CASE革命 2030年の自動車産業

自動車産業の未来図描く「CASE」にダイムラーが込めたものとは ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト 中西 孝樹

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 「CASE(ケース)」は、100年ぶりの岐路に立っていると言われる自動車産業が苦境打開に向け選択した戦略で、「C=Connected(コネクティッド=ネットワークへ常時接続したつながるクルマ)」「A=Autonomous(自動運転)」「S=Shared&Service(シェアリング&サービス)」「E=Electric(電動化)」という4つの重大トレンドの頭文字をもとにした造語である。この連載では『CASE革命 2030年の自動車産業』(中西 孝樹 著)をもとにCASE革命による自動車産業の未来図を描きたい。第1回では、「CASE」戦略が生まれた背景を、ダイムラーの動きをたどりながら解説しよう。

◇  ◇  ◇

■ダイムラーの選択

 ディーター・ツェッチェが世界トップの高級車、商用車メーカーであるダイムラーの取締役会会長に就任したのは2006年と、ずいぶん前のことだ。トルコ・イスタンブール生まれの65歳で、大学では機械工学ではなく電子工学を専攻し、その後博士号を取得している。口髭をたくわえた知的な顔つきとウイットにあふれる言動、今やドイツ産業界を代表する経営者の一人である。

 2000年以前のツェッチェは商用車部門のトップを務めていたが、日本でも有名なユルゲン・シュレンプ前会長が米国クライスラーとの合併を断行し、クライスラー部門の立て直しで米国社長に送り込まれた。しかし、世紀の合併と言われ、世界中の自動車メーカーを合従連衡の狂騒に陥れたダイムラー・クライスラーの合併経営は混迷した。2005年に宿敵BMWに高級車ブランド世界ナンバーワンを奪われるなど、ダイムラーの経営も混迷を深めた。責任を問われたシュレンプは会社を追われ、6年間をデトロイトで過ごしたツェッチェがその後任として帰国したのである。

 ツェッチェは「壊し屋」の異名が相応しい激しいリストラを断行した。本社売却やドイツ国内事業のリストラに始まり、クライスラーとの合併をあっさりと解消、社名からメルセデスを外しダイムラーとして再出発する。

 メルセデスブランドの高級車と商用車に経営資源を集中させ、ツェッチェの巧みな経営術でダイムラーは復活した。彼が取締役会会長に就任した2006年に28億ユーロにすぎなかったダイムラーの営業利益は直近の2017年では163億ユーロ(2兆1200億円)に達し、営業利益ではトヨタに次いで自動車メーカー世界第2位だ。

 メルセデスブランドは魅力的な新車ラインアップに置き換えられ、高級車世界販売ランキングで2016年に実に12年ぶりに首位に復帰し、2017年も2年連続でトップとなった。ショールームでも、中国事業でも、フォーミュラワンでもダイムラーは輝いていた。しかし、唯一輝かないものがあった。それはダイムラーの株価であり、これに対するツェッチェの悩みは深かった。

 2015年3月に93ユーロあった株価は、2016年7月に54ユーロまで急激に下げた。好調な新車販売と業績にもかかわらずだ。この株価低迷の原因は、テスラやグーグルなどのビジネスモデルが具体化するにつれ、「破壊者が勝利者、伝統的自動車は破壊される」という評価が株式市場にはっきりと定着したためだ。

 破壊的イノベーションに伝統的な自動車産業が敗北し、支配者から従属者へ転落する。世界的なコンサルタント会社は2030年までに壊滅的な変化が自動車産業を襲い、自動車生産は減少し、製造の付加価値が失われるリスクシナリオに警鐘を鳴らし続けていた。すなわち、テスラやグーグルなどの革命家が起こす自動車産業革命の激流にのまれ、ダイムラーは従属者へ転落する。これがダイムラーへの市場評価だった。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。