CASE革命 2030年の自動車産業

なぜ自動車業界には革命がなかった、CASEがそれを変えるワケ ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト 中西 孝樹

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知能化するクルマ

 もう1つの重要な変化が知能化であり、代表する技術が人工知能(Artificial Intelligence)と拡張知能(Augmented Intelligence)で、いずれもAIと表記する。人工知能とはデータ処理のツールであり、「機械学習」と「深層学習(ディープラーニング)」に代表される。わかりやすく言えば、大量のデータの中から、パターンを見つけ出す学習方法だ。半導体の処理速度の向上とともに、人間の脳の構造をまねたニューラルネットワークを利用することが今の流行である。ただ、どうしてもこの技術の延長線上には映画「ターミネーター」で描かれた人類とロボットが主権を奪い合い戦う構図が頭から離れない。そこで現在注目されているのが、拡張知能と呼ばれる人間の自然言語を理解し、人間の意思決定をサポートするコグニティブ(認知的)な知能である。

 AIの知能レベルは人間にたとえればまだ3歳児程度と聞く。これから反抗期も思春期も迎えるだろうから、どういうふうに成長するのか現時点での予測は困難だ。ただ、先述のクルマのビッグデータとAIが知能システムを生み出せるのであれば、クルマ社会が抱えてきた様々な問題や悩みを解決へ導くことが可能となる。その代表的な技術が「自動運転」である。

 移動(モビリティ)とは人間の欲求の根本的なもので、本能のようなものだろう。お金がなければ歩くしかないのだが、豊かになればプライベートジェットで世界を飛び回ることも可能だ。すなわち、所得と移動距離には強い相関関係がある。所得が上がる、移動コストが下がるという移動への経済条件が好転すれば、人間はさらに移動距離を延長させるはずだ。

 過去100年の間にクルマは大普及したが、同時に大変に罪多き工業製品でもあった。交通渋滞や騒音の問題に加え、交通事故の死亡者数は世界で年間125万人に達する。大気汚染、地球温暖化、エネルギーの枯渇、リサイクルなど、環境へ深刻な負荷を生じさせてきた。温室効果ガス(GHG)排出の20%近くをクルマの製造と使用が占めている。

 IoTとAIがもたらす自動運転技術は、こういった問題を解決するのに究極のチャンスを生み出せると考えられている。人間に移動の自由を提供しながら、山積した問題解決を同時に達成できるスマートソリューションを提供できる。オンデマンドで呼び出せる無人配車サービス(以下、「ロボタクシー」)が人・モノの移動を支えるようになれば、渋滞や交通事故を削減し、地球環境に優しく、最適化されたエネルギーバランスを構築することも夢ではなくなる。

電動化は究極のスマートソリューション

 IoTとAIが移動の自由をもたらす技術革新であるなら、電動化はその自由を真の意味で持続可能とする自動車産業にとっては究極の技術革新と考える。モビリティが環境に対してカーボンニュートラル(人間活動が大気中の二酸化炭素を純増させないこと)であるためには、理想論として電気や水素の2次エネルギーを効率的に製造、蓄え、利用する分散型のエネルギー社会を構築しなければならない。

 自動運転技術がもたらす新たなモビリティ社会と電動化は親和性が非常に高いことも事実だ。EVはモーター、インバーター、バッテリーの3主要コンポーネンツで構成され、構造は比較的単純である。現在の電池性能では限界があるが、電池性能の向上とともに、擦り合わせ型から組み合わせ型への設計・生産の仕組みの変更も可能となるだろう。

 エンジン車はエンジンが生み出す負圧などを利用し停まる、曲がるなどの高効率の走行マネジメントを実現している。それだけ制御が複雑だ。ネットワークに接続し、遠隔操作で自動運転車を制御するとなれば、電気だけを動力源にすることでより単純化できる。技術的にも、低速時のモーターのトルク特性が大きいEVは車両の動作制御が、エンジン車より圧倒的に容易である。

 自動運転技術の動力源として電気に依存するメリットは大きい。モビリティサービス用に特化した単純機能のロボタクシーであれば、生産・修理・整備は大幅なシンプル化ができるだろう。ロボタクシーの稼働率を高めて採算性をあげるには、整備・修理のリードタイムを短縮化することが重要であるためだ。

 しかし、電動化には様々な障害が残されており、電気だけの世界には簡単には移行できない。電気を作る化石燃料、原子力、再生可能エネルギーの3つの1次エネルギーの構成(エネルギーミックス)をカーボンニュートラルの水準にまで改善させるのは難しい。バッテリーの技術にもまだ制約が多い。

 確かに着実に進歩しているが、性能、コスト、供給力ともにまだ発展途上の技術である。エネルギーミックス、電池性能ともに相当のブレークスルーがなければ、電気だけに依存するモビリティには簡単に移行できないのである。電動化は次の100年を切り開くクルマが抱えた重大な課題であるが、その解決にはかなりの時間が必要になると考えるべきだろう。

(つづく)

中西 孝樹 著 『CASE革命 2030年の自動車産業』(日本経済新聞出版社)、「第1章 「CASE革命」とは」から
中西 孝樹(なかにし・たかき)
株式会社ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。1994年以来、一貫して自動車産業調査に従事し、米国Institutional Investor(II)誌自動車セクターランキング、日経ヴェリタス人気アナリストランキング自動車・自動車部品部門ともに2004年から2009年まで6年連続第1位と不動の地位を保った。バイサイド移籍を挟んで、2011年にセルサイド復帰後、II、日経ランキングともに自動車部門で2012年第2位、2013年第1位。2013年に独立し、ナカニシ自動車産業リサーチを設立。著書に『トヨタ対VW(フォルクスワーゲン) 2020年の覇者をめざす最強企業』『オサムイズム“小さな巨人”スズキの経営』(ともに日本経済新聞出版社)など多数。

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、営業、技術、製造、プレーヤー、イノベーション、M&A、AI、IoT、ICT

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