病を乗り越えて

仕事で大切な3つのキョウ 度胸・愛嬌そして… サッポロビール人事部プランニング・ディレクター 村本高史

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 今年も新入社員がやってきた。各部署に配属された様子はぎこちないが、安心感と希望に満ちあふれている。街なかにはリクルートスーツの若者も目につく。こちらはスマホを見る表情がどこか不安げだ。世間では、新卒一括採用なんてナンセンスだという声もある。ただ、新人が入ってくると、誰しもフレッシュな気分になるのは確かだろう。いつまでも最初の気持ちを大事にしてほしい。そう願う自分はあの頃、どうだったのか。

偶然の出会いを積み重ねて

 33年前、真夏に就職活動をしていた。学生時代は映画館に通い詰め、好き放題に過ごしていた。飽き足らず、8mmフィルムで友人と映画もつくったりした。それが4年生にもなると、早く次のステージに行きたい気持ちが芽生え始める。広告ブームで、コピーライターという職業が脚光を浴びていた時代だ。趣味の延長で、表現するものをつくる仕事に憧れた。就職するなら広告代理店。トップと戦う2番手以下がよい。

 のんびりした活動の途中にふと思う。自分でつくったものを人に勧める仕事も面白いのでは。そうであれば、自分の好きなものでないと、自信をもってお勧めできない。商品開発や広告宣伝ができれば。ビールやウイスキーの会社を3社回った。やはり2番手以下の会社だ。

 当時、北海道、本州・四国、九州と麦芽100%ビールをエリア毎に発売していたのがサッポロビール。面白いマーケティングだと感じていた。訪問した先で、大学の先輩から興味深いことを聞く。「恵比寿工場の跡地を再開発するんですよ」。この会社でいろいろなことができそうだと心が動いた。

 採用面接の日、陽気そうな面接官が質問した。「あなたのセールスポイントは何ですか」。待ってましたとばかり、まくしたてる。「物事を多面的に見られるところです。その証拠に趣味の映画では、つくった側の意図も考えて鑑賞し、もう1つの趣味の競馬では、走らせる側の意図も踏まえて予想します」。そんなことを言ってみた。面接官が切り返す。「競馬は当たりますか」。「いえ、当たりません」との返答に、面接官が爆笑した。その瞬間、「何だかいい会社だ」と確信した。裏表のまったくなさそうな雰囲気から、楽しさや温かさが伝わってきた。一瞬かもしれないし、偶然かもしれない。しかし、それが運命を分ける。面接の風景を懐かしく思い出す。

 ステップは順調に進み、迎えた秋の内定式。体育会系の学生も多そうだ。自分はバリバリの文化系、少し引け目を感じた。懇親会が終わった後、十数人での2次会にも繰り出すが、楽しくやりつつも周囲の元気さに不安は徐々に大きくなる。自分は大丈夫だろうか。本社があった銀座の街から霞ヶ関を抜け、自問自答しながら1時間半ほど歩き続けた。

 たどり着いたのは、行きつけだったコーヒー店。他愛のない話をしているうちに、頭に浮かんだ。「まあ、いいか」。何とかなるのかもしれないな。肩の力が抜け、落ち着きを取り戻した。

 無事入社して配属されたのは、東京支社の営業企画部。配属を言われた瞬間、入社前に初めて会った先輩の言葉を思い出した。「商品開発や宣伝をやりたいなら、最初に支社の営業企画をやるといいですよ」。何をやるかのイメージは沸かなかったが、よかったかなと思った。

 仕事は、お酒の販売免許を持つスーパーやコンビニエンスストアがまだ少ない時代、東京都内のお酒屋さんや飲食店向けの販促企画等。25名程の半数を占める事務担当の女性が支え、叩き上げの男性も多かった。3年上の豪快な先輩のサブに就き、配属直後から連日遅くまでの残業。「おまえなあ…」と時にはあきれられ、時には大声で笑われたりする一方で、意見も聞いてくれ、少しずつ仕事を任された。夜も深まった銀座駅の改札で、「明日も楽しく遊びましょう」と大声で言い合い、先輩と別れるのが常だった。

 職場で誰が待ち受けているかは運命に委ねるしかない。「適材適所」なのか、あるいは自社で言う「適所適材」、すなわち配属された場所で適材に成長していくべきなのか、両論あるだろう。いずれにせよ、出会った縁に支えられ、人は成長していく。厳しくも温かい日々の中、順調な社会人生活がスタートできたからこそ、現在の自分がある。

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