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企業の不祥事対応における第三者委員会の活用(2)調査事項、調査手法、報告書確定のプロセス 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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 その記事には、第三者委員会発足前に、当時の田中社長、室町会長、法務部長等の東芝執行部が、原発子会社の減損問題を委員会への調査委嘱事項から外すことを画策するメールが掲載されていた。その東芝執行部の意向は、東芝の顧問の森・濱田松本法律事務所から、第三者委員会の委員の松井秀樹弁護士に伝えられ、結果的に、第三者委員会報告書では、原発事業をめぐる問題は調査事項から外された。

 この報道で、東芝第三者委員会が、「日弁連の第三者委員会ガイドラインに準拠した中立・独立の委員会」とされていたのに、実質は、裏で会社側の意向どおりに動く「偽りの第三者委員会」であったことが明らかになった。本来、不祥事で信頼が失われた企業に代わって、信頼回復の役割を果たすべき第三者委員会によって、逆に東芝に対する社会的信頼の喪失が決定的なものとなってしまったのである。

 日本を代表する伝統企業の東芝は、第三者委員会も加担する形で隠蔽されていた「米国の原発子会社での巨額の減損」をめぐって、その後、一層深刻な事態に陥り、企業の存続すら危ぶまれる事態に陥っていった。東芝の第三者委員会としては、米国の原発子会社での巨額減損の問題は、絶対に目を背けてはならない問題だった。

調査手法をめぐる問題

 第三者委員会の調査手法は、かつては、役職員等の関係者に対するヒアリングが中心で、それに関連して、情報を収集するための手段としての全従業員に対するアンケート調査、内部通報窓口の設置というのが一般的な方法だった。最近では、調査の手段としてデジタルフォレンジックや従業員に対する匿名アンケート調査が重要な手段となっているが、それぞれに問題がある。

(1)責任追及の対象者のヒアリング

 第三者委員会は、不祥事の事実を解明し、原因を究明することで、再発防止に向けての抜本的な対策を講じるという組織的対応を行うことを目的とするものであり、本来、責任追及を目的とするものではない。

 しかし、比較的小規模な企業の不祥事のように、経営者等の特定の個人の関与の程度が大きい場合には、第三者委員会の調査結果如何(いかん)では、個人的責任の追及につながる可能性が高い。この場合、第三者委員会の調査の対象となる個人としては、第三者委員会の調査への対応如何では、その個人にとって重大な不利益が生じるリスクがあり、調査への対応について弁護士の関与が必要になることも考えられる。例えば、当該個人が選任した弁護士がヒアリングに同席するとか、資料の提出を、当該弁護士を通じて行うことを条件に調査に応じる、ということもあり得る。

 このような場合、個人の信用や名誉にも関わる問題について弁護士に相談し、その助言にしたがって対応すること、弁護士を対応窓口とすることは、調査対象者の正当な権利である。当該弁護士が調査妨害的行動をとったり、調査妨害を指示したりしたなどの事情がない限り、第三者委員会側は、当然の権利行使として受け止めるべきであり、弁護士の関与自体を調査の制約要因のように扱うべきではない。むしろ、委員会と当該弁護士との間で十分に協議していくことが円滑かつ効率的な調査につながるはずである。

(2)デジタルフォレンジック

 もともと、第三者委員会による調査は、任意の協力によるヒアリングが中心であり、不利益供述を引き出して事案の真相を解明する上で限界があった。それが、コンピューターやデジタル記録媒体の中に残されたデータを解析するデジタルフォレンジックによる客観的な資料の収集が可能となり、事実解明のレベルが全体として高まったことは間違いない。しかし、それに頼りすぎると、供述を軽視して、メールデータ等の外形的事実に偏りすぎた認定が行われるなどの弊害が生じる可能性もある。結局のところ、「何を考え、何を行ったのか」ということは、その当事者に聞かなければわからない。メールも、それを書いた趣旨や、目的によって、その意味は異なる。また、不正調査の手法としてデジタルフォレンジックという方法が定着すると、何らかの不正に関わる場合に、最終的にメールデータが証拠になることを意識したメール送信が行われる可能性もある。デジタルフォレンジックは、不正調査の有力な手段ではあるが、過信するのは危険である。

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