この連載では、村上芽氏が著した『少子化する世界』(日本経済新聞出版社)から少子化に関する世界各地の現状を報告する。2100年までの世界人口推計データを眺めると、少子化は一部の国で進み、平均寿命の延びとともに世界へ広がっていく。現在は若年層が多い途上国も、経済成長とともに高齢者が増え、人口構成は高齢化・少子化するという。第1回では、地域別に少子化の現状をみてみる。
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少子化という問題意識
少子化(低出生率)が社会的課題として認識されているのは、現時点では高所得国に限られる。なぜなら、世界の傾向として寿命が延びて高齢者が増えるといっても、世界全体でならせば今世紀後半に起こってくる、先の話になる。もう少し手前の近い未来、今から11年先の2030年の予測では*1、世界の出生率は、2.39までしか下がらない。アフリカで4.43が3.90に下がり、アジアで2.15が2.06に下がるだけである。
*1 国連「世界人口予測・2017年改訂版」
いまだに出生率の高いアフリカを中心とした国々にとっては、こうした低下傾向も必ずしも「確実」とはいえない。出生率が下がる背景には、女性や夫婦にとって希望どおりの家族の人数を持てること、計画的な人生を歩めることなどがある。乳幼児の死亡率が下がれば、数多く産むことで家族の規模や労働力を確保しようとすることもなくなる。出生率云々という前に、そもそも生まれてきたのに早く死んでしまう子を減らす(5歳未満の死亡率を減らす)ことが、最重視されている。
こうした傾向は、2030年を目標年に置いた、世界共通の目標の置き方にも表れている。この共通目標のことを「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」という。逆にいうと、乳幼児死亡率などの課題が解決された場合、これまでの世界の開発・発展の歴史に照らせば、出生率は低下していくはずだと考えられており、一定ラインでキープしようという発想は途上国(特に最貧国)にはない。低出生率は全世界の課題ではないということである。