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大湾区計画が始動、深圳は世界のイノベーション都市に エクサイジングジャパン/翼彩跨境科創服務(深圳)CEO 川ノ上和文氏 に聞く

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 「紅いシリコンバレー」広東省・深圳。BATが主要拠点を構え、海亀と呼ばれるハイテクエリート人材が集まることは有名だ。中国テック業界をけん引する都市として、独自のエコシステムを形成した深圳だが、2019年2月に正式発表された「大湾区計画」によって、国際的に影響力が高まりつつある。株式会社エクサイジングジャパン/翼彩創新科技(深圳)公司 CEO 川ノ上和文氏に、現地の最新事情を聞いた。

「大湾区計画」とは

ーー2019年2月に正式発表された「大湾区計画」とは?

 大湾区とは、粤港澳大湾区(えつこうおうだいわんく)の略称で、香港、マカオ2つの特別行政区、広東省9都市の、合計11都市を包括するベイエリアを指します。「大湾区計画」とは、2022年までに世界的ベイエリアの基礎形成、2035年までに完成を目指すという中国政府が正式に発表した発展計画です。

 大湾区の前提にあるのが、中国の経済・外交圏構想である一帯一路。2013年に習近平国家主席が提唱し、2014年中国で開催されたAPEC首脳会議を機に、世界的にも認知されるようになりました。新興国・途上国向けに、プロダクトおよびサービスを輸出することが、一帯一路の重要なポイントです。

 この一帯一路の枠組みで、初めて大湾区について言及されたのは、4年前の2015年に遡ります。そして今回、中国政府からの発表として初めて、香港・マカオという特別行政区が中国の地域発展計画に組み込まれた点は要注目です。大湾区が、構想段階から具体的な実働段階へ移る潮目を迎えたといえるでしょう。

 中国国内では、大湾区計画をテーマとした書籍が出始めています。ニューヨーク、サンフランシスコ、東京など世界的なベイエリア経済圏を、よく研究して「大湾区計画」が成り立っていることがうかがえるのですが、一方で、香港とマカオなど異なる行政制度や文化圏を持つ複数都市を連結させて一つのベイリエアを形成するという構想は、世界に類を見ないものだと分かります。

「大湾区計画」における深圳の役割

ーー「大湾区計画」によって、各都市はどのように発展していくのでしょうか?

 大湾区は、香港、マカオ、広東省9都市の合計11都市から成る大規模なベイエリアです。なかでも香港、マカオ、広州、そして深圳が4大都市と位置付けられます。大湾区計画では、各都市の発展計画が明示されました。

 香港は、国際標準にのっとったビジネス環境が整い、航空も国際線が多い。国際金融、貿易、輸送・物流はもちろん情報のハブ機能を担うことはもちろん、科学技術を活用した高度サービス業の発展を目指します。

 マカオは、カジノや世界遺産を中心とした世界的な観光・レジャーの街として有名ですが、かつてポルトガル領だった点は極めて重要です。ブラジルやアフリカ大陸などポルトガル語圏の新興国マーケットにアプローチする窓口の役割を果たすでしょう。

 広州は、北京、上海に並ぶ国家中心都市のひとつで、華南地域における文化・教育・交通の中核都市として歴史と伝統があります。他方、華僑は一帯一路において重要な存在ですが、東南アジアに居住する華僑のうち過半数が広東省に祖先を持つといわれています。広州は広東省の省都でもありますから、貿易産業のゲートウェイとして確固たる地位を確立するに有利だと考えられます。

 対して深圳は、30年前は漁村だったという話は有名で、歴史や伝統はありませんが、経済特区という地の利を活かしBATの主要拠点やテック系スタートアップが集まり急成長を遂げました。”海亀”とよばれる、世界トップクラス大学へ留学した後、帰国し活躍するハイテク人材が集結し、エコシステムを形成しています。

 深圳はこれまで、実験都市として注目されてきました。深圳の技術力や開発スピードがフォーカスされ、技術動向リサーチやプロトタイプ開発に最適な街だと。大湾区計画において深圳は、研究開発のさらなる強化、経済中心都市への発展、そして国際的に影響力を持つイノベーション都市を目指すとされており、急速にこれまでとは違うフェーズに入ると予測されます。

深圳は知財の集積地

ーー「いま、改めて深圳に注目すべきポイントとは?」

 まず1つ目に、急増する中国の国際特許申請数のなかでも、過半数を深圳が占めている点です。なかでも南山区は突出しています。区単位での申請数において、南山区からの申請だけで中国全体の3分の1です。南山区に知財保護センターが設立されたこともうなずけます。深圳は、先端技術と人材の集積に加え、国際標準にのっとったビジネス環境が整ってきたといえるでしょう。

 今年2月、欧州エアバスが深圳にイノベーションセンターを開設したことは、記憶に新しいですね。同社が海外にイノベーションセンターを開設するのは、シリコンバレーに次いで2カ所目。先端技術を持つ海外企業との提携で、競争力向上を図るために深圳が選ばれたことは画期的です。日本企業では、今年4月に京セラ(中国)イノベーションセンターが開設されました。

 今後、R&Dおよび新規事業開発を目的として深圳に拠点を開設する、グローバル大手企業の動きが加速すると見ています。深圳でいま、どういう知財が生まれているのか、把握しておくことは重要なのではないでしょうか。

 2つ目は、2011年に国家高等教育総合改革試験校として深圳に新設された南方科技大学の存在です。シリコンバレーの創業エコシステムにおけるスタンフォード大学のような高等学術機関が深圳には不足しています。大湾区におけるスタンフォードのようなポジションを目指しているのが、南方科技大学です。

 教授陣には海外留学組を多く採用し、英語での授業比率も高い。学内には機械、コンピューター、材料科学、力学および航空宇宙等17の学院、さらにロボット、人工知能、先進製造、未来都市、ビッグデータおよび大規模コンピューティング等26の研究センターを有します。

 技術の産業化に特化した学部を設けるなど、研究型大学として積極的に企業との産学連携を図っている点は見逃せません。BATやファーウェイ、DJIをはじめとする中国企業とのつながりが強いのかと思いきや、それらもありますが、シリコンバレー発の企業や、実は日本のスタートアップでも共同研究室発足などの道を探る動きがあります。

 大湾区計画発表を受けて、深圳が国際的イノベーション都市として台頭するいま、深圳といかに関わるべきかを再考すべき時が訪れたといえるのではないでしょうか。

ーー米中貿易戦争による影響は、どのように見ていますか?

 今回の米中貿易戦争は、実質的にはファーウェイやDJIなど深圳に本拠点を持つ企業が標的となっています。つまり、米国VS深圳企業という構図が生まれている。深圳のポテンシャルを表しているようにも感じます。

 ファーウェイについての議論は、中国国内でも過熱しており、SNSでも見かけない日はありません。もちろん悲観論もありますが、長期的な視点で見ると、米国に依存しないサプライチェーンの再構築を促し、返り咲くだろうとの意見もあります。

 今後は中国企業排除の延長として、在米中国人へのビザ更新の停止や条件が厳格化される可能性もゼロではありませんが、米国での留学および就労経験を持つ"海亀”の大量帰国は、中国企業の成長にはプラスです。米中貿易戦争の影響は、一時的にはマイナスですが長期的にはブーメランが米国に刺さる、という見方ができるのではないでしょうか。

川ノ上和文氏(かわのうえ・かずふみ)
株式会社エクサイジングジャパン/翼彩跨境科創服務(深圳)公司 CEO
2017年に深圳で翼彩創新科技(深圳)公司(現:翼彩跨境科創服務<深圳>公司)を設立し、その後東京に進出。”プロ開拓者”として、深圳・ベイエリア圏を中心に産官学の現地ネットワーク開拓、業界団体、起業家コミュニティ、インキュベーター、アクセラレーター、大学創業コミュニティなどとの関係構築、国際連携のニーズ把握を行い、日本企業との橋渡しやその後の事業開発のサポートを行っている。2018年よりビッグデータ産業を軸に成長する貴州省へも業務拡大。ドローンを中心とする新興産業の産業ツアー、日経ビジネススクール・NBSミッションの中国編ナビゲーターも務める。

(聞き手はフリーライター 藤川理絵)

お知らせ
日本経済新聞社は2019年6月24日~27日、中国・深圳を訪問する体験型視察プログラム『中国流「イノベーションを起こす仕組みを学ぶ」4日間』を実施します。詳細・申し込みはこちらからご覧ください。

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