小さなサービス産業の高付加価値経営

サービス産業の「生産性革命」を探る 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 藤田 一郎氏

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 サービスを客観的に評価してもらうという点では、消費者の口コミも重要な要素です。インターネット上には商品やサービスの使い勝手をレビューするサイトや、購入した店舗の応対を評価するサイトが多数あります。今や商品やサービスを購入する前には、こうしたレビューを確認するのが当然の時代です。サービスの提供側はときに耳の痛い評価をされることもありますが、優れたサービスを提供してポジティブな評価を集めれば、顧客の力を借りたブランド化を実現することもできます。

 「山谷産業」(新潟県三条市)は、「村の鍛冶屋」というネットショップでアウトドア用品やキッチン用品を販売しています。類似の商品を販売する店がたくさんあるなか、村の鍛冶屋は独自の企画商品で知名度を高めてきました。2013年に発売したペグ「エリッゼステーク」は、キャンプ上級者である同社専務のこだわりが詰まっており、同じレベルのキャンパーたちの心をわしづかみにしました。彼ら彼女らが実際にキャンプ場で使うと、たまたま居合わせたほかのキャンパーも購入するようになり、さらにネット上で高い評価をすると、キャンプ初心者が購入に至る。こうして「村の鍛冶屋」のブランドはじわじわと広がっていきました。

 同社のブランド化を後押ししたのはリードユーザーと呼ばれる人たちでした。リードユーザーとは、一般消費者に比べて製品への関心や使用頻度が高い消費者のこと。製品やサービスを見る目は厳しいですが、だからこそ得られた高評価はプラスのシグナルとなって、一般消費者に訴求していくのです。

 二つ目のポイントは「要素間の連動」です。根来龍之・早稲田大学ビジネススクール教授は、自社内のさまざまなサービス、つまり要素をつなぎ合わせて相互依存性を高めていくと、サービスの模倣困難性が高まると指摘しています。

 「ルーフコーポレーション」は、毎年1回、三重県鈴鹿市にあるサーキット場で顧客を招いた無料イベント「KUHLミーティング」を開催しています。開催費用は自社負担なので単体でみた収益はマイナスですが、客同士が交流することで購買意欲を互いに刺激し合うため、次の販売機会につながっています。トータルでみると、収益にはプラスというわけです。

 収益アップには一見無縁と思える取り組みが、ブランドのもつ力を最大限引き出す要素として機能します。複数の要素を巧妙に連動させて全体のビジネスを回せれば、他社はまねしにくくなります。こうしたビジネスを組み立てられるかどうかが、フロントランナーの条件といえそうです。

 三つ目のポイントは「絶え間ない改善」です。ここまで紹介してきた企業の経営者のお話からは、優れたサービスであってもけっして独りよがりにならず、顧客の声に耳を傾けながら改善に取り組んでいることがうかがえました。もっとも、顧客のニーズは満たせても、業績に好影響がなければ元も子もありません。費用対効果の見極めが大切です。

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 労働生産性とは企業が生み出した付加価値額を労働投入量で除したものです。したがって、企業は分母(労働投入量)を減らすか、分子(付加価値額)を増やすかができれば、労働生産性を高めることができます。もっとも、前者は身を削る経営と言い換えてもよいかもしれません。限られた経営資源をフル活用して事業を営んでいる小さな企業にのりしろは残されていません。

 ITシステムの導入などで効率化を図る方法もありますが、投資負担を考えると効果の見極めは容易ではありません。だとすれば、小さなサービス産業では、分子である付加価値額を増やすことが、生産性向上の第一の選択肢となるはずです。身を削るのではなく、経営者一人ひとりがたくましい商才を発揮して稼ぐ経営へ舵を切ったとき、真の生産性革命が始まるのではないでしょうか。

<参考文献>

根来龍之(2014)『事業創造のロジック』日経BP社

※本連載は、日本政策金融公庫総合研究所編『サービス産業の革命児たち―低生産性の呪縛に打ち克つ―』(同友館、2018年)の一部を抜粋・再編集したものです。(https://www.doyukan.co.jp/store/item_053641.html)
藤田 一郎(ふじた・いちろう) 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員。2005年慶應義塾大学経済学部卒業後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)入庫。近年は中小企業の経営や創業に関する調査・研究に従事。最近の著書に『躍動する新規開業企業-パネルデータでみる時系列変化―』(共著、勁草書房、2018年)がある

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