ロジスティクス4.0 物流の創造的革新

アマゾンの対極にあるアスクルの戦略、ビッグデータで共創進める ローランド・ベルガー プリンシパル 小野塚 征志

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 2014年に開設された当初、マーケティングラボへの参加企業は12社でした。推察するに、競合他社にも情報が共有されるということで、参加をためらった企業も存在するでしょう。それが、現在では、百社をはるかに超える企業が参加しています。情報を共有することのリスクよりも、リターンの方が大きいと考える企業が増えたのではないでしょうか。マーケティングラボのオープンプラットフォームとしての価値が社会的に認識された結果といえるでしょう。

 アスクルは、マーケティング以外でも外部リソースを積極的に活用しています。例えば、配車計画の精度を高めるにあたっては、マーケティングラボにもフレンドシップパートナーとして参加している日立製作所の人工知能を活用しています。物流センターでのバース予約・受付やドライバー誘導に関しては、出資先であるハコブのシステムを導入しました。ピッキングプロセスの自動化に向けては、ムジンと業務提携を締結し、ロボットの技術開発・検証・導入を進めています。自前主義を貫くアマゾンとは真逆の戦略でプラットフォームを構築しようとしているわけです。

 アスクルからすれば、アマゾンという先行者がいる以上、異なる戦略を選ばざるを得なかったのかもしれません。アマゾンほどの資金力を有さないことも紛れもない事実です。「自前主義では勝てないからこそのオープンプラットフォーム」という側面もあったのではないでしょうか。

 とはいえ、自前主義で先行したプレイヤーが寡占的地位を得られるとは限りません。Androidは、iPhoneに比して後発でありながら、現在ではiPhoneを大きく上回る70%超の世界シェアを獲得しています。スマートフォンのように多様なニーズが想定されるモバイル端末の販売にあたっては、Androidのように広く多くのメーカーが参画するコンソーシアムを組成し、多様なラインナップを提供することが「シェア最大化の要諦」だったといえるでしょう。逆にいえば、クラウドインフラサービスへのニーズは総じて画一的だったからこそ、AWSはその抜群のコスト競争力と機能性を基盤に、高いシェアを獲得できたのです。

 では、「物流ネットワーク」や「顧客情報」へのニーズは多様性が高いといえるのでしょうか。察するに、コスト、対象範囲、リードタイム、情報量といった基本要件をベースに、サービスの利用を判断するユーザーが多いはずです。とすれば、先行者としてスケールメリットの最大化を図りつつあるアマゾンが優位となります。一方で、個別の対応を重視するユーザーも少なくないはずです。「物流ネットワーク」であれば、荷主の業界・業種や商品の特性ごとに異なるニーズがあります。「顧客情報」についても、単に情報を得ればよいということではなく、カスタマイズやコラボレーションを必要とするメーカーもいるでしょう。アマゾンの存在は脅威であるものの、異なる未来を創造することができれば、十分に勝機を見出せるはずです。

物流ビジネスを展開する意味

 当然のことですが、物流をコアコンピタンスにしているからといって、全ての荷主が物流ビジネスで新たな収益を得ることに挑戦しなければならないわけではありません。挑戦したからといって、皆目儲からない可能性もあります。物流ビジネスを本業とする物流会社とも競争になるわけです。それだけに、「仮に期待通りの収益を得られなかったとしても物流ビジネスを展開する意味はある」との判断に至るかどうかがポイントになります。

 1つの考え方として、アマゾンのように、本業を強化するために投資されたアセットを外販するということであれば、期待通りの収益を得られなかったとしても、 特段の損失は生じません。例えば、製造物流小売業を標榜するニトリは、誰もが気軽に買える価格設定と高い品質・機能を両立させるべく、製造から販売までの物流を自前化していますが、効率性をもう一段高めるため、自社のアセットを利用した物流ビジネスを開始しました。既に他社の物流業務を受託できているようですが、仮に受注を得られなかったとしても、そのアセットを自社で使用すればよいわけで、投資はムダになりません。物流を自前化していて、かつ、本業の成長が見込めるのであれば、ローリスクで物流ビジネスを開始できるはずです。

 もう1つの考え方として、アスクルのマーケティングラボのように、より多くの企業・ユーザーの参加を得るためのツールとして活用するのであれば、直接的な収益を得られずとも大きな問題にならないはずです。例えば、楽天は、自社のECモール“楽天市場”への出店者に対して、入荷・保管から出荷・配送までの物流業務を一括代行する物流サービス“楽天スーパーロジスティクス”を提供しています。もちろん、相応の収益を得ようとする考えもあるでしょうが、出店者が販売促進の企画・実行に集中できたり、セール時も波動対応に時間を取られなくなったりすることで、楽天市場の魅力が高まり、集客力が上昇するのだとすれば、それだけで物流ビジネスを展開する意味があります。要は、物流ビジネスを本業のフックとできるのであれば、収支を多少度外視した意思決定が可能になるわけです。

 いずれにしろ、荷主として物流ビジネスにチャレンジするのであって、物流会社に転換することが目的ではないはずです。しからば、荷主であるがゆえに「自社の荷物があること」、「本業での収益があること」を最大限活かした物流ビジネスとすべきです。そうでなければ、「ロジスティクスプラットフォーマー」に進化した物流会社と伍して戦えません。物流会社にも「物流+αのオペレーションアウトソーサー」という勝ち残りの方向性があるように、荷主であるという+αを競争力の源泉とした物流ビジネスを創造することが重要といえるでしょう。

(おわり)

小野塚 征志 著 『ロジスティクス4.0 物流の創造的革新 (日経文庫)』(日本経済新聞出版社、2019年)、「第5章 物流ビジネスでの新たな事業機会」から
小野塚 征志(おのづか・まさし)
ローランド・ベルガー プリンシパル
経済産業省MaaS研究会Logitech分科会常任委員
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て、2007年に欧州系戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーに参画。2015年より現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等をはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、営業、製造、プレーヤー、イノベーション、AI、IoT、ICT

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