官民連携と地域連携で実現する地方創生

セッション 地方創生の基盤 全国高速鉄道幹線網の整備に向けた山形県の挑戦/地方創生と人材育成/空港民営化、改革で加速する 地方創生

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 日経地方創生フォーラム「官民連携と地域連携で実現する地方創生~実装に入った地方創生 具体的事例から考える持続可能な経済循環~」(主催=日本経済新聞社、共催=UR都市機構、後援=内閣府)が1月22日、東京・大手町の日経ホールで開催された。地方創生を推進するための具体的方策について、自治体首長や識者らが講演、白熱した議論を交わした。

●セッション
~地方創生の基盤 全国高速鉄道幹線網の整備に向けた山形県の挑戦~
奥羽新幹線の実現を見据えた福島~米沢間のトンネル整備
■基調講演

新しい時代を拓く福島~米沢間トンネル整備について

山形県知事 吉村 美栄子 氏

 全国のフル規格新幹線構想のうち、山形県を通る奥羽、羽越の各新幹線は40年以上も基本計画にとどまり動きのない状況。山形県には山形新幹線があるが、これは「新幹線」ではなく「在来線」。フル規格新幹線と異なり、速達性や安定性等の面で課題がある。大雪、大雨などでの輸送障害件数は、フル規格新幹線の30倍以上、1年間で270本以上の運休・遅延が発生。その約4割が奥羽山脈にまたがる福島~米沢間で発生しており、同区間の脆弱性が大きなボトルネック。

山形・東北の未来拓く夢のトンネル

 こうした中、JR東日本では、昨年度までにこの区間の抜本的な防災対策のための調査を実施。事業費約1500億円(断面をフル規格サイズとする場合は1620億円)、工期15年で約23キロメートルの短絡トンネルを整備することで安定性が向上し、災害リスク完封、10分強の時間短縮などの効果が示された。整備効果は非常に大きいが、極めて大規模なプロジェクトであり、将来を見据えて、戦略的に整備を進めることが重要だ。

 このスケールのトンネルをもう一度掘りなおすことは非効率的であり、今のうちからフル規格新幹線を見据えたトンネルを整備し、奥羽新幹線実現時に有効活用していく。こうした発想が必要にして不可欠。

 このトンネル整備は、山形・東北の新しい時代につながる、未来への扉となるもの。まさに「夢のトンネル」だ。フル規格新幹線の実現につなげていくことで、インバウンドなど観光交流の拡大や国土強靱(じん)化等、将来的に、その恩恵・効果は全国に広がっていくと考えている。

■基調講演

逆境の整備新幹線計画を克服した鹿児島の知恵と努力 ─板谷トンネルのフル規格化を念頭に─

芝浦工業大学 工学部土木工学科 教授 岩倉 成志 氏

 日本の整備新幹線は1970年代に計画されたが82年に国鉄の財政再建問題が起こり凍結された。JR発足後に凍結解除となり88年に、整備対象となる5区間の着工順が議論されたが、鹿児島~八代間は当初、4番目の順位で、「着工時期不明」とされていた。この方針が決まりかけた時に、鹿児島選出の故・小里貞利衆議院議員が「難工事区間の早期着工」を訴え同時着工の実現、早期の整備につなげた。不断の研究に裏打ちされ、日本全体のバランスも考えた働きかけであったことがポイントだ。

地元の熱意と不断の努力が重要

 もう一つの事例として、同じ鹿児島では、整備新幹線計画の凍結が解除された直後に、地元の判断で将来の新幹線につながる駅整備を決意。新幹線整備の保証がない中で、地元負担での先行投資を進めていった。地元発意の先行的取り組みは、住民の一層の意識高揚を促すとともに、地元の覚悟と熱意を国に示し、新幹線着工の促進に大いに寄与した。これら鹿児島の事例をもとに、奥羽新幹線の整備推進に向けて、2つのシナリオが考えられる。

 一つは地元の先行投資として、福島~米沢間(板谷)トンネルをフル規格で前倒しで整備。これには地元の強い決意・覚悟が必要。

 もう一つは、板谷峠の難工事区間としての位置づけを目指すこと。そこには、当然ながら、奥羽新幹線の整備計画路線格上げに向けた不断の努力が必要。山形新幹線の遅れが、他の新幹線ネットワークにも波及するといった「時間信頼性」の評価・研究を進め、トンネル整備の全国的な必要性を整理することも有意義だ。

■パネルディスカッション

● パネリスト

山形県知事 吉村 美栄子 氏

山形市長 佐藤 孝弘 氏

米沢市長 中川 勝 氏

やまがた女将会 会長 川崎 禮子 氏

新庄青年会議所 副理事長 橋本 一馬 氏

● コーディネーター

岩倉 成志 氏

豪雪による運休・遅延を解消 地域間競争に平等な基盤を

 岩倉 トンネル整備の必要性、期待について聞きたい。

 吉村 首都圏との安定輸送性が飛躍的に向上し、ビジネスや観光など、これまでの様々な移動における不安や不便が一気に解消される。さらに将来、このトンネルが福島、山形、秋田の3つの県都を結び、東北の太平洋側と日本海側をつなぐ奥羽新幹線の整備、そして国土強靭化や地方創生の実現へとつながっていくものと考えている。

 佐藤 新幹線が整備されている地域の発展の状況を見れば、地方創生のために新幹線は極めて重要。地方創生には他地域との競争も必要だが、そのためにも、高速道路や新幹線など、平等な競争条件の整備が必要不可欠。まずは、この難所のトンネル整備にしっかりと取り組む。

 中川 福島~米沢間は、奥羽本線の中で最も標高の高い山間部を通る厳しい区間。雨・雪による運休が多く、その解決にはトンネル整備が必要。山形の玄関口である米沢、置賜地域一丸となり取り組みを進めたい。

 川崎 山形は美しい景観や食など観光地としての魅力は多い。その一つである蔵王温泉は8割が個人のインバウンド客。山形新幹線のダイヤの乱れにより、困惑する姿をよく見かける。トンネル整備により、こうした海外旅行者の利便性向上と、その拡大につながることを期待する。

 橋本 このトンネルが整備され、さらにフル規格新幹線が実現することで、進学や就職などのIターンが増えるなど、交流人口が拡大する。また、災害対策の観点からも太平洋側の交通網代替となる奥羽・羽越新幹線の整備が必要だ。

若者による運動の展開 安全・安心な旅行を提供

 岩倉 新幹線は計画段階では「税金の無駄」とたたかれやすいが、開通後は好評で成功事例が多い。トンネル整備に向けた具体的な取り組みを聞きたい。

 吉村 県とJR東日本で整備効果や、事業スキームについて検討を重ねており、この検討をさらに加速していく。全県的な推進組織と県内4地域の推進組織が連携し、将来を担う若者の運動参加も促しながら、県民の理解促進に向けた重層的な取り組みも進めている。地域の英知を結集し、総力を挙げて取り組みを進め、トンネル整備の早期事業化、そして奥羽新幹線の早期実現につなげていきたい。

 橋本 昨年、県内の17の青年会議所が協力して公共投資推進を求める内容の署名活動を行い、集まった6万近い署名を国土交通省に直接届けた。今年は活動を東北地域全体へも拡大したい。長いスパンで考えるべき課題のため、我々若者世代に責務があると考えている。

 川崎 山形の温泉や食事・酒、スキーを楽しみにしている国内外の多くのお客様のためにも、安心して、速く、山形を訪れていただくことができるフル規格新幹線の整備が必要。より多くのお客様にこの魅力を堪能してもらいたいという思いで日々取り組んでいる。まずは安全・安心に、山形へおいでいただくための新幹線をきちんと整備してもらうため、声をしっかりと上げ続けていきたい。

地域一丸で実現に取り組む東日本全域へトンネル効果

 中川 米沢市は単独で奥羽新幹線の実現に向けた期成同盟会を立ち上げ、昨年12月には置賜地域全ての3市5町に拡大し、トンネルの実現も含め、地域一丸となり取り組んでいる。今後さらに、経済界なども巻き込みながら、地域全体の運動を展開したい。加えて、トンネルの入り口と出口の関係となる隣県の福島市との連携も強めていく。

 佐藤 山形市は今年4月から中核市に移行する。村山地域の6市6町が対象の連携中枢都市圏という新しい地域間連携での取り組みが求められる。これをきっかけとして、今後さらに、地域の運動の輪を広げていきたい。いま、インバウンドも増え、さらに伸びようとしており、こうしたことを日本全体として活力につなげていくためにも、新幹線など交通の整備が何より大事。トンネル整備という大きな目標に向けて、地域住民・自治体連携の下、突破していきたい。

 吉村 山形県は豊かな自然と美食美酒が魅力だが、道路を含め高速交通網の整備がまだまだ不十分。太平洋側と日本海側、両方しっかり整備することが重要。東日本大震災時には日本海側が大きな役割を果たしてきた。フル規格新幹線で全国をつなげば、災害対策や観光面でプラスになる。国民が声を上げることもとても大切。地方創生はハード面の整備をしてこそソフトにもつながる。

 岩倉 例えば首都圏・山形間の交通は、輸送力、そして時間的信頼性の高い新幹線が担い、山形に入ってからは、高速道路等で地域全体に集散させる。これが今後、目指すべき交通の姿。そのためにも板谷トンネルの整備が必要で、どのようにしてフル規格で造るかが大事。このトンネル整備は、山形だけでなく、東日本全体に非常に大きな効果をもたらすと考えている。

●セッション
地方創生と人材育成
■基調講演

卓越大学院プログラム ~電力・エネルギー分野での新産業創出を促進する高度博士人材の育成

早稲田大学 理工学術院 教授 林 泰弘 氏

 電力・エネルギーインフラのイノベーション時代が到来し、60年ぶりのエネルギー大変革が起こっている。持続可能な開発目標(SDGs)や脱炭素化、デジタル・人工知能(AI)化の流れの中で、電力も大規模型から分散型への動きが加速。この大変革を切り拓(ひら)く理工系人材輩出が急務だ。

地方の強み生かす人材育成

 早稲田大学の「パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム(略称:PEP)」は、昨年始まった文部科学省の新規事業「卓越大学院プログラム」に私立大で唯一採択された。これは国内外の大学・研究機関・企業と連携し卓越した博士人材育成のための5年間一貫の博士課程学位プログラム。早大を中心に全国の国公私立13大学が連携し一つのユニバーシティーの形で人材育成し、企業や海外の大学とも共同研究を行う。異分野融合教育にも力を入れ、日本が得意なモノづくり、逆に苦手なコトづくり、国際標準のプロフェッショナルを育てる。4月の本格開講に向け全国で入学募集を行っている。

 地方への貢献では「超スマート社会の実現」に取り組んでいる。地方都市では人口減少をにらんだまちづくり計画が進んでいる。例えば公共交通では、次世代の路面電車(LRT)を敷設し、まちを効率的に結ぶことで産業・観光の発展につなげる構想を宇都宮市が推進中だ。早大では、東京大や宇都宮大、宇都宮市、東京電力等と一緒にプラットフォーム構築を目指していく。電車が動けば人が動く。人が動けば経済が動く。経済が動く中で利便性をどうすべきか考えることで、エリアにフィットした新しいプラットフォームが構築できるのではないか。

 スマートシティーに向けては、地方の価値向上のためのシミュレーションモデルの構築、合意形成も大事だ。各地方の強みを生かしたプロジェクトを、我々が研究開発と人材育成による定量評価と市民合意形成で支え、最後に明確なゴールイメージを持ったプロジェクトにすることに地方創生の道があると考える。

●セッション
空港民営化、改革で加速する地方創生
■基調講演

空港民営化、改革で加速する地方創生~和歌山県白浜で何が起きているのか

南紀白浜エアポート 代表取締役社長 岡田 信一郎 氏

 2019年4月に民営化する和歌山県の南紀白浜空港。経営共創基盤(IGPI)が出資する南紀白浜エアポートが運営を行う。白浜では現在、官民連携や地域連携による様々な施策で、大きなムーブメントが起きている。

 旅行誌「ロンリープラネット」の「訪れるべき世界の地域2018」で、紀伊半島が世界5位に選ばれるなど世界的評価も高い白浜は紀伊半島南西部にあり、世界遺産でミシュラン三つ星の熊野古道をはじめ観光資源に恵まれている。

「空港型地方創生」に挑む

 この地域では行政による環境整備が広く行われ、(1)IT(情報技術)企業の誘致や旅先で休暇を楽しみ仕事もこなす「ワーケーション」の聖地化(2)ホテルのリノベーション支援や新規進出支援(3)サイクリング王国わかやまの推進(4)南紀白浜空港の民営化(5)串本町への民間ロケット発射場の誘致――などが地域活性化の大きな下支えとなっている。

 なぜ、IGPIが白浜に注目したのか。日本全国約60の地方管理空港はすべて赤字で、地方財政の大きな負担になっている。そこで東北・北関東でバス事業を展開して得た地方創生ノウハウを地方空港に投入し、「空港型地方創生」のモデルケースづくりに挑み、日本全国に夢と希望を与えることが目的だ。

 白浜の強みは飛行機で東京からたった1時間のリゾートであること。恵まれた観光資源と1日3便の日本航空・羽田線を最大限に活用した誘致戦略を実行中だ。観光では、首都圏の富裕層やファミリー層、サイクリストをはじめ、海外の知的富裕層や東北の顧客層を誘致。ビジネスでは、ワーケーション推進企業やリゾートMICE誘致に注力している。18年11月にはロシアのウラジオストク国際空港と路線開発に関する戦略的協力を結んだ。

 進出企業それぞれの経営努力と地域組織間の相互連携による密なコミュニケーションにより、大きな化学変化が起きている。「関西の奥座敷から、日本の白浜、世界のKiiへ」の実現を目指したい。

主催:日本経済新聞社

共催:UR 都市機構

後援:内閣府

協賛:シダックス、 マイナビ、日本公園緑地協会、清水建設、スマートウエルネスコミュニティ協議会、青山学院大学、早稲田大学

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