勝ち抜く中小経営への強化書

役員や従業員への事業承継、円滑に進めるポイントは? 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 佐々木 真佑

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幅広い業務を経験させる

 ヒアリングした企業の多くは後継者を教育するに当たり、経理、営業から製造に至るまで、幅広い業務を若いころから経験させています。後継者は社内のあらゆる業務に対応できるようになり、ほかの従業員や取引先から頼られる存在となります。そうなることで、自然とリーダーシップを身につけていきます。また、事業計画の策定のような経営判断にかかわる仕事を任せることで、判断力に磨きをかけている例もみられます。

 後継者からみて、従業員時代に社内で多様な経験を積むことは、社長就任の要請を引き受けるかどうか決める上でも重要な意味を持ちます。様々な業務を経験し、社内全体の状況を把握できるようになれば、おのずと自社の経営課題、将来性を理解できるようになるからです。そうした理解があってこそ、事業を引き継ぐ決意ができるといえます。

 電気照明器具の製造を手がけるA社の例を見てみましょう。現社長のaさんは経理関係の専門学校を卒業した後、20歳で入社しました。初めの6年間は経理を担当し、その後2年間は総務を兼任しました。きめ細かい仕事ぶりが評価され、28歳のとき、企画・営業担当の課長に昇進します。営業は初めてだったため、異動してから寝る間も惜しんで技術や製品の内容を勉強しました。また、取引先に対しては、問い合わせや依頼に迅速に対応したり、訪問の機会を増やしたりするといった、当たり前と言えることを根気強く行いました。その結果、取引先との信頼関係が深まり、A社の売り上げは拡大していきました。

 その実績が買われて30歳で取締役に抜てきされ、2年後にはグループ会社の社長を任されます。課長時代にはなかった、事業計画や予算の策定の仕事を初めて経験し、判断力を磨くことができたそうです。

 そして、A社専務となっていた36歳のとき、先代社長から次期社長に就任するよう要請されます。先代社長には息子が2人いましたが、従業員や取引先からの評価が高いaさんが選ばれたのです。aさんは他の4人の取締役よりも若いことを理由に固辞したものの、先代社長の自宅に何度も招かれ、説得を受けます。あらゆる業務に精通した取締役は他におらず、要請を断れば、従業員や取引先が困ることになると考え、37歳で社長就任を決意しました。

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