ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの挑戦

令和の新アトラクション USJ「シング」誕生秘話 USJマーケティング・ディレクター 兼 個人投資家 秋山 哲

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シングの世界は、絆と夢があふれている

 映画のシングは、さまざまな問題を抱えているさまざまな生き物たちが、時にくじけそうになりながらも仲間と一緒に問題を乗り越えて、ともに夢を見る世界を表現しています。夢はあるけど借金に追われているコアラの劇場支配人のバスター。恋人とうまくいかず恋にやぶれたヤマアラシのギタリスト、アッシュ。類まれな歌唱力があるものの、極度のあがり症で自分に自信が持てない象のミーナ。多くの子どもたちの面倒、家事、仕事に追われ、仕事でいつも疲れている夫との会話もなく、常に自分の時間がない豚の母親、ロジータ。ギャング一家に生まれ、厳しい父親の元でいやいやながらも強盗や窃盗の手伝いをしているゴリラのジョニー。人前に出ることは全く気にしないものの太っちょな豚、ダンサー兼シンガーのグンター。 

 こうした問題を抱えている生き物たちには、音楽が好きという共通点があります。そして、音楽でステージに立つという夢もあります。彼らは、オーディションを通じて知り合い、それぞれが抱えている問題を乗り越えるために励まし合い、七転八起しながらも、最終的に観客がほとんどいない路上脇のおんぼろな劇場でライブをすることになります。ライブを開始すると街の生き物たちは素晴らしい音楽を聞きつけ、会場を埋め尽くすほどに集まり、最終的にメンバーも観客も一体になって、ありのままに「SHAKE IT OFF」などの大ヒット・ナンバーを通じて大熱狂します。

 このようにシングには、仲間同士やオーディエンスとの「絆」があり、好きな音楽でステージに立つという「夢」があります。私たちが「全ての人と一緒に夢を見られるアトラクション」に最もふさわしいテーマは映画「SING/シング」であると決めたのはこうした背景からです。

「ホンモノ、来日。」に込めた私たちの想い

 私たちのアトラクション「シング・オン・ツアー」は、前述したとおり映画「SING/シング」の世界を完全再現しています。生き物たち、音楽、演出、ステージ、劇場などをユニバーサル・スタジオが持つ最新特殊技術を駆使して実現したものです。こうした最新特殊技術によって、同じ空間で、同じ時間を過ごす全ての生き物とゲストが、一瞬にして同じ気持ちになれる体験を提供します。これは、「ホンモノ」のエンターテイメントによってのみ味わえる熱狂であり、生き物たちや会場のゲストとともに世界的大ヒット・ナンバーを一緒に歌い飛ばすことによってのみ生じる前向きな気持ちです。

 私たちは、次の時代の中で人々が問題を抱えながらも明るい気持ちで前向きに生きていくために、絆と夢があふれる時代にするために、こうした体験価値と私たちの想いを「ホンモノ、来日。」というキャッチ・コピーに込めています。

 「シング・オン・ツアー」の開発とマーケティングは、国内外からとても多くのスタッフが携わりました。紙面の都合上、スタッフを全員紹介するのは不可能ですが、開発に携わった主要メンバーの中から3人、「シング・オン・ツアー」に対するコメントを紹介します。


 最初に、ショー開発の演出を担当したプロデューサーのデイミアン・グレイです。

「このアトラクションは、シングの世界に没入できてジェット・コースターよりも熱狂できるアトラクションです。もちろん、シングの映画を見ていない方でも楽しめます。大ヒット・ナンバーを歌っているゴリラや豚なんて見たことありますか(笑)。

 私がお薦めする必見ポイントは、アッシュが魂を込めて演奏するギターのパート。そして、空間全体が最高潮になるクライマックスです」

 次に、プロジェクトの統括リーダーを務めたマーケターの富岡真理からの苦労話とお薦めポイントです。

「プロジェクトを進めるなかで課題は山積でしたが、中でもこの類のないミュージカル・アトラクションの素晴らしさをどうやって皆さんにお伝えするのかは悩みました。あのシングの世界への没入感と熱狂体験を表現するためにいろいろな工夫をしましたが、特に『ホンモノ』を伝えるためのTVCMは徹底的にこだわったので、このアトラクションの素晴らしさが伝わると自負しています。

 私のお薦めポイントは、私がロジータと同じ母親ということもありますが、ロジータとグンターが完全にシンクロしたキレのいいダンスをシンメトリーで踊りながら、『SHAKE IT OFF』を歌い飛ばすところです。生き物であれば誰でも熱狂できることは間違いないのでぜひ楽しんでください(笑)」

 最後に、プロジェクトのPRマネージャーの札立幸一からです。

「私も苦労話は尽きませんが、このアトラクションの素晴らしさを伝えるためにはどうしたらよいのか相当考えました。最終的には映画の世界が『ホンモノ』になったということをシンプルに伝えるため、同じグループ内のユニバーサル・ピクチャーズ、フジテレビ、プロジェクト・リーダーの富岡の協力を得て、アトラクションのオープン前に地上波で映画を初放送してもらいました。そして、番組の最後に、アトラクションの開業前のリハーサル映像を流しました。オープン前のリハーサル映像を流すのは私たちの過去にない事例でしたが、インターネットなどを通じて視聴者の反響はとても大きかったです。映画とアトラクションを同時にゴールデン・タイムに全国放映することで、映画シングの世界が完全再現したことを伝えられたと感じています。

 私のお薦めは、世界でもトップクラスのキュートでパワフルなミーナの歌声とジョニーのエッジの利いたピアノ演奏です。でもやっぱり1番は、ホンモノのエンターテイメントが醸成する会場全体のグルーヴと空気感です!」

 私がみなさんにお伝えしたいのは一言です。

「ホンモノ、来日。」

 私たちユニバーサル・スタジオ・ジャパンのマーケターは、前述したとおり、次の新時代は「絆」と「夢」がより求められると読みました。「シング・オン・ツアー」は、こうしたニーズにお応えできる自信を持ってお届けする新時代リアル・ミュージカル・アトラクションです。

 時代や市場ニーズの先を読んでマーケティング展開することは、マーケターとして成功するために欠かせない要件です。まだ満たされていないニーズに応えることで競合他社との差別化をはかれ、市場により大きな価値を提供できるからです。投資家として成長企業に投資をする上でも最も有力な企業の1つは、常に満たされていないニーズを発掘し、マーケティングしている企業です。こうした文化が根付いている企業は、結果として成長する確率が相対的に高いからです。

 

秋山 哲(あきやま・さとし)
1973年群馬県生まれ。15歳当時、勉強に目的を見いだすことができず中学校卒業後に大工として働く。その後、世界のエンターテイメント市場で価値を提供することに夢を持ち、19歳の時に大学入学資格検定を取得。21歳で渡米しニューヨーク大学でマーケティングと国際経営を学び卒業。25歳の1999年、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン開業のために現在の合同会社ユー・エス・ジェイに入社。数々のプロジェクトをけん引し成功をおさめる。現在は同社のマーケティング・ディレクター。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。現在は株式の長期集中戦略を展開し、10年間で元本60倍の実績を残す。著書に『お金からの解放宣言~秘刀の投資法とお金の在りかた~』(かんよう出版)。

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