ロジスティクス4.0 物流の創造的革新

アマゾンの圧倒的な「顧客情報」がもたらすサプライチェーンの最適化 ローランド・ベルガー プリンシパル 小野塚 征志

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アマゾン=現代のローマ

 アマゾンの創業者であり、現在もCEOとして同社の経営を舵取りしているジェフ・ベゾス(Jeffrey Preston Bezos)は、「アマゾンはロジスティクス・カンパニーである」と公言しています。しかしながら、「ロジスティクス・カンパニー=物流会社」と考えると、アマゾンの戦略を見誤ります。ロジスティクスの語源は「兵站(へいたん)」です。企業活動でいえば、物流も含めたサプライチェーン全体を兵站と捉えるべきでしょう。

 EC事業のために投資したアセットを兵站として徹底的に使い倒す。それは、「サーバーシステム」であり、「物流ネットワーク」であるわけですが、もう1つ、アマゾンが他社にはない規模のアセットを有しているものがあります。それは「顧客情報」です。

 アマゾンほど、「誰が何を買ったのか」という情報を蓄積できている企業はありません。多種多様な商材を幅広く取り扱っているがゆえに、特定個人の購買傾向を把握することも可能です。一般の小売事業者では知り得ないメールアドレスや住所といった個人情報も蓄積し、注文を得るたびにアップデートされています。アマゾンは、ワン・トゥ・ワンマーケティングの実現に最も近いところにいるわけです。

 ただ、そのアマゾンにしても、「アマゾンを利用したとき」以外の情報を把握することは困難です。「買った人」はわかっても、「買うまでのプロセス」や「結果的に買わなかった人」はトレースできません。ワン・トゥ・ワンマーケティングを真に成立させるためには、「リアルな世界での顧客の動きを追跡し、アマゾンが蓄積した個人情報と紐付けること」が必要となります。だからこそ、スマートスピーカーのアマゾン・エコーを販売し、無人コンビニのアマゾン・ゴーを出店したのです。バーチャルとリアルの情報を融合できれば、ユーザーに対しておすすめの商品を提案するレコメンデーション機能の的確性を高められるだけではなく、より魅力的なプライベートブランド商品を開発できるようになります。EC事業の更なる進化と成長を実現するためには、「顧客情報」のなお一層の充実を図るための戦略的な投資が必要なのです。

 将来、「顧客情報」を十分に蓄積できたとき、自社と競合しないメーカーや広告代理店などに、ワン・トゥ・ワンマーケティングを実現するためのデータプラットフォームサービスを提供するようになるのかもしれません。あるいは、それこそがアマゾンの本当の目的なのでしょう。

 古代、地中海に覇を唱えたローマは「兵站で勝つ」といわれていましたが、アマゾンは「現代のローマ」といえるのではないでしょうか。先行者として戦略的な投資を実行し、顧客からの要望に広く対応することで、その世界で最大のシェアを獲得する。サプライチェーンの最適化に必要な兵站をインフラ的に提供する「ロジスティクス・カンパニー」なのです。「サーバーシステム」も、「物流ネットワーク」も、「顧客情報」も、アマゾンの提供する「ロジスティクス・サービス」のメニューと考えるべきです。

 アマゾンは、創業以来、売上を着実に拡大し、2017年12月期には1700億ドルを超えるに至りました。直近5年間の年平均成長率は24%と、この規模の企業としては突出して高い水準にあります。他方、純利益率はわずか1.7%です。過去には赤字になる年もありました(図表2-4)。そして、創業から現在に至るまで一度として配当で利益を還元したことはありません。なぜなら、「利益になったはずの資金を常に事業の未来に再投資しているから」です。兵站をインフラとして確立するまでに必要な戦略的投資を愚直に実行し続けられることこそ、アマゾンの真なる強みといえるでしょう。

小野塚 征志 著 『ロジスティクス4.0 物流の創造的革新 (日経文庫)』(日本経済新聞出版社、2019年)、「第5章 物流ビジネスでの新たな事業機会」から
小野塚 征志(おのづか・まさし)
ローランド・ベルガー プリンシパル
経済産業省MaaS研究会Logitech分科会常任委員
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て、2007年に欧州系戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーに参画。2015年より現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等をはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、営業、製造、プレーヤー、イノベーション、AI、IoT、ICT

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