官民連携と地域連携で実現する地方創生

トークセッション/セッション2/セッション3

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■トークセッション

イノベーション待望 産地単位の活性化も

●スピーカー

田部 長右衛門 氏

日本工芸産地協会 代表理事/中川政七商店 代表取締役会長 中川 政七 氏

玉川堂 代表取締役 玉川 基行 氏

日本文学研究者/国文学研究資料館長 ロバート キャンベル 氏

●コーディネーター

日本政策投資銀行 地域企画部次長 中村 郁博 氏

 中村 それぞれの工芸イノベーションへの取り組みと目的を伺いたい。

 中川 中川政七商店は、江戸時代に奈良晒(ざらし)の問屋からスタートし、現在は製造小売業として全国55店舗を展開している。日本の工芸が廃れていくのを見て、工芸企業の経営再生コンサルティングを実施、16社をお手伝いしてきた。一方で、工芸では各社間での分業が進み、産地全体でサプライチェーンが作られているため、産地単位で活性化を図っていく必要があり、2017年3月に工芸メーカー11社と産地の未来を話し合う「日本工芸産地協会」を発足した。

 玉川 玉川堂では、一枚の銅板を金づちでたたいて作る鎚起(ついき)銅器の技を継承している。バブル崩壊後は厳しい時期もあったが、工場見学を受け入れ、製造工程を職人自身が説明し、自社で作った製品を自分たちの手で丁寧に売るという直販に流通を切り替えることで、ものづくりにおいてお客様との密接な関係を構築している。当社の採用への応募者はこのところ60人、40人と、商品だけではなく、職場としても人気をいただいている。

 キャンベル 明治時代以前に出版された「古典籍」は、世界でも類を見ない多元性を持つ、貴重な資源である。国文学研究資料館では、30万タイトルの古典籍につき、文字と絵で検索できるシステム「新日本古典籍総合データベース」を開発している。これは工芸・工業デザインの現場でも活用できる。

地域で雇用が発生 経済・社会に効果

 中村 地域に多くある工芸を活性化できれば、地域で雇用を生み、個性豊かな産業を作り出せる。また、イノベーションにて高付加価値型の産地を興すこともできる。あらゆるモノがネットにつながるIoTや人工知能(AI)により製造現場での雇用が減少していく懸念も高まっている中、手による工程が重要な要素となる工芸は、将来の雇用確保という面でも、戦略的地域産業にもなりえる。この点も踏まえて、工芸イノベーションが有する潜在力とは何か。

 田部 「たたらの里プロジェクト」の経験から言えば、農業から観光業まで、すそ野広く展開できることだろう。そして地域の誇りが取り戻された。地域に元気が出てきたという社会的効果が一番大きな効果だ。

 玉川 インバウンドにて現在注目される「サムライルート」といわれるコト消費が、10年後は「匠(たくみ)ルート」、すなわち生産者を訪ねる究極のコト消費になると考える。消費者がものづくりの現場を訪れ、生産者が自分の言葉で直接にストーリーを伝えていくものだ。燕三条では毎年、100を超す工場を見学開放する産地観光イベント「工場(こうば)の祭典」を開催し、人気を博している。

 中川 工芸産地の最大の問題は「経営がない」ことだ。決算書を読まない、予算表もなく、経営判断のベースがない企業が多い。加えて物があふれ、機能的、値段的な面で、日本の工芸品が選ばれる余地が小さくなっている現在、物だけでなく、その背景を含めて作りこみ、ブランドを形成するという視点にシフトしていかなければならない。

 キャンベル 日本の工芸が国際的に高い評価を得られる可能性は十分にある。そこではストーリーを伝えていくことが重要だ。江戸時代の枕は、引き出しがあり、踏み台にもなり、一物多用という考え方があった。この素晴らしい日本の文化が伝えられていない。一方で、亀の子たわしという素晴らしい発明品は、海外でも多く購入されている。このように、日本らしさが際立つものと、他文化と溶け合うものの2つがある。これらを棚卸しし、しっかりと海外に向けて発信していくことだ。

経営技術の向上など 4つの課題に対応を

 中村 工芸イノベーションと地域活性化の課題や展望は。

 田部 プロジェクト発足時には外部にプロデュースを依頼し、様々な業界の方々と2年かけて徹底的に議論した。内部の人間だけでは発想が内向きになる。外部の意見で練り上げることが大事だ。課題は多いが、各方面の識者や地域の事業者とのつながりによって解決を図っている。

 玉川 燕三条地域では、企業単体ではなく、燕市と三条市の支援の下、地域全体でパリやロンドンなどの海外見本市に出展し、海外進出を進めている。結果、燕三条まで足を運んでくるインバウンドも増加している。150年前のジャポニズムは日本から製品を海外に持って行ったが、工場の見せる化を進め、海外見本市等をきっかけとして世界中から日本の工場見学に来てもらう「ネオ・ジャポニズム」が日本の伝統工芸の未来だ。

 キャンベル 25年の大阪万博が決まり、20年にはドバイで開催される。こういった場で日本の工芸品を単に紹介するだけでなく、日本が世界に誇れる基本的な理念や世界観のプロモーションが必要だ。

 中川 デザインと、その前のブランディングを理解することが必要だ。ブランドイメージの形成には、「何を、いかに伝えるか」が大事になる。伝える上で製品のデザインは大きな役割を果たすが、何を伝えたいかが決まっていないのにデザインはない。ブランドのコンセプトをしっかり定め、それがデザインによって買い手に伝わり共感が生まれれば、結果として売り上げがついてくるはずだ。そのためには経営力の向上とともに、デザインとブランディングを正しく理解させる地域の企業経営者への教育が非常に重要だ。

 中村 各地に眠る工芸技術を中核とした産業振興は、将来の雇用という観点でも、その効果をすそ野広く展開し得る点においても、大きな潜在力がある。これまでの議論で(1)経営技術の向上(2)産地観光の進展(3)海外市場の開拓(4)真のデザインへの到達、という4大要素が出てきた。これらを踏まえ、当行も工芸イノベーションを実現するべく、引き続き皆様とともに考え、行動していきたい。

●セッション2 公園の有効利用と地方創生
■基調講演 公園から地域を変える ─都市公園法等改正と官民連携─

官民連携で公園に魅力を

日本公園緑地協会研究顧問 梛野 良明 氏

 公園や緑の空間は、地域活性化・交流の場であり、都市の魅力になりうる。しかし、継続的な運営、魅力的な空間の維持は公共の力だけでは極めて困難。また、魅力的な空間を演出するにはデザインも重要だ。

 17年に都市公園法・都市緑地法が改正され、民間事業者が収益施設を公園に設置しやすくなった。民間が所有する緑地の認定制度も定められ、「官民連携」と「ストック活用」により、公園や緑を活用した都市・地域の活性化、緑豊かな都市の形成が容易になった。

 背景にあるのは、人口減少と少子高齢化。福祉予算の増大が財政を圧迫、公園の維持・管理が厳しくなってきた。一方、民間では、緑地や環境への関心が高まっている。地域や市民のために、緑や公園の潜在力を発揮するためには、政策の転換が必要になってきた。

 まず、公園についてはその整備を重視する視点から、まちづくり全体の視野での発想、利活用を重視する視点に転換する。そのためには、行政と民間との積極的な連携を加速させ、都市公園をいっそう柔軟に使いこなす運営が求められる。日本公園緑地協会では、公園を管理する地方公共団体と、整備・管理運営を目指す事業者とのマッチングを目的としたポータルサイト「PPnet」を運営している。

 公園での官民連携によって、サービス水準が上がり、利用する市民にも喜ばれ、管理する公共側も維持管理コストを削減できるだけでなく使用料も期待できるようになる。そのためには、公共側が民間の投資をしやすくする環境を整備することが必要だ。

●セッション3 中小企業が活性化する地方創生
■基調講演

中小機構の取り組みと地方創生

中小企業基盤整備機構経営支援部 部長 森田 博行 氏

 中小企業基盤整備機構は、成長ステージや経営課題に応じた支援メニューで中小企業をサポートする機関。起業はもちろん、成長期には販路開拓や海外展開、経営課題解決など様々な支援を行っている。成熟期には、事業の引き継ぎも支援する。 具体的には、研修機関である中小企業大学校を全国9カ所に設置。また、民間の投資会社とともに、中小企業の資金調達を円滑にするための投資ファンドを組成。さらには地方公共団体からの要請に基づき、インキュベーション施設も運営する。創業・ベンチャー支援事業として「ジャパンベンチャーアワード」という表彰事業も展開している。

地域で起業を応援する取り組み「地域クラウド交流会」について

サイボウズ 地域クラウド プロデューサー 永岡 恵美子 氏

 地域で起業を応援する地域クラウド交流会を開催している。交流会型のクラウドファンディングで、地域での起業を応援したい人たちが千円の会費で参加、起業家たちがアイデアをプレゼンし、応援したいアイデアに投票する仕組みだ。参加費のうち500円が、起業家の事業資金になる。 目指すのは、地域のチームワーク。その場だけでなく、他地域の交流会ともつながりを持つことでネットワークが形成される。また、単に資金調達だけでなく、起業に取り組む仲間との連携や顧客の開拓につながる点もメリットだ。地域での起業は、地元特有の課題解決を目指すものが多く、地元にもメリットがある。また、大都市での起業は埋もれやすいが、地域限定なら注目されやすい。参加者と起業家が一体化、地域活性にもつながる。

主催:日本経済新聞社

共催:日本政策投資銀行

後援:内閣府

協賛:シダックス、 マイナビ、日本公園緑地協会、清水建設、スマートウエルネスコミュニティ協議会、青山学院大学、UR都市機構、中小企業基盤整備機構、早稲田大学

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