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システム発注を巡る「二つの刑事事件」と公共調達コンプライアンス 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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 公的機関における情報システムの発注を巡って、「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」(いわゆる「官製談合防止法」)の罰則が適用された事件が二つある。

 一つは、大阪地検特捜部が、国立循環器病研究センター(以下、「国循」)の医療情報部長K氏並びに入札したD社を官製談合防止法違反で逮捕・起訴した「国循事件」。もう一つは、日本政策金融公庫(以下、「公庫」)の業務システム開発の入札に関連して発生した情報漏洩事件だ。

 国循事件は、大阪地検特捜部が、証拠改ざん問題等の不祥事後に初めて手掛けた本格的な「検察独自捜査」である。2018年3月16日、K氏には懲役2年執行猶予4年の一審有罪判決が言い渡され、K氏は控訴している。一方、公庫の事件は、大手ベンダーF社の内部調査で問題が明らかになり、同社から報告を受けた公庫が調査委員会を設置し、4月17日に、調査報告書が公表された。

 官製談合防止法は、公的機関の調達に関して、契約担当者だけではなく、業者との取引に関係する者すべてに適用される可能性がある法律だ。しかし、上記二つの事件をそれぞれ見ると、罰則適用が、公共調達の実態に即して適切に行われているのか疑問がある。

官製談合防止法の立法経緯と摘発の対象

 そもそも官製談合防止法は、「ゼネコン汚職」など、1990年代の公共工事を巡る政官財の癒着構造を背景にする事件の多発を受けて2002年に議員立法で制定された。当初は刑事罰則がなく、公正取引委員会の行政省庁に対する指導等にとどまるものだったが、旧日本道路公団等、相次ぐ官製談合事件を受けて、2006年に再び議員立法により改正され、刑事罰則が盛り込まれることとなった。

 同法第8条は以下のように規定され、罰則が定められている。

 職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆(そそのか)すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。

 公共調達全体に非公式システムとしての「談合」が蔓延(まんえん)・恒常化(こうじょうか)していた時代には、発注者が、「談合」によって「受注予定者」とされた業者に「予定価格」を教示し、有利な価格で受注させる行為が、しばしば刑法による入札妨害罪の刑事事件となった。「事業者その他の者に談合を唆すこと」「予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること」などは、そのような行為が、「官製談合関与行為」の典型として具体的に規定されたものだ。

 しかし、2006年に、大手ゼネコンの「談合決別宣言」が行われて以降、公共調達を巡る状況は大きく変わった。その後の官製談合防止法による摘発対象は、発注者側の職員が業者間の「談合」に関わるのではなく、入札参加業者の中の「競争」の中で、特定の業者を有利にするための情報を業者に教えるという事案がほとんどとなった。業者間の競争が激化してダンピング合戦になっている状況での発注者側から特定の業者への「最低制限価格」の漏洩が典型だ。最低制限価格と同額で入札できれば、それを下回る入札は失格となるので、落札の可能性が高まる。官製談合防止法は、本来、こうした「癒着・腐敗」型の入札不正がそのターゲットだったはずだ。しかし、「入札等の公正を害すべき行為」という規定の文言が抽象的なので、その解釈如何では、様々な行為が犯罪に該当し得るということになる。

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