郷原弁護士のコンプライアンス指南塾

システム発注を巡る「二つの刑事事件」と公共調達コンプライアンス 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 これら二つの事件を比較すると、それぞれにおける罰則適用が、公共調達の実態に即して適切に行われているとはとても見えない。

 国循事件では、K氏とD社の「癒着・腐敗」はなかった。検察官は、一審論告で、犯行動機について「D社の能力を評価していた被告人Kにおいて、優秀な業者が落札できるようにして、国循の情報システムをより良いものにしたいという動機」などと述べているが、その程度だ。

 また、公庫の事件は約40億円のシステム開発に関するものであるのに対して、国循の事件は年間2億円余りのシステム運用保守業務に関するものである。K氏の行為が、官製談合防止法違反の「入札等の公正を害する行為」に該当するか否かも疑問で、該当するとしても、刑事処罰の対象とは考えられない。それに対して、少なくとも公庫のB氏、C氏の行為については、犯罪成立に疑問の余地はなく、委嘱契約によって公庫の発注に関わっていたA氏についても、「職員」ではないので官製談合防止法は適用されないが、刑法の公契約入札妨害罪の適用余地がある。

 さらに、動機の面でも、どう見ても、公庫の事件より、国循事件のK氏の方が、競争条件を対等化するための、発注の効率化・合理化が目的だったという面で酌量(しゃくりょう)の余地がある。ところが、K氏は、逮捕・起訴され、一審判決では、執行猶予付きとは言え「懲役刑」に処せられ、公庫の職員B氏、C氏は、書類送検されたあと略式命令で罰金刑。A氏に至っては刑事立件すらされていない。

官製談合防止法の罰則適用を巡る「重大な問題」

 以上のように、国循と公庫の事件を比較すると、同じ法律の罰則適用でありながら、明らかに不合理で極端な差が生じている。それは一つに、検察が独自の判断で強制捜査に着手した国循事件と異なり、公庫の事件は、F社の社内調査で明らかになり、公庫を通じて、警察に持ち込まれた事件であるという、捜査機関側の姿勢に相違があるからであろう。

 しかし、そのような捜査機関側の都合や事情で、同様の行為に対する同じ法令による罰則の適用が異なるというのは、処罰を受ける方も納得できないし、官製談合防止法のルールを著しく歪めることになってしまう。

 国、自治体、公法人等の調達においては、目的に即した合理性、効率性とともに、手続きの透明性・公平性という公共調達特有の要請にも応えていくことが求められる。「公の入札等の公正」とは何か、それを「害する」とは、どういうことなのか、法の趣旨・目的に沿って正しく理解され、統一的な運用が行われることが「公共調達コンプライアンス」を機能させていく上で不可欠だ。

郷原 信郎(ごうはら のぶお)
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2003年から桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。2004年法務省法務総合研究所総括研究官兼教官。2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授、コンプライアンス研究センター長。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2014年関西大学客員教授。現在、公職として、国土交通省公正入札調査会議委員、横浜市コンプライアンス顧問を務めている。

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。