小さなサービス産業の高付加価値経営

サービス産業の「生産性革命」を探る 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 藤田 一郎氏

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 デザート専門店の「Lapin.doux」(東京都世田谷区)は、ひときわ斬新な飲食スタイルで人気のお店です。店内にはカウンター席が六つあり、オーナーシェフが客の前で調理します。デザートを美しく盛りつけていくプロセスを間近で楽しめることは、他店にはない大きな特徴です。コース料理のみの提供で価格も7,500円とけっして安くはありませんが、「提供する」プロセスで差別化を図ったことで、予約がめったに取れないレストランになりました。

 他方、「受け取る」プロセスで差別化を実現しているのが「ハーツ」(東京都品川区)です。同社は30分単位で利用できる運転手付きトラックのレンタルサービス「レントラ便」を手がけています。サービスの内容は物を運ぶことですから、引っ越し業者や運送業者とそう変わりません。ユニークなのは利用時間で料金が決まる仕組みです。例えば引っ越しの場合、移動する距離の長短や要する時間にかかわらず一律の料金体系で見積もることが一般的でした。他方、レントラ便は時間単位の料金体系ですから、近距離利用の場合は特にコストパフォーマンスが高まりやすいのです。引っ越しサービスとレンタカーの長所を合わせたサービスはその利便性の高さから、近隣へ転居する若者や、学生のサークル活動などを中心にユーザーを増やしています。

高付加価値を生み出すアイデアの源泉

 小さなサービス産業が生産性を高めるためには差別化の視点が不可欠とはいえ、なかなかアイデアが浮かんでこないことも多いでしょう。事例企業の取り組みからアイデアの源泉を探ると、「経験を生かす」「趣味や興味を追求する」「他業界や海外企業の手法をアレンジする」ことでアイデアを「発見」しているようです。

 「Lapin.doux」は、勤務時代の経験が高付加価値サービスにつながった好例です。オーナーシェフは開業するまでは、都内の高級フレンチ店のパティシエでした。コースを締めくくる甘い一皿で客の舌と心を満たす仕事にやりがいを感じていましたが、大店舗だったため厨房とホールが離れており、食事の様子を見られない点が不満だったそうです。この経験から、料理で感動を提供する瞬間を客と分かち合いたいと思い、カウンタースタイルにたどり着きました。

 普段、仕事をするなかで気づいたことや不満などは新たなサービスの源泉になります。些細なことと受け流すのではなく、とことん考えてみる姿勢が大切といえそうです。

 他方、「LUXURY FLIGHT」の社長は根っからの飛行機マニアで、サービスの随所に飛行機愛を感じ取ることができます。その典型例が「ファーストオフィサーコース」です。これは同社の施設で訓練を重ねて副操縦士や機長を目指すという、「本気で遊ぶ」をコンセプトにした独自の試験制度です。航空会社が実際に行うテストに近いクオリティーを実現しており、合格を目指して通うマニアが多くいます。

 このケースから読み取れるのは、経営者の個性ともいえる要素を磨き前面に押し出すこともまた、高付加価値の源泉になり得るということです。経営者の顔が前面に出やすい、小さな企業ならではの取り組みともいえるでしょう。

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