営業デジタル改革

「商談のプロセス管理」がもう意味を持たないワケ トライツコンサルティング 代表取締役 角川 淳

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顧客の購買プロセスでチェックする

 このケースと同様のことは、BtoB営業の世界でも、実によく起きていることです。

 顧客の担当者は提案に乗り気になっていて、提案書を一緒に作り直したり詳細の見積を作ったりしているものの、顧客の上司にはまだ話もできていません。上司がOKを出したとしても金額が高いので部長会や役員会といった場で承認を得なければなりません。前述の夫婦の例で考えると、車を乗り換えるという意思決定がなされるまでに、妻の後にさらにお姑さんのOKまでもらわないといけないというような面倒くさい状況であり、商談としてはまだまだ期待できる状態にはないということになるのです。

 こうした傾向は、企業の購買に関する意思決定構造がとても複雑になったリーマン・ショック以降、顕著になったというのは第1回で説明した通り。その結果、提案や見積など「自分たちが何をやったか」という「営業プロセス」では進捗を正確に測れなくなっています。

 では、いったい何を使って営業活動の進捗を測ればいいのでしょうか。その答えが「顧客の購買プロセス」です。

 顧客の購買プロセスとは、顧客が問題や課題に気付くところから社内でコンセンサスを得て購買の意思決定をするまでの過程をプロセスに分解・整理したもの。この考え方で、先ほどの車を買い替えるケースを整理するとどうなるでしょうか。

「(1)夫の要望顕在化」→「(2)仕様の具体化」→「(3)妻の意欲喚起」→「(4)夫妻でディーラー訪問」→「(5)夫妻で試乗」→「(6)条件交渉」→「(7)購入」

 という7つのプロセスになるはずです。そして、ディーラーの営業担当者からすると、この商談はまだそのうちの2つ目のプロセスまでしか進んでいないということになります。

購買プロセス管理の落とし穴

 このように顧客の購買プロセスで営業活動の進捗を測ろうとするとき、陥りがちな落とし穴があります。それは、既存の営業プロセスから顧客の購買プロセスを推し量ろうとすることです。

 たとえば、営業プロセスが、

「訪問の準備」→「課題ヒアリング」→「提案」→「見積提示」→「提案後フォロー」→「受注」

 となっていて、顧客の購買プロセスを、

「課題顕在化前」→「課題の顕在化」→「情報収集」→「比較選定」→「稟議・意思決定」→「発注」

 としたとしましょう。

 顧客の現場担当者から商談が始まって、受注するためには顧客のトップ層で意思決定をしてもらわなければならないような営業の場合、顧客の購買プロセスの各段階で提案と見積を繰り返すということがよくあるはずです。現場の担当者の関心を引くために、早いタイミングでボクシングのジャブのような汎用提案と仮見積を出します。

 そして相手が乗り気になったところで、中身を詰めていきながら提案と見積を作り直していくのです。現場の担当者からOKをもらった上で、今度は社内説明用に提案書を見直し、最後は稟議書の付属資料として提案書と見積を改めて出し直します。

 これを営業プロセスで見ると、「提案」と「見積提示」を何度も繰り返していることになるのですが、顧客の購買プロセスで見れば、確実に「課題の顕在化」→「情報収集」→「比較選定」→「稟議・意思決定」へと進んでいることがわかると思います。

 大事なのは、「営業プロセスと顧客の購買プロセスは独立した関係であり、それぞれを見ることで適切に状況をつかむことができる」ということです。「提案しているのだから、きっと相手は情報収集プロセスにいるはずだ」「見積まで進んだから、比較選定プロセスまで進んだはずだ」などと営業プロセスから顧客の購買プロセスを推し量ってはいけません。実際に顧客がどんな状況にあるのかは聞かないとわからないのです。そこを意識した活動をすることに意味があります。

 しかも、顧客はわれわれから見えないウェブの世界で情報を入手して、どんどん先に進んでいるのです。自分たちが何をやったかということをチェックするだけのマネジメントは、意味を持たなくなってきているということがおわかりいただけたでしょうか。

角川淳 著 『営業デジタル改革』(日本経済新聞出版社、2019年)、「第2章 顧客の変化についていけない営業現場」から
角川 淳(つのかわ・あつし)
トライツコンサルティング株式会社 代表取締役。京都工芸繊維大学工芸学部電子工学科を卒業後、専門商社、コンサルティング会社を経て、2012年トライツコンサルティング株式会社を設立。25年以上にわたり、B2Bマーケティング&セールス分野のコンサルティングに携わっている。現状を否定して大掛かりなスクラップ&ビルドを促すのでなく、既存の良い部分を活かし、時代の変化に合わせて「もっと楽しく」「もっとわかりやすく」「もっと顧客のために」なるように営業活動をリフォームするというスタイルが基本。それぞれの事業に合った営業のコンセプト策定から、しくみづくり、必要な組織化やシステム化、次世代リーダーの育成支援などに取り組むことで、事業の継続的な発展を支援している。また、自らプログラミングを行い、現場に合ったシステム構築までを行う。著書に『予算達成!法人営業7つのツール』(日本経済新聞出版社)など。

キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営・企画、営業、経営、マーケティング、イノベーション、AI、IoT、ICT

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