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許容されていると誤信したセクハラで懲戒されるか 弁護士 丸尾拓養

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 セクハラの成立には、相手方の「意思に反する」ことが必要でしょうか。また、相手方の「意思に反する」ものではないと誤信していたときや誤信していたと主張したときは、セクハラを理由に懲戒や処分ができないのでしょうか。そもそもセクハラを行った者はなぜ会社で懲戒などをされるのでしょうか。

「職場において行われる性的な言動」に事業主は措置を講じる

 セクシュアルハラスメント(「セクハラ」)の事案で、「加害者」と「被害者」という表現が使われることがあります。しかし、事案が発覚した段階では、特に事業主として措置を講ずべき立場からは、中立的な見地で、「相談者」と「行為者」という表現を使ったほうが適切でしょう。男女雇用機会均等法(「均等法」)に基づくいわゆるセクハラ指針でも、この表現が用いられています。事実確認の当初は「行為者とされた者」という方がより適切でしょう。

 均等法の条文は、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」となっています。均等法のセクシュアルハラスメントは「職場において」行われたものに限られます。「職場において」ではないからといって性的言動が許容されるものではありませんが、それは均等法の「セクシュアルハラスメント」には該当しないという点は知っておいたほうがいいでしょう。「職場において」ではない性的言動は、法的には「セクシュアルハラスメント」ではないものの、不適切な言動として懲戒等の対象となることがあります。

 「意思に反して」の要件は、均等法の「職場において行われる性的な言動」という規定に明示的には書かれていません。もちろん、法解釈として「性的な言動」を限定的に解して、「意思に反する性的言動」に限り事業主に措置を講じることを求めるとも考えられます。法制定時には、同意を得ての肩もみは意思に反しないから「性的な言動」ではないとの説明がなされることがありました。しかし、そもそも肩もみは「性的な言動」ではないのかもしれません。一方で、同一の会社に勤務する恋愛関係や婚姻関係にある者が職場でイチャイチャすることは許容されるものではないでしょう。

 人事院が策定した「懲戒処分の指針について」(最終改正: 平成30年9月7日)では、セクハラに関して、「相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動を繰り返した職員は、停職又は減給とする。」とされています。「相手の意に反することを認識の上で」とあるので、認識しない場合には懲戒できないことになりそうです。また、「意思に反するとは思わなかった」と誤信していたと主張した場合、懲戒する側が「相手の意に反することを認識の上で」であったことを主張立証しなければなりません。ただし、これはあくまでも懲戒という場面に関するものであり、人事院のセクハラ一般の定義とは異なります。

セクハラで「意思に反して」を重視しなくなってきた

 しかしながら、最近の最高裁の判決は、この「意思に反して」を重視しない考え方を示しています。平成27年2月の最高裁判決は、女性従業員に「極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどした」男性管理職2名に対する30日と10日の懲戒処分、マネージャーまたは課長補佐から係長への降格処分をいずれも有効としました。この事案で、高裁判決は、「(相手方の女性から)明白な拒否の姿勢を示されておらず, 本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していた」としてこれらの処分を無効としました。しかし、最高裁判決は、「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられること」と本件各行為の内容等に照らして、「仮に上記のような事情があったとしても(中略)有利にしんしゃくすることは相当ではない」と判断しました。

 これに類した最高裁の判断は続きます。平成30年11月の最高裁判決は、勤務時間中に 訪れたコンビニエンスストアにおいて女性従業員にわいせつな行為等をした市職員に対する停職6月の懲戒処分を適法としました。控訴審判決は「身体的接触について渋々ながらも同意していた」などとして、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くとしていました。しかし、最高裁判決は、「コンビニエンスストアの客と店員の関係にすぎないから,本件従業員が終始笑顔で行動し,被上告人による身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは,客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり,身体的接触についての同意があったとして,これを被上告人(注:市職員)に有利に評価することは相当でない」としました。

 平成27年判決の事案の就業規則も、同30年判決の事案の地方公務員法も、いずれも「意思に反して」は懲戒事由に含まれていませんでした。このため、誤信したこと、または「渋々ながらも同意していた」ことは懲戒事由該当性そのものではなく、被処分者に有利に働くか否かという点で問題となりました。人事院の指針をそのままに「相手の意に反することを認識の上で」と懲戒事由に規定していた場合は、これらの最高裁判決とは異なる判断となる余地もあります。しかしながら、平成29年の最高裁の大法廷判決は、強制わいせつ罪について、「故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである」と判断しています。先に挙げた平成28年及び同30年の懲戒処分に関する最高裁判決は、「加害者」の認識を重視しない点で、この大法廷判決と共通しています。

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