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褒められ慣れていないシニアが気負わず「褒める」方法 トレノケート シニア人材教育コンサルタント 田中淳子

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「褒める」ために今日からできそうなヒント

 では「褒める」ために、どんなことをすれば、冒頭の「褒める箇所が見つからない」「褒める言葉が思いつかない」「褒めたら図に載るのではないかと思ってしまう」「照れ臭い」の四つを克服できるのか、今日からできそうなヒントを挙げてみることにする。

1. 褒める箇所が見つからない

 これは自分の仕事ぶりや能力(多くの場合、過大評価しているものだ)と比べたり、「そんなことできて当たり前だよ」と思ってしまったりすることに起因することが多い。相手にとっては、「できて当たり前」ではないかもしれないし、相手の過去と比べれば、成長している/変化している部分はきっとある。もし、見つからないとしたら、それは、相手をよく観察していないからだ。だから、まず、相手の日常をよく観察することが始めてみる。相手の状態をよく見るのだ。「これが終わった」「これが完成した」「これをやっていた」と些細な言動を目にとめることが大事だ。

2. 褒め言葉が思いつかない

 相手を観察して、その変化や良いところを見つけられたとしても、「褒め言葉」が見つからないというのはどうすればよいか?これは、「4.照れ臭い」とも関係あるのだが、「素晴らしい!」「凄いね!」などといういわゆる「褒め言葉」が、もともと自分の頭の中の辞書になく、無理に口にすると、歯が浮いたようになってしまうことが一因だ。そもそも口にするのも照れ臭く、無理に言おうとすると、セリフの棒読みのようになってしまったと言われることもある。だから、「褒めよう!」と力むのではなく、「事実を淡々と指摘する」とよい。

 たとえば、相手が「締切や期限を守った」とき、あなたは「それは当然だから、褒めるまでもない」と思うかもしれない。だが、「締切や期限を守った事実」は確かにあるのだから、「締切(期限)を守ったね!」というだけでも十分相手を認めたことになる(褒めるというより、認める=承認である)。格別に褒めている口調や表現ではなくても、相手のしたことについて、「やっているね」「できているね」と事実をただ伝えるのである。言われた側も「締切や期限を守った」ことをきちんと認めてくれた、と思えるはずだ。

 さらに、「ありがとう」という言葉を添えるのも効果的だ。「期限内に提出してくれてありがとう」といった具合である。年齢や経験を問わず、「ありがとう」という言葉は、言われると嬉しい。

 そもそも、年長者は出し惜しみせず、「ありがとう」を頻繁に使うとよい。シニアは何でも当たり前と思いがちだが、そこを「ありがとう」と伝えることで、部下や後輩たちも気持ちよく仕事ができる。丁寧に「ありがとうございます」「ありがとうございました」と「丁寧語」で言うとより効果的だ。年長者は放っておくと誰に対しても「ため口」になっていくが、年下の人、あるいは、部下など立場が異なる人に「ありがとうございました」と丁寧な口調で言うだけで、相手からの印象がうんと良くなる。ため口でしゃべると、若い人は口では何も言わないが、「上から目線なのよね」「いつも偉そうに言うのよね」と心の中で苦々しく思っている場合がある。前にも書いたが、「丁寧」な口調で話すに越したことはない。

3. 褒めたら図に乗るのではないかと思う

 「図に乗る=調子に乗る」であれば、悪いこととも言えないのではないか。モチベーションが刺激されて、もっと色々なことに挑戦したり、主体的に取り組み始めたりしたら、上司や先輩としても嬉しいことだろう。そもそも、めったに褒めないシニアがちょっと褒めたくらいで部下や後輩に何かよからぬ副作用が生じるものだろうか。嬉しくてやる気が高まる効果のほうが大きいはずだ。

 以上、よく観察して、些細な変化を言葉で指摘し、時に「ありがとうございます」と感謝の念も伝える。こちらが照れくさくても言われた方は、とにかく嬉しく思うものだ。どんなひとことでもよいので、まずは、口にしてみることである。

 最後に30歳前半のころに私が経験した出来事を紹介したい。他社を定年退職したMさんが転職してこられた。Mさんはとりわけ私を可愛がってくださったのだが、ある日、何かで落ち込んでいたとき、「どうしたの?」と声を掛けられ、元気なく「いや、ちょっと落ち込んでいて」と返事をしたら、昼休みになって、「よかったら昼飯、行く?」と誘ってくださった。しかし、ランチ中は特に何も聴かれもしなかったので、他愛もない雑談をし、また席に戻った。それから10分もしない時にメールを着信した。Mさんからだ。

 タイトルは、「田中さんのよいところ」。

 メールを開くと、私にまつわる小さなことが10個くらい箇条書きで書き連ねてあった。

 前後に「落ち込んでいるようだったのでガンバレ」とも「励まそうと思って」もなく、単に「田中さんの良いところ」という箇条書きだけのメールだった。私は、その画面を見つめながら、涙がこぼれそうになった。

 内容は、本当に小さな出来事のリストだった。たとえば、「本をよく読んでいる」「本で読んだ本の内容をボクに教えてくれる」「いつも元気だ」・・・というような本当に些細なことばかりだ。

 しかし、このメールで私は救われた。元気を取り戻した。こういうシニアに自分もなりたいと思ったものだが、果して今、なれているだろうか。

 いつか私も落ち込んでいる後輩に「●●さんの良いところ」というメールを飄々(ひょうひょう)と送ってみたいと思っている。

シニアを部下に持つ管理職へのメッセージ

 冒頭でも書いたが、シニア世代は、ほとんど褒められないまま年齢を重ねている。だが、シニアだって褒められたい!褒められることもまた照れ臭いのだが、でも内心は嬉しく思っている。だから、自分のほうが年下であったとしても上司は臆することなく年上部下を褒めてほしい。

 では、どのような言葉が有効だろうか。

 まずは、感謝。「ありがとうございます」「●●さんが対応してくれたことで解決しました。感謝します」など。

 他には、「若い人の見本になっていると思います」「若い人達から“こういう風になりたい”と思われるような活動でしたね」といった表現も有効だろう。「若い人から疎まれていないか」「若い人に迷惑をかけていないか」と多少なりとも気にしているシニアも多いので、「若い人に役立っている」といったニュアンスで言われるとホッとする。

 脳裏に引退がちらつき始めている50歳以上のシニアに、相談ごとを持ちかけたりするのも、シニアにとっては「期待されているのだな」と嬉しいはずだ。

 「ベテランの●●さんにちょっと相談に乗ってもらいたいのですが」といった表現でベテランならではの視点や経験を聴き、「話したら、自分の頭も整理できました。ありがとうございました」などと言われたら、シニアはきっと幸せな気分になれると思う。こういう行為も広い意味では、「褒める」ことに当たる。
田中淳子(たなかじゅんこ)
1963年生まれ。トレノケート株式会社 シニア人材教育コンサルタント、産業カウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント。1986年日本DECに入社、技術教育に従事。1996年より現職。新入社員からシニア層まで幅広く人材開発の支援に携わっている。著書『ITマネジャーのための現場で実践!部下を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『はじめての後輩指導』(経団連出版)など多数。ブログは「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」。フェイスブックページ“TanakaJunko”。

キーワード:人事、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修、働き方改革

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