CASE革命 2030年の自動車産業

なぜ自動車業界には革命がなかった、CASEがそれを変えるワケ ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト 中西 孝樹

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 過去にも自動車産業はIT企業から狙われ、内からの変革を目指した歴史がある。しかし、コンピュータ産業や家電産業のような劇的な変革は起こらなかった。「当時と現在ではテクノロジーが違う」と言ってしまえばそれまでだが、本質的な理由は、自動車産業が複雑かつ閉空間の工業製品であったことが変化を阻んだのである。

 クルマは人の命を預かり環境を守るという社会的責任が重大で、品質保証の重要性は特別な意味を持つ。品質を担保するためには、綿密なハードウェアの擦り合わせが必要で、複雑な設計をしていかなければならない。ソフトウェアの介在が始まっても、オペレーティング・システム(OS)からソフトウェアまでクローズド・アーキテクチャが維持されてきた。複雑かつ閉ざされた産業はカラーテレビのようなコモディティ製品にも、携帯電話のような単純モジュール生産にも馴染めない。そうなりたくても、なれるような世界ではなかったのである。

 クローズド・アーキテクチャでは、規模が最大の競争力だ。規模に成長を循環させる仕組みがあり、それこそが自動車が装置産業と言われる所以だ。開発から生産設備にいたるまで自動車産業は巨大な投資を必要とし、巨額投資を回収するスピードを争うゲームであったのだ。台数を生み出し、1台あたりの限界費用(生産量が1単位増えることで増加する総費用)を抑え、誰よりも早く資金を回収する。その資金をさらに投資し、投資→台数成長→回収→投資の循環を繰り返す中で競争力が向上し、市場の寡占化が進んでいった。

 その巨大なオペレーションの傘下にバリューチェーンの広がりを有し、10年以上の長い製品ライフサイクルを持ち、残価価値を保った中古車が広く流通して産業のエコシステムを形成してきた。自動車産業はその頂点に立ち、産業の王者として君臨し、かつピラミッドの頂点で威張ってきたのだ。

自動車産業の価値はデータ量に左右される

 ところが、自動車産業はいま異業種から最も攻撃される産業となった。その理由は自動車がデジタル化から取り残された巨大市場であり、掘り起こせる大量のデータと生み出される価値が、最後に残された大油田に見えるからだ。この変化は、クルマがネットワークに常時接続されたコネクティッドカー、いわゆるIoT端末となるところから始まる。

 通信のイーサネットを発明したロバート・メトカーフは、「ネットワークが生み出す価値は接続するシステムの数の2乗に比例する」という経験則を1995年に提唱した。その頃というのは、パソコンが世界でせいぜい1000万台程度しかつながっていない時代の経験則だ。今やどうだろう。ネットワーク端末としてスマートフォンが40億台も普及している。そのデータをプラットフォームにしているIT企業は凄まじい存在感を有し、創造する価値に驚きを隠せない。

 自動車産業のデジタル化もこれに匹敵するような大規模ネットワークとなる可能性がある。そこから生み出される価値は凄まじいほどのポテンシャルがあるだろう。これまでのコネクティッドカーは技術も稚拙であまりにも小さな世界でしかなかった。コネクティッドカーの販売台数は2014年でわずかに1350万台にすぎない。データベースは個々に分断されており、自動車メーカーは1社あたりせいぜい数十万台程度とたかが知れている。

 普及できなかった最大の理由は、コネクティッドカーはユーザーが求めるコアサービスを提供できていなかったためだ。しかし、通信速度の向上、クラウド基盤の確立、半導体の演算処理能力の飛躍的な向上などの技術革新の結果、コネクティッド機能は飛躍的な向上が見込まれる。初めてスマートフォンに触れたときのような素晴らしいカスタマー・エクスペリエンス(顧客経験価値)を提供できるようになるだろう。

 IT企業の提供するスマートフォン連携によるコネクティッドを含めれば、2030年までには先進国の新車はすべてコネクティッドカーとなり、ネットワークに接続される車両数は10億台に迫ると試算される。ディーラーなどのバリューチェーンも同時にネットワークに接続されると考えれば、ITは門外漢の古いタイプの自動車アナリストですら、この巨大なネットワークから生まれるデータには膨大な可能性があることが想像できる。

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