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企業の不祥事対応における第三者委員会の活用(3)費用・報酬額、全体総括 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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 「時間制」を原則とするとの上記のガイドラインも、「ハンコ代」的な報酬や、成功報酬型報酬のような方法は不適切だとして、「時間制を原則」とするものであり(注記で「委員の著名性を利用する『ハンコ代』的な報酬は不適切な場合が多い。成功報酬型の報酬体系も、企業等が期待する調査結果を導こうとする動機につながりうるので、不適切な場合が多い。」とされている)、「時間制」が常に適切な報酬の算定方法だとしているわけではない。

 委員長・委員の報酬算定については、委員会の設置期間、その間に予定されている委員会の回数・時間や調査への関与等を考慮して、「ハンコ代」と言われるような不当に高額ではない、相応の「定額報酬」とするのが適切であるように思える。

 私自身について言えば、過去、第三者委員会委員長を務めた際には、報酬は、月額100万円と決めていた。一つの委員会の活動にほとんど専念せざるを得ないような負担の大きい委員会においても、それは変えなかった。会社側との対立的な状況となった九州電力「やらせメール」問題の第三者委員会では、会社側から「タイムチャージによる請求」を強く勧められたが、月額100万円を譲らなかった。独立した立場で会社側に対して厳正な調査を展開していくことで自らの報酬が増えるのはおかしいと考えたからである。

 一方、調査補助者については、依頼者の企業との契約において、「職務の遂行に際しては、第三者委員会の指図のみに従う」などと定められるのが通例であり、依頼者からではなく、第三者委員会のみから指示を受け、その指示にしたがって調査業務を遂行すべき立場である。調査補助者がそのような立場である限り、時間制で報酬を算定すること自体に問題はない。

 しかし、その場合の各調査補助者の「所要時間」や報酬額は、当然のことながら、第三者委員会の設置目的や、委員会から調査補助者への「調査指示」に照らして合理的なものでなければならない。その点については、調査補助者が「下請」であるとすれば、「元請」の立場にある第三者委員会側がその金額の合理性についても責任を持つべきである。とりわけ、委員長は、委員会の事務を総括する立場として、調査補助者の報酬請求額について管理すべき責任がある。それは、第三者委員会の調査全体を適切かつ合理的なものとすることについての委員会の重要な職務の一つだと言えよう。

第三者委員会はどうあるべきか

 ここからは全体総括として、「第三者委員会はどうあるべきか」について解説する。7年余り前、私は、九州電力「やらせメール」問題の第三者委員会を題材として、企業不祥事における第三者委員会の役割、そのガバナンス上の重要性を『第三者委員会は企業を変えられるか~九州電力やらせメール問題の深層』(発行:毎日新聞社、2012年)で論じた。そういう私にとって、「第三者委員会」の現状は、誠に残念である。

 根本的な問題は、日弁連の第三者委員会ガイドライン等で、ステークホルダーに対する説明責任を果たすという第三者委員会の「公益的目的」が強調され、一度、第三者委員会が設置されると一切他者の介入を許されないような「聖域」のように扱われる一方で、第三者委員会と調査補助者の業務全体が、公益性からかけ離れた「第三者委員会ビジネス」と化していることにある。今後、第三者委員会のあり方に関しては、以下の点を中心に抜本的な検討が必要だと考えられる。

 「企業の不祥事対応における第三者委員会の活用(1)第三者委設置の判断と人選」で述べたように、問題が表面化しておらず、企業に対する批判が顕在化していない場合、第三者委員会を設置することは、企業に重大なダメージを生じさせることになりかねない。「株主・投資家に対して開示すべき重大な問題」が判明しているのか、当該問題について調査によって明らかにすべき「事実」があるのか、という観点から、慎重に判断する必要がある。特に、「重大な問題」と言えるかどうかは、単なる、違法性の有無の判断だけではなく、その問題が社会から、あるいはマスコミからどのように評価され、批判されるか、株価にどのような影響を与えるのか、などについて的確な予想に基づいて判断する必要がある。

 その判断を、平時の企業経営の経験が中心で、不祥事対応についての経験やノウハウを持たない企業経営陣や取締役会メンバーが適切に行うことは極めて難しい。そこで、当該企業の顧問弁護士事務所等が相談を受けることになるが、不祥事対応について適切な助言を行うことは、一般的な弁護士業務の経験とは性格が異なり、それ自体の経験が重要となる。

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