日本の「中国人」社会

近くて遠い・遠くて近い存在、中国人はどこへ向かう? ジャーナリスト 中島恵

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 中国のSNSを見ていると、日本の仔細な情報まで紹介されていて驚かされる。逆に日本側にも、中国で話題になっているトピックスが瞬時に伝えられるようになってきた。政治や経済、外交以外の街ネタや芸能ニュースも以前に比べれば増えてきた。

 だが、中国人のネットワークで紹介される日本の情報をよく見ていくと、小さな間違いに気づき、「ちょっと違うんだけどなあ……」と思うことがしばしばある。翻訳の過程での単純ミスや、中国人の生活にはもともと存在しないものなので想像が及ばず、間違って解釈されているものもある。

 おそらく逆も同様で、日本人から見た中国にも小さな間違いは数多くある。お互いに根本的なところで、まだ知らないこと、誤解していることはあまりにも多い。

 九州に住む友人の中国人は、日本に住んで10年以上になるが、ときどき日本人から「漢字がお上手なんですね」と感心される、と苦笑していた。

 私も中国人から「中」という姓と間違えられたことが幾度もある。箸を上手に使うところを見て、褒められたことも数知れない。

 日本に住む中国人が増えれば、相互理解も自然と進んでいくというわけではない、ということが取材をするうちにわかってきた。

 むしろ、日本国内に中国人が増えれば増えるほど、中国人同士のコミュニティが強化されて、日本社会から隔絶された「空間」を大きくしていく面もある。その背景には、SNSの発達という要素も大きく関係している。

 これは、日本人にとっても、中国人にとってもあまり健康的ではないように思える。時間はかかるのだろうが、お互いに少しずつ歩み寄り、理解を進める必要がある。完全に理解し合うことは難しいかもしれないが、少なくともその努力はすべきだろう。

 その際には、中国人コミュニティの「閉鎖性」だけを問題にする前に、私たち日本人の「閉鎖性」についても自問すべき点がないかも考えなくてはいけない。

 たとえば、些細なことだが、しばしばメディアなどで「中国人のゴミ出しのマナーがなっていない」と問題視されることがある。この閉ざされた思考が、ますます海外から来て日本で暮らす人々を孤立させる面がないだろうか。

 もちろん社会のマナーやルールは守らなくてはいけないが、少なくとも私が日本で付き合う中国人に、問題を起こすような人は思い浮かばない。何しろ日本で70万人以上も暮らしていて、いろいろな人がいる。

 おそらく、ここで必要なのは、「中国人のゴミ出しのマナーは……」の「中国人」を個人の名前に置き換えてみることだ。

 自国で暮らす外国人を特別視するのは、日本人ばかりでないというのは、最近の世界のニュースからも明らかだが、できるかぎり、「○○人は……」と一括りにする視点を捨てることが、開かれた社会につながっていくのではないかと思う。

 今こそ、お互いの顔と目をしっかり見て、直接対話する機会を作っていくことが、ますます大事になってくるのではないかと感じている。

(おわり)

中島恵 著 『日本の「中国人」社会』(日本経済新聞出版社、2018年)、「エピローグ 黄さんが日本で送った日」から
中島恵(なかじま・けい)
1967年、山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経てフリージャーナリスト。中国、香港、アジア各国のビジネス事情、社会事情などを執筆している。著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』『なぜ中国人は財布を持たないのか』(ともに日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論社)、『「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?』『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(ともにプレジデント社)などがある。

キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営、営業、国際情勢

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