日経SDGsフォーラム シンポジウム

SDGs 経営の新指標へ 社会的課題をビジネスに(上)

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 気候変動や環境破壊、食料不足など地球規模で取り組む課題が山積するなか、国連は問題解決の指針としてSDGs(持続可能な開発目標)を採択した。SDGs達成に向け企業は何をなすべきか。日本経済新聞社は昨年12月7日、都内でシンポジウムを開催。経営者や有識者が課題解決のための解を探った。

■挨拶

外務大臣政務官 鈴木 憲和 氏

 国内のSDGsの盛り上がりは経済界がけん引しており、SDGsを新たなビジネスチャンスと捉える動きが活発化している。政府はSDGsを国家戦略の主軸の一つに据え、「官民連携の科学技術イノベーション」「SDGsを原動力とした地方創生」「若者や女性の活躍推進」を3本の柱としている。SDGs達成に向けた取り組みは企業にも消費者にも利益をもたらす好循環となり、持続可能な経済成長につながる。

 今後も、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会、25年の大阪万博に向け、企業や地方自治体がSDGsを成長のチャンスとして活用することを全力で後押しする。

■挨拶

国連広報センター 所長 根本 かおる 氏

 国連を代表し、アミーナ・J・モハメッド国連副事務総長のメッセージを伝える。

 世界は複合的な課題に直面し、その解決には一致団結したグローバルな行動が急務になっている。SDGsは持続可能な未来を目指す私たちのロードマップでありビジネスチャンスだ。

 民間との連携の仕組みである国連グローバル・コンパクトは、世界中の1万3000社を超える企業と共に、SDGs達成に向けた企業活動の触媒の役割を果たしている。力を合わせ「誰一人取り残さない」平和な世界を構築するために、すべての企業が行動を加速し、さらに野心的に取り組んでいくことを、国連は望んでいる。

■基調講演

日本の事例、世界に発信を

国連開発計画(UNDP) 政策・プログラム支援局 戦略政策ユニット長 ペドロ・コンセイソン 氏

 

SDGsの実施に向けて必要なエンジンは2つ。

 1つ目のエンジンは「資金調達」。最貧国向けの政府開発援助(ODA)をどう拡大するのかが重要だ。SDGsを実施するには、民間、公共、国内外すべての資金調達が必要。直接投資も下がっており、課題がある。

 一方で、資産運用の観点から、大きな資金的なリソースが低リターンで運用されているのは良いトレンドだ。持続性と責任ある投資が重視されている。日本がESG(環境・社会・企業統治)投資を推進しているのも高評価だ。責任ある投資への機運は高まっている。

 2つ目のエンジンは「技術」。SDGsの前進に大事なツールだ。経済に対し高度の技術、新技術を導入して初めて目標を達成し得る。先進国も途上国も、新しい技術によって知識立脚型の社会、デジタル経済への変遷が加速している。大規模な変遷期にはリスクも存在するが、それはチャンスでもある。日本の国家戦略「Society5.0」はこの課題への正しい対応だ。

 日本はSDGsを民間企業の決断に落とし込む素晴らしい実例がある。それを世界へ発信していくべきだ。世界の目は今後さらに日本へ向けられる。その高いポテンシャルで、今後もSDGsに対するグローバルな援助を期待している。

■基調講演

民間資本の動員は必須

世界銀行グループ 多数国間投資保証機関(MIGA) 長官CEO 本田 桂子 氏

 金融機関の世界銀行グループは、極度の貧困の撲滅と繁栄の共有を目標とし、SDGs達成に向け資金をどう確保するかを第一義的としている。ODAは1990年以降ほぼ横ばい。20カ国・地域(G20)首脳会議でも、民間資本の存在感が高まっている。

 SDGs達成に向け3つの提案をする。

 第1に、MIGAのような官の保証機関を活用し、リスクマネジメントをしながら投資を行うこと。これは裏返せばビジネスチャンスでもある。

 第2に、リスクの保証は複数の会社が提供しているため、各機関の異なる内容を組み合わせて保証を厚くし、リスクが高い国であっても投資すること。

 第3は、保険会社に対して。MIGAは現在、ポートフォリオの63%を再保険に出している。再保険は保険会社が自らプロジェクトを手がけるよりずっと簡単に取り組める仕組みだ。

 民間企業も単に収益を上げるだけでは、株主を含むステークホルダーから評価を得られない時代。開発支援を税金だけに頼るのが難しいなか、リターンが見込める投資でSDGsに貢献できる事業を検討する必要がある。世界7億3600万人の極度の貧困状態を看過できない。世銀はグループ全体でSDGsを支援していく。

■講演

SDGs主流化の潮流

グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン 代表理事 有馬 利男 氏

 国連の予測推定値ではSDGsがもたらすビジネスチャンスは12兆ドル(約1300兆円)。日本の国内総生産(GDP)の2倍以上だ。これを見逃す手はない。SDGsを企業経営の主流に据える潮流があるが、「主流化を誰が求めるのか」「主流化とは何か」「そのために最も重要なことは」の3つのポイントがある。

 企業に対してSDGsの主流化を求めているのは、従来の利害関係者(ステークホルダー)、投資家、顧客だ。SDGsの主流化とは、企業のすべてのバリューチェーンの中で、広く社会に関わる責任を展開し、自立的なビジネスとしてビジネスモデルを確立することだ。

 SDGsを主流化するうえで大事なことは、企業経営と、経営者の哲学だ。どこまで企業そのものを変革していくか。真剣にSDGsに取り組み、新しいビジネスチャンスを捉えて収益を上げていくために、経営概念の転換が求められている。

 さらに企業力をどういう目的でどういう方向に発揮させるか。経済性、社会性、人間性を統合的に追求し、それを企業の品質とすることだ。正しい目的に向かうことで、自らの潜在的な力が大きく発揮できるという経営哲学が重要だ。

 今、SDGsで企業に求められている経営の考え方について、一つの問題提起としたい。

■講演

持続可能社会へ行動を

日本経済団体連合会 会長 中西 宏明 氏

 社会には課題が山積し、その全てを包括的に克服して次世代を創造するのがSDGsだ。その実現には新たな社会コンセプトを据える必要がある。それがSociety5.0 for SDGsだ。人が創造力と想像力を働かせて課題を解決する社会。根底にはデジタル革新と人間の融合が不可欠だ。技術には我々を効率重視から解放し、誰もが自分に合った多様な才能、生活スタイルを築ける社会に導く力がある。その先にできる強靱(きょうじん)な持続可能な社会。そこを新たなゴールと定める。

 具体的に9つの分野を変えていく。「都市・地方」「エネルギー」「防災・減災」「ヘルスケア」「農業・食品」「物流」「ものづくり・サービス」「金融」「行政」。これら全てがデータサイエンスや人工知能(AI)などのテクノロジーの進化に伴い、より快適に便利になり、業際はあいまい化して世界が広がっていく。行政もeガバナンスを進めることで、ホスピタリティーを改善できる。

 経団連も変わらなければならない。企業には、社会の仕組みと価値観の変革に挑む強い意志を持ってもらいたい。組織が変わるためには、働く人が変わる道筋をつくらなければならない。日本にはこうしたことを追求できるポテンシャルがある。Society5.0は、経団連の最も大切な基本行動原理であり、会員企業には行動宣言と捉えるよう推進している。

■講演

未来担う子どもに投資

大和証券グループ本社 執行役社長CEO 中田 誠司 氏

 今、企業に求められるのは社会的課題解決をビジネスと同時に考え、長期的ビジョンを持つこと。企業が目指す道のよりどころとしてSDGsは最適と考える。当社では中期経営計画にSDGsの観点を取り入れた。新たなニーズに応えることで経済的価値と社会的価値を両立させていく。

 取り組みの一つであるインパクト・インベストメント債券では、途上国の子どもたちにワクチンを配布するワクチン債、環境に配慮した企業をサポートするグリーンボンド発行などがある。新事業では次世代金融サービス会社Fintertechを設立し、若年層にクラウドファンディングの活用などを行う。また再生可能エネルギーやインフラに投融資する大和エナジー・インフラを設立した。社会的課題の観点では農業ビジネスの新会社大和フード&アグリで情報通信技術(ICT)を導入した農産物栽培や農業ビジネスの事業拡大を支援する。子どもの貧困に対しては貧困問題に取り組む団体を支援する基金を設立し「こどもスマイルプロジェクト」を開始した。

 証券業界が市場経済の恩恵を受けている一方、資本主義は格差を生み、それが子どもの貧困の一因にもなっている。本業で得た利益を貧困問題に活用して未来を担う子どもたちに投資していく。

■講演

ITの可能性に挑む

伊藤忠テクノソリューションズ 代表取締役社長 菊地 哲 氏

 SDGsとESGに共通するキーワードは持続可能性になる。持続可能な発展とは、将来世代のニーズを損なうことなく現世代のニーズを満たす発展と定義されている。

 エネルギーの歴史は風力などの再生可能なものを経て石炭や石油など、いつか枯渇する資源に移った。人類は19世紀に石油、20世紀に原子力というパンドラの箱を開けてしまったが、今さら昔には戻れない。これをIT(情報技術)で解決しようとしているのが、現在の我々の立ち位置になる。

 IT活用事例では、AIを使った風力・太陽光発電の出力予測、発電設備の監視や、クラウド・コンピューティングを利用したコンピューターの集約による省エネ、ブロックチェーン技術を使った国際的サプライチェーンでのトレーサビリティー確保などがある。また交流サイト(SNS)やスマートフォンを使ったフードロス削減のためのマッチング、5G・量子コンピューターなどで社会貢献を目指している。

 21世紀はAIが人間を追い越すともいわれ、AIにも倫理を教えるべきという議論も起こっている。地球と人類の健康を守る意志、倫理が試されている。「明日を変えるITの可能性に挑み、夢のある豊かな社会の実現に貢献する」ことを意識し、持続性のある社会実現に貢献したい。

■講演

自然災害の予測に注力

MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス 取締役社長 グループCEO 柄澤 康喜 氏

 MS&ADでは中期経営計画で、SDGsを道しるべに、2030年に実現すべき社会像として「レジリエントでサステナブルな社会」を掲げている。多様化・甚大化する事故・災害、限界に近づく地球環境、格差拡大による社会の活力低下等の社会的課題への取り組みの一つに気候変動の緩和・適応がある。

 災害を起こさない仕組み、起きても最小限のダメージにとどめる環境づくりとして水災・地震への備え提案運動を推進。洪水リスクへの対応では、大学と連携し気候変動プロジェクトを立ち上げ、洪水頻度変化予測マップを公開している。

 このほかにも地方自治体と地方創生包括協定を結び、自然を活用し地域の防災と産業振興を同時に進めるグリーンレジリエンス活動などを行っている。

 さらに異常気象に伴うリスク軽減のため、天候データで指標を作り、指標との差異に応じて金銭の受け取りを行う「天候デリバティブ」を日本の保険会社として初めて提供。農業や電力会社の収益安定化に貢献している。これからの保険会社は自然災害の予測・予防に貢献する視点も必要だ。

 持続可能な社会の実現に向けて、SDGsを柱とした社会との共通価値の創造を実践し、社会に貢献できるグループを目指していく。

(つづく)

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