郷原弁護士のコンプライアンス指南塾

企業の不祥事対応における第三者委員会の活用(2)調査事項、調査手法、報告書確定のプロセス 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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(3)従業員に対する匿名アンケート

 また、最近では、第三者委員会が従業員に対する匿名アンケート調査を実施し、その回答を調査に活用している例が多い。しかし、匿名アンケートの回答は、ある意味「無責任な回答」であり、問題を把握するための手がかりにはなり得るが、それ自体を事実認定に用いるのは危険だ。

 スルガ銀行のシェアハウス融資をめぐる不正についての第三者委員会の報告書で、営業プレッシャーに関して「数字ができないなら、ビルから飛び降りろといわれた」「死んでも頑張りますに対し、それなら死んでみろと叱責された」などの事実が赤裸々に記載され、マスコミでセンセーショナルに取り上げられたが、これらはほとんどが匿名アンケートの回答だ。パワハラの事実をヒアリングで引き出すのは極めて困難で、匿名アンケートだからこそ、多くの回答が出てくると言える。しかし、あくまで「匿名」による回答であり、確認された事実ではない。これらの回答から、「パワハラ的環境が存在したこと」は窺われるとしても、それが、問題とされた不正とどう関係するのかはわからない。このような事実を、委員会の調査結果の中でどのように位置づけるかについて慎重な配慮が必要である。

第三者委員会報告書の作成および確定のプロセス

 第三者委員会の中立性・独立性は、その調査が、委員会独自の判断で適切に行われることに加えて、調査結果に基づき、委員会のアウトプットとして公表される「第三者委員会報告書」が、依頼者側の介入を受けることなく、独立した判断で作成され、その内容が確定することによって担保される。報告書の作成・確定のプロセスは、第三者委員会の中立性・独立性の核心と言える。

 しかし、第三者委員会の報告書の内容は、依頼者側の企業や役職員、関係者個人の重大な利害に関わるものであり、一度公表されれば、世の中にも、また関係当局においても、当該不祥事等の事実関係について「真実」として取り扱われることになる。それだけに、報告書での事実認定の摘示は慎重に行われなければならない。

 第三者委員会の判断の独立性を確保するためには、報告書確定前は、依頼企業側には一切の情報を与えるべきではないという考え方もあり得る。しかし、その問題について最も多くの情報を有し、詳しく事情を知っている依頼企業側が全く関与せずに調査が行われ、報告書の内容が確定した場合、重大な誤謬や誤解を生じるリスクがある。第三者委員会の独立した判断と責任において報告書が作成されるという原則に反しない範囲で、依頼企業側が関与することは、むしろ必要なことと言える。

 そういう意味で、少なくとも、客観的事実、前提事実について報告書の記載に形式的な誤りがないか否かの確認については、当該企業側のチェックを受けるのが合理的な方法だ。

 また、当該不祥事の核心部分に関しても、第三者委員会の認定事実として報告書で公表することが依頼企業や役職員、関係者に重大な影響を与える事項については、報告書の確定前の段階で、当事者の企業側に第三者委員会の認定事実を提示し、意見を求める方が合理的な場合もある。

 もちろん、報告書の確定前に、委員会が「報告書案」を提示し、その案に対して、企業側が意見や要望を述べる機会を与えたとしても、それは、その内容について「了解」を得るためものではない。あくまで、委員会が独自に判断するための材料としての意見を聞く機会を与えるに過ぎない。企業側が意見や指摘をしなかったとしても、企業側がその内容を受け入れたことになるものではないし、意見や指摘が行われたとしても、それを検討した上で、第三者委員会が採用しないこともあり得る。

 第三者委員会の中立性・独立性の確保と、報告書の真実性の確保というのは、依頼企業の関与をどのような範囲で行わせるか、多くの場合、困難なジレンマに直面することになる。第三者委員会の委員長がリーダーシップを発揮し、両者のバランスを図ることが必要である。

郷原 信郎(ごうはら のぶお)
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2003年から桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。2004年法務省法務総合研究所総括研究官兼教官。2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授、コンプライアンス研究センター長。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2014年関西大学客員教授。現在、公職として、国土交通省公正入札調査会議委員、横浜市コンプライアンス顧問を務めている。

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営

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