官民連携と地域連携で実現する地方創生

ご挨拶/セッション1 産地で始まる工芸イノベーション

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 地方創生の観点から日本が直面する課題解決に挑む日経地方創生フォーラム「官民連携と地域連携で実現する地方創生~実装に入った地方創生 具体的事例から考える持続可能な経済循環~」(主催=日本経済新聞社、共催=日本政策投資銀行、後援=内閣府)が2018年12月14日、東京・大手町の日経ホールで開催された。「産地で始まる工芸イノベーション」「公園の有効利用と地方創生」「中小企業が活性化する地方創生」などをテーマに、識者らが講演、具体例を交えて白熱した議論を交わした。

■ご挨拶

異次元の地方創生を推進

内閣府特命担当大臣(地方創生)/まち・ひと・しごと創生担当大臣 片山 さつき 氏

 我が国の総人口は減少が続いている。少子高齢化、東京一極集中の進行によって地域の活力が失われることは大問題で、安倍内閣では地方創生を最重要課題の一つに掲げている。最近では、若者を中心に地方移住への関心が高まるなど明るい兆しも見え始めていることから、支援の充実をすすめている。地方での修学・就業を促進する新しい交付金やU・I・Jターンによる起業・就業者の創出を行うための新たな財政支援も検討中だ。

 第4次産業革命を体現するスーパーシティ構想に向け、有識者の懇談会を開催。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」も改訂する予定だ(※)。「次元の異なる大胆な地方創生の実現」を強力に推進したい。

 それには官民連携・地域連携が極めて重要になる。官をグラウンドキーパーに、民間はじめ多くの関係者が主役のプレーヤーとして参画・連携することが必要不可欠だ。国民にも理解を深めてもらい、地方創生が全国的なうねりになることを期待したい。

※12月21日に「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2018改訂版)」を閣議決定

●セッション1 産地で始まる工芸イノベーション ~伝統ものづくり技術で切り拓く地域の未来~
■主賓挨拶

工芸の力で地方を元気に

参議院議員/日本工芸産地協会顧問 林 芳正 氏

 日本工芸産地協会の顧問としてここ数年全国の産地を訪れ、地元の経営者の方々と話をしてきた。工芸は地方経済に元気を呼び起こすために、押すべきボタンの一つだと実感している。

 世の中では人工知能(AI)やロボットが人間に代わり仕事をするようになるといわれている。しかし、新しい時代の科学技術や教育のあり方を考えたとき、人間ならではの独創性や感受性はますます重要になる。大量生産で瞬く間に作られた工業製品は市場で短期間のうちに値下がりしたりするが、ワインのような人の手をかけた製品は反対に時とともに値上がりするものもある。

 地方に息づく工芸品は、日本ならではの優れた製品として海外の人々から高い評価を受けているのをよく目にする。各地に根付いた伝統の技術を何代にもわたって継承しながら、現代のテイストにも合わせてしっかりとしたものを作っているからだろう。工芸を通して地方創生の鍵が見えてくるのではないだろうか。

■主催者挨拶

地域活性化の目玉と期待

日本政策投資銀行 代表取締役社長 渡辺 一 氏

 日本政策投資銀行は地域の活性化や地域経済への貢献を事業目的の一つとしている。その立場からこのフォーラムではこれまで、「水道事業のコンセッション」「グリーンインフラ」といったテーマで共催してきた。今回は、地方創生の新しいテーマとして「工芸イノベーション」を提案した。当行の地域企画部は地域への貢献を課題として幅広く活動している。観光振興やそれをコーディネートするDMO(観光地経営組織)、地域産品のブランド化から輸出まで行う地域商社の設立など一連の取り組みとして手掛けている。

 こうした活動から各地の物産に地域の伝統ある優れた工芸品が数多くあること

に気づいた。観光や経済をけん引する目玉に必ずなると確信したのである。

 2019年以降、日本では世界が注目するビッグイベントが目白押しだ。大勢の外国人が訪れ、日本の各地を見て回るだろう。工芸が地域活性化の起爆剤となる格好のチャンスが到来している。

■基調講演 たたらの里づくりによる地方創生

たたら事業を世界へ発信

田部 代表取締役社長 田部 長右衛門 氏

 田部家は約550年前より代々「たたら製鉄」の事業を行ってきた。製鉄には大量の炭が必要なため、江戸時代の全盛期は現在の大阪市より広い2万5000ヘクタールの山々を購入し、従事者は4000~5000人いた。当時の奥出雲地方での鉄生産量は全国の7~8割であり、一帯は大工業地帯に発展した。

 しかし、明治維新を機にたたら製鉄は衰退する。鉄鉱石を溶かして作る製鉄が主流になったこと、明治維新を機に藩制が終わりメインの売り先がなくなったことなどがその理由だ。田部家においても、1923(大正12)年に操業を止め、以降90年以上にわたり林業などの様々な事業を展開してきた。

 2018年5月、私は約100年ぶりにたたら製鉄を復活させた。かつて1万人いた地域が、今は000人程度の限界集落になりつつあることへの危機感が募ったためだ。16年に社内にたたら事業部を立ち上げ、「現代のニーズに合った製品を作る」「観光や研修需要を取りこむ」「職人や芸術家の集まる地域を作る」などを決断した。

 そして、たたら製鉄の復活と同時に始まったのが「たたらの里創生事業」だ。平成の大合併で行政は肥大化しているが、われわれがいるような小さな地域では、昔ながらの細分化されたコミュニティー単位で動いている。そこで、地域振興に取り組むエリアの単位を「里」と名付け、里長と呼ばれるオピニオンリーダーを作り、各エリアの強みを磨いて伝えていくシステムを考えた。里長同士が横連携していくことで、行政間で縦割りにならないような地域連携を図ることができるはずだ。

 たたらの里創生では(1)四季折々で楽しめる山作りを行う環境プロダクション事業(2)玉鋼(たまはがね)を使った製品作りをする銘品プロダクション事業(3)地域の特産品を提供する食品プロダクション事業(4)観光に来てもらい地域経済を回す観光プロダクション事業を立ち上げた。この4分野を通じて山を育み、森を生かして地域を良くする創生事業を展開していく。

 18年10月には、地元に全国初のたたらショップ「奥出雲前綿屋 鐵泉堂」を開設した。玉鋼を用いた限定品のゴルフパターや和包丁、ナイフ、鉄瓶、靴べら、和くぎなどの商品を販売している。さらに19年1月からは東京での販売、19年度中には欧州での販売を目指して取り組みを進めている。

 今後は、古民家再生活用事業、里山再生事業、職人や芸術家が集まれるような定住促進事業、高付加価値な農業品や加工品を作る農業推進事業などを行い、まずは今後10年で今の3倍、3000人の人口を目指す。私の代でたたら事業を世界に羽ばたかせ、後世につないで地域を元気にしていきたい。

■基調報告 地域伝統ものづくりの新たな挑戦 ~工芸の技術力とデザインを基に起こすイノベーション~

ビジネスモデル構築が鍵

日本政策投資銀行 地域企画部長 高田 佳幸 氏

 伝統的工芸品の生産額は1990年ごろの約5000億円を最盛期として、25年後の2015年には約1000億円と5分の1に減少した。従業員も20万人から6万5000人と、約3分の1まで減少している。その要因は工芸産業の産地・流通構造における問題が大きい。

 昨今の商品サイクルは非常に早くなっており、使い手のニーズに的確に応えて新商品を開発、生産することが必要になってきた。しかし、工芸品の生産の多くは分業制が敷かれており、機動的な対応がしづらく、消費者との距離が遠いのでタイムリーにニーズを把握しにくい。また、工芸品は従来、産地問屋から消費地問屋を経由して百貨店などで販売・使用されてきたが、近年では百貨店が低迷しているのに加えて販売チャネルが多様化しており、この時代の変化に対応できていない。

 このように工芸品は危機的な状況にあるが、工芸イノベーションにより克服した事業者もいる。富山県高岡市の鋳物メーカー「能作」では、直営店をはじめ、多くの販売チャネルで自社ブランドを販売している。様々なデザイナーとのコラボレーションを行い、問屋を通さないことで消費者の具体的なニーズを的確に把握し、商品の企画・製造に反映している。本社屋では産業観光にも注力し、製造現場の見学・製造体験のサービスも実施。新たなビジネスを展開させたことが成功・発展の要因だ。

 工芸品において、確かな技術とデザインは必須だ。今後はそれに加えて従来の生産構造から脱却し、新商品の開発や海外を含む新市場の開拓を行い、新しいビジネスモデルを作っていく必要がある。

■まとめ

「地域の物語」に可能性

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部 事務局 地方創生総括官補 伊藤 明子 氏

 地方創生が始まって、2018年で4年目になる。この4年で地方創生および人口減少や人手不足問題が広く知られるようになった。

 地方創生で必要なものは3つ。1つ目は、外部の視点を通じ地域を再発見すること。2つ目は、地域全体や産学官の連携。3つ目は、地域の宝の掘り起こしだ。

 これらに対して、内閣府では様々な取り組みを実施している。まず、18年度から「地方大学・地域産業創生交付金」を創設し、地域ならではの魅力ある産業と連携した大学づくりを進めている。また、「プロフェッショナル人材事業」も実施。各道府県にプロフェッショナル人材戦略拠点を設置し、地域企業に必要な人材について民間の人材会社経由でマッチングを行うもので、16年1月から18年10月までの相談件数は約3万件、成約件数は4435件に達した。さらに19年度の予算案では、地方に移住して中小企業などに勤務、または起業した場合、公共団体を通じて支援金を支払う制度も検討中だ。

 午前のフォーラムでは、次のステージに向けた様々なヒントをいただいた。今後の超スマート社会の中では、製造業のあり方が徹底的に合理化される一方で、手触り感や豊かな「物語」のあるものが大事になるだろう。地域に光る数々の物語を拾い、紡いでいくことが新たな時代につながるのではないかと感じている。

主催:日本経済新聞社

共催:日本政策投資銀行

後援:内閣府

協賛:シダックス、 マイナビ、日本公園緑地協会、清水建設、スマートウエルネスコミュニティ協議会、青山学院大学、UR都市機構、中小企業基盤整備機構、早稲田大学

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