CASE革命 2030年の自動車産業

自動車産業の未来図描く「CASE」にダイムラーが込めたものとは ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト 中西 孝樹

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 ダイムラーは、「株式会社ドイツ」と言われた金融機関の株式持ち合い構造の中で、かつては安定株主に守られてきた。1980年代には、ドイツ銀行が筆頭株主としてダイムラーの株式の25%を所有、同じドイツのドレスナー銀行、アリアンツなどが12%保有していた。しかし、ドイツの金融改革は持ち合い構造を解消させ、その後、多くの金融機関、事業会社が株主価値経営へと大きく舵を切った。

 その結果、ダイムラーの現在の株主構成は、ドイツ銀行の保有比率が2%台まで減少し、米国投資会社のブラックロックやハリス・アソシエイツなど、経営にもの申す厳しい株主に囲まれている。創業家が過半前後の議決権を有し、安定した経営を継続できるBMWやVWとは株主構成が大きく違っていた。このままダイムラーの株安を放置することは、戦いの勝敗を決するよりも前に、敵対的買収のターゲットにすらなりかねない。事実、2018年、中国の浙江吉利控股集団を率いる李書福会長が約1兆円を投じ、ダイムラーの全株式の9.69%を取得し筆頭株主に躍り出ている。

 100年に一度の大変革期に自動車産業が直面していることは間違いなく、IT企業などのライバルは確かに強敵である。しかし、ツェッチェはどのブランドよりもクルマの技術革新と新しい価値をダイムラーに先取りしてきた経営者だ。自動車産業は築き上げたクルマの製造・流通のプラットフォーム(基盤)を有しており、コンサルタントが危機を煽るほど安易に敗れ去る戦いではない。

 完全自動運転車「F015」のコンセプトモデルでは、ダイムラーの圧倒的な存在感を誇示できた。2014年には「メルセデス ミー(MercedesMe)」というサービス・ブランドを立ち上げ、デジタル化された包括的なコネクティッド、モビリティサービスを立ち上げている。電動化領域では言うまでもなく網羅的な技術力を確立している。ダイムラーのシェアリング事業「カーツーゴー(car2go)」は自動車業界で最も先行しており世界で最も多くのユーザー数を抱えている。「ムーベル(moovel)」ではマルチモーダル(様々な移動・交通機関を連携させる交通サービス)のプラットフォームで先鞭をつけた。

 それにもかかわらず、ダイムラーを勝利者と見ない向きが多いのはなぜか。この戦いで自動車産業が主導権を握るには、いかなる戦略と能力が必要かをツェッチェは冷静に整理し、向かうべき方向性を固めたのである。ガソリン自動車を発明した自動車の生みの親として発展を支え続けてきたダイムラーだからこそやらなければならない。新しいクルマ社会、未来型モビリティへの道筋を示すのだと決断する。自動車会社が主導権を持って破壊的イノベーションをもたらし、完全に新しい価値を創造する。これがダイムラーの「CASE」戦略である。

■「CASE」戦略の真意

 2016年9月29日、世界最古で4大モーターショーの1つであるパリサロン(モンディアル・ド・ロトモビル)では、プレス向け発表初日の朝からダイムラーの話題で盛り上がっていた。新長期戦略、新ブランド、新型EVコンセプトの発表があるとの噂で持ちきりだった。ブルージーンズのカジュアルな姿で登壇したツェッチェは、いつものようにウイットにあふれるスピーチを始め、まずはこう切り出した。

 「若い時に電子工学を専攻すると言ったら、『おまえ馬鹿だな、機械工学にすべきだ』と誰からも言われた。しかし、この40年間は間違っていなかった」

 電子工学の成果とばかり、新型のスマートEVを発表し、2025年までに10 車種の電動車を市場に投入、新車販売の15~25%をEVへ転換、10億ユーロの電動化投資、ドイツの自社工場でリチウムイオン電池の生産を開始するなど、ツェッチェは電動モビリティ社会の実現に向けたダイムラーの取り組みを強調した。

 そして、表情を引き締め、「CASE」戦略、その戦略を具現化する新ブランド「EQ」、第1弾となるクルマの「ジェネレーションEQコンセプト」についてツェッチェは語り始めたのだ。

 「CASE」とは冒頭で触れたとおり、「C=Connected(コネクティッド)」「A=Autonomous(自動運転)」「S=Shared&Service(シェアリング&サービス)」「E=Electric(電動化)」の自動車産業の4つの重要なトレンドの頭文字を取った言葉だが、これはダイムラーによる造語である。

 クルマがネットワークに常時接続されたIoT端末となり、自動運転技術の普及でドライバーは運転タスクから解放される。クルマの価値は所有だけではなくなり、共有し利用する価値を生み出していく。まったく新しいモビリティ価値を支える動力源は、排ガスのないクリーンな電気が支えていく。これが「CASE」の世界だ。

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