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システム発注を巡る「二つの刑事事件」と公共調達コンプライアンス 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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国循事件の摘発の経緯と「特捜部の誤算」

 では、前述した二つの事件の疑問点について説明しよう。

 まず国循事件の概要から述べる。平成26年2月、大阪地検特捜部が、公契約関係競売等妨害罪等の容疑で、国循およびD社の強制捜査に着手した。同特捜部の意図は、両者間の贈収賄事件等の立件を意図していた可能性が高いが、K氏とD社の間には、業務外の個人的な関係があるわけではなく、問題にされるような金銭の授受も、接待供応の事実もなかった。「特捜部の誤算」だった。

 しかし、同年11月、K氏はD社社長とともに、官製談合防止法違反等の事実で逮捕・起訴された。

 「公の入札等の公正を害すべき行為」に当たるとされて起訴された事実の一つは、医療情報部長としてK氏が国循におけるシステムの運用保守業務に関して、「D社が初めて入札に参加した際、業務の体制表をメールでD社に送付した行為」だった。しかし、長年、同業務を独占していたN社の業務体制に関する情報をD社側に提供したというもので、既存業者と新規参入業者との間の競争条件を対等にする目的であったことは明らかだ。そのような行為は、正しい手続きの下でなされていれば、競争条件を整えるための財務会計法令上、むしろ推奨されるべき行為と言うべきもので、「手続上・形式上」の違反に過ぎなかった。

 「D社受注の翌年の入札で仕様書に新たな条項を加えた行為」も起訴事実とされた。K氏が、「システムの効率化と充実化にとって合理的な条件を設定した」と主張したのに対して、検察官は「最低価格落札方式で実施する以上、設定される条件は必要最小限でなければならず、それを超える品質を求める場合、参加要件自体は最低限のものとした上で、プレゼン方式で評価していけばよい」と主張した。一審判決は、検察官の主張を「丸呑み」し、K氏は、その事実も含めて有罪とされた。

 しかし、公共調達の目的を達するためには、発注者の合理的な裁量に基づく判断が必要となるのは当然だ。発注者側が品質や利便性を重視すれば、それに伴って、入札において品質・利便性の高い商品・サービスを供給する業者が相対的に有利となるのは、当たり前のことであり、それは、最低価格自動落札であろうと、総合評価であろうと何ら異なるところはない。このような行為が「公の入札等の公正を害する行為」に該当し「官製談合防止法違反」になるということになると、日本中で行われている公共調達に重大な影響が生じることになる。

 このように、国循事件については、そもそも、官製談合防止法違反の刑事事件として取り上げること自体が疑問なところばかりだ。

公庫を巡る情報漏洩事件の該当と国循事件との比較

 次に公庫を巡る事件であるが、調査報告書によると問題点は二つある。一つは、同公庫と委嘱契約を締結し、同公庫が開発を行うシステムの入札において、担当部署が作成する仕様書の作成並びに技術点評価への助言等を担当していたA氏が、F社が落札できるようにするため、同社のみに対して提案のポイントを伝えて、同社が高い技術点を得て落札できるように提案書作成を援助した(他の応札参加業者にはかかる情報の伝達や援助を行っていなかったこともあり、F社は他社よりも高い技術点評価を得て、技術点において優位に立った)というもの。もう一つは、応札参加業者との折衝・入札仕様書の作成・技術点評価の評価案の作成等を担当していた同公庫の職員B氏、C氏が、同システムの入札において、予定価格算定の基礎となる価格を伝え、入札に関する秘密を教示した(その結果、F社は、同システムの入札において、予定価格を推測でき、不当に、より高額で入札・受注することが可能になった)というものだ。

 このうち、B氏、C氏は官製談合防止法違反で書類送検され、4月上旬に、同法違反で略式起訴され、罰金刑を受けたが、A氏は送検も起訴もされていない。

 少なくとも、この事件では入札手続きにおいて、特定の業者を有利にすること自体を目的にして、提案書の作成援助や予定価格に関する情報を伝えるというような行為が行われたのであり、それは「競争条件の平等化」「システムの効率化と充実化」というような発注者にとっての調達目的実現のための行為ではない。

 また、調査報告書によると、A氏は、F社に対して、かねてから関わりがあったZ社をF社の再委託先とするよう求めたり、F社の費用負担で頻繁に会食をしたりしていたという。

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