「令和」の時代を考える

「お札に渋沢栄一」61年ぶりの復活当選 「紙幣肖像の近現代史」から(上)

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

技術革新でヒゲと頭髪は肖像に必要なく

 ――「チ―37号事件」が新札発行を急がせたのですね。

 「62年8月の段階で翌63年内に新千円券の発行が決まり、大蔵省・日銀関係者で細目の検討が極秘に進められました。候補者の写真や肖像画の有無、人物の適格性や偽造防止計画などです。事務局の段階では明治天皇、伊藤博文、岩倉具視、野口英世、渋沢栄一、内村鑑三、夏目漱石、西周、和気清麻呂の9人が選ばれ、最後は伊藤と渋沢の二択になりました」

 ――最後に伊藤になった決め手は何だったのでしょうか。

 「現場の責任者だった大蔵省(現・財務省)理財局総務課長のコメントが残っています。(1)文化人は若い年齢層には人気が高いが、銀行券にふさわしい重々しさの点で政治家に劣る(2)人間としては批判があっても国内外で有名であり、紙幣に向く荘重な風貌の伊藤博文がふさわしい(3)渋沢栄一は有力候補に違いないが、それほど一般的でなく、容貌もお札向きではない(4)明治天皇は荘重なお姿ではあるが軍服姿ばかりで新憲法下ではどうか――といった内容でした」

 ――渋沢の顔はお札向きではないのですか。

 「昔は精緻な写真製版技術がなかったことから、紙幣の肖像にふさわしい人物は、口ヒゲやあごひげが豊かで、顔に凹凸があり個性豊かな容貌がふさわしいとされていました」

 「伊藤は、当時では再現が難しい細画線の豊かなひげを蓄えていたこと、比較的個性のある彫りの深い容貌であることが決め手になったのでしょう。渋沢にはヒゲを蓄える習慣がありませんでした」

 ――24年発行の新札でも北里柴三郎にはヒゲがありますね。

 「しかし今日では、技術革新が急ピッチで進んで日本の偽造防止技術は世界最高レベルに達しており、頭髪やひげで選考するよりも人物優先です。24年には新たに高精細なすき入れ模様を導入する上、最先端技術を駆使したホログラムも活用することになっています」

 「人物肖像を決定する際には偽造防止の観点から、まずなるべく精緻な肖像写真を入手できることが必要です。国民が毎日使用することから、紙幣にふさわしい品格や容易に特定の人物と識別できること、子供から大人まで広く各層に知られていること、国際的にも知名度があることなどが大切な選定条件になっています」

(聞き手は松本治人)

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。