ロジスティクス4.0 物流の創造的革新

アマゾンの対極にあるアスクルの戦略、ビッグデータで共創進める ローランド・ベルガー プリンシパル 小野塚 征志

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 「ロジスティクス4.0」は物流における新たなイノベーションです。物流業界における「破壊と創造」、そしてイノベーションの先にある新たなビジネスの在り方について、ローランド・ベルガーの小野塚 征志氏(プリンシパル)が書籍『ロジスティクス4.0』(日本経済新聞出版社)を著しました。最終回では米アマゾン・ドット・コムが貫く自前主義の真逆となるアスクルのオープンプラットフォーム戦略について解説します。

◇ ◇ ◇

アマゾンとは異なる未来

 アマゾンは、兵站(へいたん)として提供する機能を揃えるにあたり、自前主義を貫いています。AWS(Amazon Web Services)のように、大胆な設備投資を通じて、他社の追随を許さない圧倒的な競争力を築こうとする戦略です。キバ・システムズのように、買収で必要な機能を獲得・強化することもあるでしょう。スマートフォンで例えるなら、アプリやアクセサリ以外のほとんど全てのハード、ソフトを自社製としているiPhone(iOS)のような戦い方といえます。

 では、荷主である事業者が物流ビジネスを展開しようとするのであれば、自前主義が前提になるかというと、そんなことはありません。Androidのように、敢えて大半の機能を他社に開放するような戦い方もあります。アスクルのマーケティングプラットフォーム“LOHACO ECマーケティングラボ”は、その代表例といえます。

 アスクルは、オフィス用品の通販で国内最大手の地位を築いています。2012年からは、BtoCのインターネット通販サービス“ロハコ(LOHACO)”を開始するなど、事業領域の拡大にも積極的に取り組んでいます。アスクルの特長は、その社名の由来の通り、「注文翌日までの配送(明日来る)」を他社に先駆けて実現したことにあります。大都市の近郊に大型の物流センターを構えるなど、その価値を提供するために必要な投資を戦略的に実行してきました。その点からして、物流ビジネスを展開するに相応しい、物流をコアコンピタンスとする荷主といえるでしょう。

 アスクルは、通販事業者であるがゆえに、「誰が何を買ったのか」という情報を蓄積できています。アマゾンほどではないにしても、特定個人の購買傾向を把握できます。「顧客情報」を自社内に蓄積し、データプラットフォームサービスとして外販することで、新たな収益を得ることも可能なわけです。しかしながら、アスクルはマーケティングラボの設置を通じて、そのビッグデータを参加企業と共有する道を選びました。

 マーケティングラボに参加した企業は、アスクルの顧客データ、購買データ、商品ページへのアクセスログ、問い合わせやレビューのデータ、配送データなどを自由に利用できます。参加企業もデータを提供することが求められており、そのデータは競合相手であっても提供されます。おそらくは、アスクルの「顧客情報」を呼び水に、参加企業間でデータを広く共有することで、今までにはないマーケティングを共創しようとしているのでしょう。

 例えば、あるトイレタリーメーカーは、マーケティングラボでのデータ分析を通じて、店頭販売とECでは容器のデザインを変えた方がよいことに気づきました。店頭販売では、商品を目立たせる必要があるため、「除菌効果」や「消臭性能」といった訴求ポイントを前面に押し出す必要があります。結果として、日々の生活にはなじまないデザインになっていました。ECであれば、容器のデザインで訴求する必要はありません。「家の中で、どこにどのように置かれる商品になるか」を軸に、デザインを一から見直すことで、ロハコでの販売を10倍以上増やすことに成功しました。しかも、家の中の目に見える場所に置かれるようになったことで、リピート率も大幅に高まったのです。

 参加企業間での共創の取り組みも広がっています。例えば、同時に購入される割合の高い商品を対象に、企業の枠を越えて共通のパッケージデザインを導入したり、まとめ買いの割引価格を設定したりするなどのコラボレーション企画が実施されています。「自社の商品」ではなく、「顧客から見て共通項のある商品」を組み合わせることで、購買意欲を高めようとしているのです。これらの取り組みの全てが販売の拡大に結びついているわけではありませんが、成功事例のみならず、失敗事例も含めて参加企業間で情報を共有し、PDCAサイクルをより高速に回すことで、一企業ではできないレベルでの全体最適を実現しつつあるといえます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。