変革のカギを握る「コラボレーション主導型CMO」とは

マーケティングの役割が広がる 一貫した顧客体験の提供が重要に アイ・エム・ジェイ 執行役員 山本 崇博

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 この連載では、アクセンチュアが行った海外先進企業のマーケティング責任者に対する調査リポートをもとに日本企業が取り組むべきマーケティングの変革について、4回にわたり、アイ・エム・ジェイ 執行役員の山本崇博(第1~2回担当)とアクセンチュア マネジング・ディレクターの望月良太(第3~4回担当)が考えます。

 第1回ではマーケティングに求められる役割が変化している背景について解説します。マーケティングに期待される役割はかつてないほど広がっており、企業はこれまで以上に、一貫した顧客体験を提供することが求められるようになっています。その実現を担うのがこれからのCMO(最高マーケティング責任者)の役割です。

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テクノロジーを武器に異業種から新たな競合が出現

 英国のオンライン専用銀行「タンデム(アプリを提供するタンデムマネー社、金融サービスを提供するタンデムバンク社の統合ブランド)」がノースロンドン地区にあるパブを使って一つの社会実験を行いました。パブの注文や支払いといった業務が、従来の銀行のようになったら来店客がどう感じるのか――その様子を撮影し、動画として公開したのです。

 動画は英語ですが、概略を説明するとこうです。パブに来店した顧客はまず、番号札を取って順番待ちをしますが、順番がきて注文しようとすると、担当者が違うと言われ、別の担当者を紹介されます。パブでの注文は紙に書いて行う必要があり、母親の旧姓を記入するよう求められる人もいました。お金を支払うときに追加手数料を請求されて驚く人もいます。店を出た顧客はインタビューで感想を語りますが、評価はさんざんです。

 しかし、この動画の最後に出る次のメッセージに注目してください。

 「パブでは我慢できないのに、どうしてあなたは銀行で我慢できるの?(“You wouldn’t stand for this at your pub. Why stand for this at your bank?”)」

 この動画は、金融業界の新興勢力であるタンデムが、既存の伝統的な銀行のサービスにある不便さを生活者に気づいてもらい、自社が提供するサービスの優位性を示そうとしたものですが、同じように不便なサービスがあなたの会社でも行われていないでしょうか?残念ながら、顧客視点では不便なサービスを、企業が疑いもなく行っている場合は少なくありません。

 現在ではあらゆる市場において、異業種の新興勢力が、テクノロジーを武器に顧客視点で便利なサービスをつくり切り込んできています。競合相手が、同じ業界の会社だけではなくなる傾向は、日本においても、ほとんどの業界で顕著になっています。

 そこでこの連載では、こうした大きな変化に対して、企業のマーケティング責任者、とりわけCMOがどのように立ち向かうべきなのかについて考えていきます。

商品だけでなく顧客視点で統合された「体験」がブランドを作る

 まず理解しておきたいのは、昨今のビジネスにおける「顧客体験」の重要性です。

 海外へ行くと、接客をはじめとする日本のきめ細やかなサービスはすごいとあらためて感じる場面が多々あります。そう感じるのは、日本で受けた当たり前のサービスが、知らず知らずのうちに日本人の「期待値」の基準になっているからだと言えるでしょう。日本の飲食店では、当たり前のように席へ案内され、おしぼりとお水が出てきて、ちょうど良いタイミングでオーダーを聞きに来てくれます。もし、席に案内されず放置され、席に座った後も、お水やおしぼりが出てこないと不満に感じると思います。仮にそのお店がセルフサービスの場合であっても、それを知らなければクレームをいれてしまうかもしれません。

 このように、私たちは無意識のうちに、接客をはじめとするサービスに自分の「期待値」を設定する傾向があります。そして、その「期待値」は往々にして、日々触れる当たり前のサービスから形成されます。

 先ほど説明した銀行のサービスについて考えましょう。既存の伝統的な銀行のサービスは、同じ業界における他行のサービスと比べる限り、大きな優劣がつくことはまずありません。しかし、新興勢力はテクノロジーの力を使い、一目で違いがわかるほどの差があり、簡単かつ便利なサービスを提供してきます。そして生活者がそのようなサービスを一度受けてしまえば、自ずと生活者の「期待値」は上がります。

 すると既存の伝統的な銀行はサービスの質を全く変えていなかったとしても、生活者の「期待値」が上がることで、その「期待値」に追いつけなくなり、相対的にブランド価値を下げてしまうのです。

 「モノ」消費から「コト」消費に変わってきたと、色々な書籍やセミナーでも当たり前のように語られる時代になりましたが、それは商品自体とともに、それらを取り巻くサービスへの「期待値」に応えることができる「顧客体験」が重要になったという意味です。

 では企業は、どのような「コト」、言い換えれば、どのような「顧客体験」を提供すべきなのでしょうか?

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