。イギリスを例に2つの出生率を見比べてみると、期間合計特殊出生率のでこぼこが大きいことに比べ、コーホート出生率ではなだらかな線を描いていることがはっきり分かる*3。

*3 イギリス国家統計局“Cumulative fertility: Average number of live-born children, age and year of birth of woman, 1920-2001”.  出所:https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/birthsdeathsandmarriages/livebirths

 イギリスで期間合計特殊出生率が最高だったのは1964年で、3人に近かった。ところが、1964年に20~40歳だった、1924~44年生まれの女性が生涯に産んだ人数(コーホート出生率)は、2.1~2.4人程度である。つまり1964年には、平均的な年よりも、適齢期の年齢にある女性が集中的に子どもを産んだことから、期間合計特殊出生率では大きな山となったわけだ。

 このように、期間合計特殊出生率でみた「上昇・下降」の状況だけでは、出生率の全体像がつかみにくく、コーホート出生率と併せてみることの必要性が確認できる。なお1960年代のイギリスというと、ビートルズやミニスカートなど音楽やファッションを中心に若者文化が盛り上がった頃だ。

 現在なら若者が学生生活や遊びを満喫すれば子どもは「先送り」になるところ、この時点では、若者文化が盛り上がりつつも、子どもを産むこともやめなかったらしい。

イギリスでも進む晩産化

 次に、コーホート出生率と、30歳未満で産んだ人数を図表4―2で比べてみよう。コーホート出生率は2.5人が2人に減った程度で緩やかなカーブだが、30歳未満で産んだ人数は2人近くあったところから1人へと半分に減っている。

 晩産化が進んでいるのはイギリスも同じで、10代・20代・30代では産む子どもの数は減少しているのに対し、40歳以上のみ上昇している。晩産化の背景としてはここでも、女性がより高等教育機関に進学していること、労働参加率が高まっていること、キャリアの重要性が拡大していることに加え、子育てコストの上昇、労働市場の不安定さ、住宅問題の深刻化が挙げられている*4。40歳以上が産む人数が0.161人になったのは、1949年以降最高であるという。

*4 イギリス国家統計局 “Statistical bulletin Births in England and Wales: 2017,” 2018年7月18日

 1972年生まれから1987年生まれの世代まで、30歳未満で産んだ人数は1人前後で安定的に推移している。このことからは、1987年生まれ頃までについてはコーホート出生率も2人に近い水準に収束することが想像できる。20代に1人、30代に1人産んで2人という計算だ。

 さらに若い世代については、20歳・25歳時点での出産数がさらにがくんと落ちており、もう1段階低い水準になる可能性がないとはいえない。イギリスにとっても、産むのを遅らせた女性が後年確実に産むかどうかが、これまで以上に重要な問題になってくるだろう。

ドイツ以上に多い外国生まれの「母」

 イギリスは、ドイツ以上に外国人の母生まれの子どもの割合が高い。2017年に生まれた67万9106人の新生児のうち、28.4%が外国生まれの母親を持つ。ドイツは上昇したといっても23%で、日本は1.7%にすぎない*5。27年前の1990年には11.6%だったことと比較すると、「10人に1人」から「10人に3人」に近づく水準で増加している。

*5 人口動態調査・人口動態統計保管統計表(2016年)より筆者計算

 もし、外国生まれの母親による出産が出生率を下支えしているとすると、イギリスのEU離脱表明以降、移民が減少傾向にあることは今後の出生率の下振れ要因になるのかもしれない。また、移民といっても、最近では東欧諸国からの移民が多いことも特徴となっており、もともと出生率の低い国々からの移民であることから、今後は出生率上振れ要因とはならない可能性もある。

 子育てや成長の機会という観点からは、「社会移動性(ソーシャルモビリティ)」とも呼ばれる、いわゆる階級社会や地域格差の深さも大きな課題と認識されている。子どもの貧困対策については、1999年にトニー・ブレア首相(当時)が「2020年までに子どもの貧困を撲滅する」と宣言して以来日本でも先行事例として知られているが、2018年現在では、子どもの貧困も包含した「社会移動性委員会」が設置されて対策が推進されている。

 現在のイギリスが、階級、所得、性別、人種によって分断されている状態にあるという認識のもと、どのような地域や環境に生まれても平等な成長の機会を得るべきだという考えが強調されている*6。子育て支援の文脈でみても、子育て支援策について多くの母親が理解しておらず、その比率が労働者階級(ワーキングクラス)ほど高いことや、労働者階級の母親ほど「ママ友」もおらず孤立している様子がうかがえる*7。福祉施策を充実させても、本当にそれを必要としている人に届いていないという実態なのだ。

*6 社会移動性委員会[2017]“State of the Nation 2017”. 出所:State of the Nation 2017:

*7 イギリス政府発表資料 2016年3月4日付。出所:Parents in the dark about government’s flagship childcare policy

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