学校で教えない経済学

資本主義は人の絆を弱めるというウソ~偏見を和らげ、他人との協力を可能に~

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英雄の武器を巡って争ったギリシャ神話、今ならオークションで競売?

 一方、バルファキス氏が称える、お金を使わないやり取りは、それほどすばらしいものでしょうか。

 バルファキス氏は、トロイア戦争で戦死したギリシャ神話の英雄アキレウスの武器を巡って英雄オデュッセウスとアイアースが争った際、将軍たちの判決で敗れたアイアースは自らの命を絶ったという話を紹介します。そして、今の時代ならアキレウスの武器はオークションにかけられ、一番高い値段を示した人が手に入れるだろうと、資本主義に席巻された現代を嘆いてみせます。

 でも、それはそんなに悪いことでしょうか。もし英雄たちの世界で、争いの当事者が判決に納得しなかったら、どうなるでしょう。英雄はカネで解決することを潔しとしませんから、暴力でカタをつけるしかありません。戦争に発展すれば、本人たちだけでなく、多くの兵士や市民が巻き添えになります。

 物事をなるべくカネで解決しようとする資本主義の社会は、はなはだ世俗的で、勇壮な叙事詩にはならないかもしれません。それでも、争いごとを暴力でしか解決できない野蛮な社会に比べれば、ずっとましではないでしょうか。

 家族や友人、コミュニティーの仲間とのおカネのやり取りを伴わない助け合いは、もちろんすばらしいものです。でもそれは、おカネを仲立ちとしたやり取りと両立します。アマゾンやショッピングモールが家族や友人の絆を深める役に立つように、商業の発展は、商業以外のつながりも豊かにしてくれます。両者を対立するものと考える必要はありません。

 世の中には、親しい人どうしの助け合いだけでは解決が難しい問題もあります。重い病気を治す薬、快適で頑丈な住居、手頃で着心地の良い服……。どれも国内外の見知らぬ人たちとの協力なしに手に入れることはできないでしょう。それを可能にするのは市場経済しかありません。

 人間とは厄介なもので、身内や見知った人とは助け合う半面、見知らぬ人とは協力したがらず、敵意さえ抱きがちです。その問題を市場経済は解決してくれます。取引から取引を通じて、知らない相手とも物を売り買いし、互いに欲しい物を手に入れることができます。

 取引相手は自分と国籍や言語、宗教も違うかもしれず、ひょっとすると憎み合ってすらいるかもしれません。それにもかかわらず、市場取引では協力し合えます。日本と中国・韓国が政治問題で対立し、「反中」「反韓」が社会問題となっても、買い物や観光で来日する中韓の人々が引きも切らず、日本の店舗やホテルが彼らを快く迎えるのは、資本主義の根幹である市場経済の力を示す何よりの証拠です。

 フランスの啓蒙思想家モンテスキューはこの力に注目し、著書『法の精神』で、「商業は破壊的な偏見を癒す」と表現しました。続けて「だから我々の習俗が、かつてそうであったほど残忍でないとしても驚くにはあたらない」とも述べています。

 資本主義は、偏見と暴力が支配する残忍な習俗を和らげ、見知らぬ他人とも協力し合える文明社会を築いてきました。私たちはこの事実に対し、もっと称賛と感謝の念を抱いて良いはずです。

(木村貴)

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、プレーヤー、経営

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