日経SDGsフォーラム シンポジウム

SDGs 経営の新指標へ 社会的課題をビジネスに(下)

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 気候変動や環境破壊、食料不足など地球規模で取り組む課題が山積するなか、国連は問題解決の指針としてSDGs(持続可能な開発目標)を採択した。SDGs達成に向け企業は何をなすべきか。日本経済新聞社は昨年12月7日、都内でシンポジウムを開催。経営者や有識者が課題解決のための解を探った。

■講演

環境貢献製品を創出

積水化学工業 代表取締役社長 高下 貞二 氏

 企業の持続的発展にはESGを経営戦略と捉え、明確な目標を定めて実行することが不可欠だ。当社では環境を経営の中核に据え、エコロジーとエコノミーを両立させる環境貢献製品を創出し、市場を拡大している。

 環境負荷低減の取り組みでは化学業界初となる「SBT認証」を取得。中期計画では120億円の環境貢献投資を設けた。健康寿命の延長、社会インフラの強靭化、防災・減災などの社会課題解決への貢献を掲げ、安全、コンプライアンス、CS(顧客満足)品質の向上に注力している。

 具体的な取り組みとしては例えば、老朽化した下水道管路をロボットによるSPR工法で道路を掘り返さずに低コストで改修。また高齢化問題に対しては高齢者向けサービス、施設・設備の提供を行う。エネルギー関連では蓄電池標準搭載のスマートハイムを提供。二酸化炭素(CO2)排出、光熱費、電力不安がゼロの住宅だ。災害対策では雨水貯蓄システム「クロスウェーブ」が、気候変動適応事例10に選定された。ゴミからエタノールをつくる資源循環システムも発表した。

 これらの事業を通じて世界の人々の暮らしの向上、地球環境への貢献を果たしていく。それが我々のグループビジョンであり、持続可能な成長への戦略にもなっている。

■ESG講演

ESGで年金安全運用

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 市場運用部次長兼スチュワードシップ推進課長 小森 博司 氏

 GPIFは年金財政を100年間で均衡させるため積立金を活用しており、運用実績は165兆1千億円で世界でも最大規模の年金運用機関だ。運用成績は3.33%になっている。年金は保険料収入と国庫負担で9割程度が賄われており、運用成績が変動しても全額が年金に影響を与えるわけではない。

 我々は100年後を視野に入れた超長期の分散投資を行っている。東証1部上場企業全社2300社と先進国から新興国まで2800社の外国株式を保有している。日本と世界全体の経済の安定成長が使命なので、例えば短期的に業績を上げていても公害を出す企業は持続可能かという疑問が出てくる。ポートフォリオを安全に運用するためには環境や社会問題など負の外部性を最小化する必要がある。

 ESG評価に基づくポジティブスクリーニングにより総合型とテーマ型の3本の指数を選定。環境テーマの2本を選定し、5本合計で3兆円を投入して運用している。公益事業やエネルギー産業では環境負荷が大きくなるが必要不可欠な産業なので売上高から炭素効率を導き出し、情報開示や改善努力も含めて評価している。

 こうした運用を通して、将来の年金財政を確実かつ安全にするよう取り組んでいる。

■ESG講演

温暖化防止へ指数公開

S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス 日本オフィス統括責任者 牧野 義之 氏

 当社のS&P/JPXカーボン・エフィシェント指数は、ESGのE、環境に着目した株価指数だ。日本株は東証株価指数(TOPIX)をベースにしている。気候変動が大きなリスクとなっているが、当社もそれに取り組むためにGPIFの指数公募に応募した。

 売り上げに対する炭素排出量から炭素排出効率を換算するこの指数公開で、中長期的に地球にやさしい企業への投資を促して地球温暖化を防止していく。炭素を排出する企業の方が多くては、地球環境は変わっていかない。ESG投資に資するように、流動性が低い銘柄を一部除外している。

 また、公共やエネルギー分野など炭素排出量が多いが社会的役割を担っている産業もある。そこでは情報公開をしていない企業を除外するなど、温暖化ガス排出リスクを抑える一方で、幅広い分野への投資を維持している。

 この指数のもう一つの特徴は、環境リスクを見積もる英国の情報会社トゥルーコストのデータを基に年1回3月に銘柄を入れ替えていることだ。リスクとリターンについては親指数のTOPIXとほぼ同じだ。

 同指数は今後大きく活用されていくだろう。指数の社会的意義として、日本でも指数投資に関心が高まることを期待している。

■パネル討論 ESG投資が実現する未来の形~
~持続可能な社会の実現を目指す、世界の潮流と日本の展望~

◇パネリスト

金融庁 総合政策局総務課国際室長 池田 賢志 氏

野村アセットマネジメント 執行役員 株式CIO 荻原 亘 氏

アサヒグループホールディングス 理事 CSR部門 ゼネラルマネージャー 鈴木 敦子 氏

国際大学 大学院国際経営学研究科 准教授 伊藤 晴祥 氏

◇コーディネーター

日経BP社 日経ESG編集長 田中 太郎 氏

SDGsは大きなビジネスチャンス

 田中 GPIFにより市民権を得たESG投資の世界の潮流は。

 池田 企業、経済の持続的成長と安定的な資産形成、国民厚生の増大にもSDGsは重要だ。中長期的な企業価値とリターン向上の実現には、サステナビリティーやESGが課題。地域金融機関が顧客と価値を共有し地域社会が発展する好循環を狙っている。

 鈴木 遂行中の中期計画で、ESGへの取り組み強化を目標にしている。社会に与えるポジティブインパクトの拡大のため、酵母菌、乳酸菌を農業に使う新技術で社会に貢献する。ネガティブインパクトの排除には環境、人権、アルコール関連問題が課題だ。アサヒカーボンゼロという目標を発表、CO2排出量を2050年に実質ゼロにする。

 現在は主力商品スーパードライの350ミリリットル缶生産の購入電力をグリーン電力で賄っている。SDGsは1社だけで解決できることではないと認識している。

 荻原 よく「ESGで企業収益が増えるのか」「ESG投資すると利益が上がるのか」と聞かれる。仮説だが長期的な視点ではイエスだ。ESGとSDGsはよく似ているが、株式投資の概念からは大きく違う。

 ESGはリスクにどう対応していくか、SDGsは17のゴールとそれぞれの小項目を見ることで、どの分野で何をすれば収益を上げられるかイメージしやすい。株式投資との親和性が高く、問題解決が企業の成長にそのままつながる喜ばしい概念だ。

 伊藤 ESG、CSR(企業の社会的責任)の要因と企業価値、投資リターンの研究は米国だけで2200ぐらいある。5割の研究がポジティブな相関があるといい、4割は不明、1割がネガティブだ。日本ではまだ実証研究が少なく10足らず。確かな根拠を示すためには、もっと研究が必要だ。

 池田 金融セクターの中で持続可能なファイナンスをつくる動きは新興国でも起きている。東南アジア諸国連合(ASEAN)はグリーンボンド基準やソーシャルボンド基準などを出して投資を呼び込もうとしている。金融庁が参加しているNGFS(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)には40超の新興国が加盟しているが、そのうち15カ国が政策としてサステナブル・バンキング促進のガイドラインやロードマップを持っている。

社会課題への感度上げ価値の多様化に対応

 田中 アサヒグループホールディングスでは経営のグローバル移動が進んでいるが、ESGの取り組みに変化はあるか。

 鈴木 欧州のビール会社を大型買収するまでは、ESGをそれほど意識しなくても企業ランクの低下や投資の減少を心配する必要はなかった。現在はグローバルスタンダードな情報開示に変わりつつある。

 田中 投資家から情報開示はどう見えているのか。

 荻原 ESGに関する情報はグローバルなテーマが多い。内需型の企業でも流通全体のトレーサビリティーが話題になる。例えば森林伐採した建設資材や労働問題などが企業の長期的な収益を揺るがす。これから最終消費者も感度が上がる。投資先企業の方々にはより感度を上げてほしい。

 池田 銀行、証券、保険、それぞれの業界団体がSDGs宣言をしたり行動規範にSDGsの要素を入れ込んだりESG投資に注力するなど、業界全体の取り組みが盛り上がっている。中期経営計画の一つとしてSDGsを入れた企業、それらにひも付いた投資商品を販売する会社も増えている。

 荻原 やはり国内ではGPIFがリードしている状態だ。今後出てくるのは、もっとテーマを絞ったESG投資とインパクト投資だ。運用会社が求められているのは、優れた運用成果を出して顧客に成功体験をもたらし、SDGsに共鳴してもらうことと、多様化した価値観に共鳴してもらえる商品を出していくことだ。

 伊藤 日本では伝統的に社会貢献を実践してきた部分はある。無理せずできるところから取り組むことで、自然に企業価値が高まっていくのではないか。それを学問的に証明したい。

 鈴木 グローバル企業にとって、ソーシャルな案件は当たり前だったはず。SDGsもESG投資も国や企業の大小を問わない共通基盤になるだろう。

■クロージング講演

SDGs投資拡大へ

一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授 伊藤 邦雄 氏

 SDGsは長期投資家のニーズが顕在化したもので、にわかに生まれたのではない。責任投資規制、SDGsの目標に包摂性が取り入れられたこと、非財務情報である無形資産の評価などの潮流があった。

 日本ではこういった価値観が「三方よし」などと一緒に語られ精神論に陥りがちだが、既に行ってきたと楽観視していては、変化は起こらない。

 現在では学校教育にも探求型学習素材としてSDGsが取り入れられている。今後次世代も巻き込んで議論が続けられていくだろう。

 気候変動は世界の最重要課題で、前回のダボス経済会議では上位5項目のうち3項目が環境問題だった。気候変動などの物理リスクだけでなく法規制などもあり、それによってレジリエンスは大きく変わる可能性がある。シナリオ分析による情報開示が要求されるが、これまで日本ではそれをやってこなかった。だから投資家も気候変動リスクについて勉強する必要がある。

 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)には既に513社の企業が賛同しており、現在も増え続けている。低炭素社会実現に向け、SDGs投資は拡大していくはずだ。企業と投資家の対話が促進され、サステナビリティーが実現する。

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