官民連携と地域連携で実現する地方創生

セッション 地方都市再生の実現に向けて 人々が集い、楽しく活気あるまちを

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 日経地方創生フォーラム「官民連携と地域連携で実現する地方創生~実装に入った地方創生 具体的事例から考える持続可能な経済循環~」(主催=日本経済新聞社、共催=UR都市機構、後援=内閣府)が1月22日、東京・大手町の日経ホールで開催された。「地方都市再生の実現に向けて」をテーマにしたセッションの講演と議論を紹介する。

■基調講演

これからの沼津のまちづくり─鉄道高架を活かして─

沼津市長 頼重 秀一 氏

 静岡県沼津市は東名高速や東海道新幹線などにより広域交通アクセスに優れ、富士、箱根、伊豆、沼津港など多様な観光資源にも囲まれ、産業・観光などで高い立地ポテンシャルを持つ。ただ、これらの強みは市の南北に展開しその中央部を鉄道が横断するため、本来のポテンシャルを生かしきれず、中心市街地内の回遊性もあまり高くない。

ヒト中心の元気あるまち

 そこで中心市街地では「沼津駅周辺総合整備事業」として、鉄道高架をはじめ土地区画整理、市街地再開発など6事業を段階的に進めている。沼津駅付近の鉄道高架化では8路線の道路が立体交差化し13カ所の踏切がなくなり、市民の安全・安心が確保される。鉄道と交差する3カ所のガードは2車線から4車線に増え、まちの回遊性が大幅に向上する。新しく生まれる鉄道施設跡地や高架下空間に新たな都市機能を導入することも可能になる。

 こうした各事業の効果をどう活用していくか。「中心市街地まちづくり戦略会議」を開催し、(1)駅周辺の公共空間を車中心からヒト中心に再編(2)新たな都市機能の導入の2つのテーマについて検討している。

 様々なまちづくりの実践も進む。道路、公園、河川など公共空間の実験的活用や民間リノベーションとの連動によるにぎわいの創出などだ。駅前の百貨店跡地を購入したUR都市機構と連携し、駅周辺の公共空間の再編を進めていく。まちの顔である中心市街地をヒトに魅力ある都市空間に再編し、「誇り高い、元気なまち沼津」をめざしたい。

■基調講演

糸魚川市駅北大火の復興の向こうへ

糸魚川市長 米田 徹 氏

 新潟県糸魚川市は海と山に囲まれた自然豊かなまちだ。日本の国石ヒスイを産出し、北陸新幹線で東京から2時間余りで来られる。

 2016年暮れ、糸魚川駅北側で発生した大火は145世帯56事業所を焼失させ、市街地は変わり果てた姿になった。だが風害による自然災害とされ、国の支援を得られたことで再建は早期に進んだ。2カ月後にはがれきが撤去され、また国土交通省から副市長、UR都市機構から復興管理監が派遣され、復興推進課を組織。8カ月後に復興まちづくり計画を策定した。

復興からにぎわい創出

 同計画は(1)災害に強いまち(2)にぎわいのあるまち(3)住み続けられるまちを方針に掲げる。災害に強い都市基盤整備や住宅再建は順調に進んでおり、(1)(3)は実現へ着実に近づいている。

 今後の大きなテーマは(2)だ。以前から失われつつある中心市街地のにぎわいをどう取り戻していくか。取り組みの1つ目は様々な価値観の人々が集まって化学反応を起こし、まち全体の価値を高めるリノベーション。2つ目は多様な活動を通して市民が憩い集まれるにぎわい広場の整備。3つ目は子育て支援機能を持つ公共施設をにぎわい拠点とし、周辺商店街などへの消費喚起につなげていくこと。これらに官民が連携して取り組むことが必要だ。

 当市は日本で初めて世界ジオパークに認定され、市内24カ所にジオサイトと呼ぶ地質学的な見どころがある。郷土の魅力を国内外に発信し訪れたくなるまちにすることで、復興支援への恩返しにしていきたい。

■共催者挨拶

UR都市機構 理事長 中島 正弘 氏

 最優先で取り組んできた東日本大震災の復興事業に少し峠が見えるなか、地方都市での取り組みも今後さらに進めたいと考えている。団地等の現場におけるコミュニティーづくりなど、われわれは時代に応じて、地域に求められる開発やまちづくりを行ってきたプライドがある。地方都市再生は新たな挑戦の部分が多いが、これまで蓄えたノウハウを生かして取り組んでいく。

 具体例として、沼津市のケースでは土地を購入した。自治体としては、利用目的が定まらない時点での土地の購入は難しいなか、まずUR都市機構が土地を保有することで、自治体と協議しつつ将来の方向性を作っていくことが可能となる。また、糸魚川市では大火で大変な状況の時に、すぐに現地に飛んでチームを組み、人的サポートをさせていただいた。

 まちづくりの最初の段階は、何をどうしていいか分からないことが多い。そこで、方向性の決定に至るまでの作業をわれわれがお手伝いさせていただき、その先は専門性を持つ民間の方々とパートナーシップを組ませていただくなど、「URにやらせてみたい」と期待してもらえるように取り組んでいく。

■パネルディスカッション

● パネリスト

スノーピーク地方創生コンサルティング 会長兼社長 後藤 健市 氏

商い創造研究所/賑わい総研 代表取締役松本 大地 氏

● コーディネーター

東京都市大学 都市生活学部 教授 坂井 文 氏

失敗を恐れずに動くことが大事 後藤 氏
個性的なヒューマンシティーに 松本 氏
地域の特性を生かすまちづくり 坂井 氏

地域は資源の宝庫 工夫次第で価値向上

 坂井 地方都市の様々な課題を解決するには、地域資源や特性を生かした安全・快適なまちづくりが不可欠だ。まずはお二人の取り組みについて伺いたい。

 後藤 自分の地域には何もないと言う人もいるが、実際は資源の宝庫であり、どう生かすかが重要だ。私は33年間、各地域にある資源を生かす活動を続けてきた。駐車場だった場所を屋台村にしたり、空きビルをシェアリングの場に活用したりして地域の価値を高めている。

 現在は「野遊び」をテーマに異業種と連携し、自然の中でのキャンプやグランピングなど、地方創生のための様々な仕を実施しているところだ。

 松本 今は生活創造の時代になり、持続可能なまちづくりや生活を豊かにするライフスタイルの構築に関心が移っている。

 米オレゴン州ポートランドは、1970年代以前は環境汚染がひどかったが、車社会を脱して民間と行政、住民が一緒になり、「ヒトが中心のまちづくり」をした結果、持続可能なエコ・コンパクトシティーとして生まれ変わった。住民が人間らしく暮らせる、ヒトにやさしい個性的なヒューマンシティーは今後さらに大事になっていく。

地域文化を見いだし最大限に活用する

 坂井 地方創生に向けて課題解決のための突破口はあるか。

 後藤 地域住民は自分の地域をマイナスに捉えていることが多い。都市をまねするのではなく、地域の個性を肯定的に捉えてプラスに生かすことが、地域プライドの創出と地域ブランドの構築につながる。今後インバウンドも含め外から多くの人が流れてくることを考えると、地域の文化と季節感を意識して、質を高めていくことが大事だ。

 私はハレの場で豊かな時間を過ごせる取り組みを意識している。以前、北海道の小麦畑の中で食事を味わえるしつらえをしたところ、遠方からはるばる訪れてくれた方々に好評を博した。

 松本 地域を第一に考える「ローカルファースト」と「CSV(共通価値の創造)」の取り組みは、定住人口と交流人口、地域経済循環を増加させる重要なキーワードだ。

 先述のポートランドでは、各地のファーマーズマーケットやフードコートが地域の人々の社交場であり、観光名所にもなっている。さらにナイキ社が市内に自転車ステーションを造るなど、各社が積極的にCSV活動を行っている。今後はビジネスリーダーが住民や行政を引っ張る時代になるのではないか。

 坂井 地域のまちづくりにはどんな課題や展望があるか。

 後藤 一番の課題は、真面目なってしまうことだ。楽しくて格好いい、「たのかっこいい」のバランスが取れているまちづくりが重要だ。ヒトは楽しいことには効率も損得も気にせず、時間やお金を使う。楽しい遊びは今後の地域活性化の軸になる。

 失敗を恐れてばかりいると何も生まれない。諦めたら失敗だが、そうでないうちは未成功だと捉え、皆が自分事として果敢にチャレンジすることも必要だ。

 松本 スペインのサンセバスチャンは、人口18万人の辺境の地だが、美食都市として名高く、全世界から人が訪れる。地元の人々はまちのバルに集い、会話や食事をして語らっており、この文化が長生きの秘訣ではないかといわれている。

 日本でも、外部の何かを模倣するのではなく、地域の良さを見いだして最大限にリソースを使っていくことに、これからの地域の生き方があるのではないか。

ヒトに重きを置き持続可能な開発を

 坂井 グローバル化するなかで地方都市に大事なことは何か。

 後藤 「これはグローバルバリューがあるか?」と意識して問いかけてみてほしい。地域で当たり前だったものが、世界を意識することで価値があるものとして見えたりする。単にモノだけでなく、景観も含めたその場所の価値、そしてヒトを組み合わせることで、真のグローバルバリューが生まれる。

 松本 私は地域の商店街を心ときめく場所にしたいと考えている。パリで歴史のあるパッサージュというアーケード商店街のように、日常のハレがつくり出す豊かさを創出したい。日本でも地域の人々や宿泊者が集える「ギャザリングホテル」ができつつあるが、そんな毎日寄れる、住民も観光客も交ざり合えるパブリックスペースの役割が今後求められる。

 後藤 都市部でも郊外でも、前例にこだわらず官民連携で「どうなるか」ではなく「どうするか」を考えて動き、つながりを作ることが重要だ。日本一を目指すと変な競い合いが始まってしまうので、世界一を意識して仕掛けていくことが大事だ。

 松本 生活創造の時代になり、まちづくりにおいてもヒトとしての幸せといった、より深いところに高い価値が置かれるようになった。これからのまちづくりにおいては、日本の優れた技術や経験を生かし、持続可能で先を見据えた開発を続けていってほしい。

 坂井 その意味では、大きな技術者集団であるUR都市機構は経験も豊富だ。地域再生のプラットフォームを形成し、コーディネーターとしての役割を今後も進めてもらいたい。

主催:日本経済新聞社

共催:UR都市機構

後援:内閣府

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