日本の「中国人」社会

埼玉県にある「中国」、不動産店は外国籍OKの貼り紙 ジャーナリスト 中島恵

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アヒルの首やカエル― 本場の料理に腰が引ける

 不動産店を出て3分ほど歩くと、十数軒の中華料理店が立ち並ぶ通りに着いた。日本人にとって、真っ赤な提灯が掲げられている光景は見慣れているが、レインボーカラーの電飾がチカチカと点滅する看板は、あまり見かけない。これだけでも、観光地化された「日本の中華街」とは趣がかなり異なると感じる。

 どの店でも、アヒルの首、ザリガニ、サナギ、モミジ(鶏の足)、カエル、羊肉の串焼き、内臓料理、鉄鍋料理など、日本人に馴染みがない"本場の味"を提供している。私が見たかぎり、さすがにヘビや犬肉のメニューは見かけなかったが、もしかしたらメニューにある店もあるかもしれない。

 私の取材に同行した中国人女子留学生は山東省出身。大連の大学で学び、来日して1年近くになる。「アヒルの首」の看板に目が釘付けになり、ちょっと腰が引けている私の横で、「これ知っていますか? まるで中国にいるみたい。食べたい!」といって小躍りした。

 私たちは中華料理店のひとつ「橋頭私家菜」に入ってみた。店内は広く、ソファ席もゆったりしている。全店員が中国人だったが、日本語でも注文できる様子だ。客も9割は中国人で、平日の夜7時前だったが、すでに5~6人の家族連れがいた。私以外の日本人は、若い中国人女性連れの男性客一人だけ。テイクアウトをする会社員風の中国人がレジ前で何人も待っていた。

 日本語と中国語で書かれたメニューを開くと、東北地方と福建省の料理が並んでいた。ふと壁に目をやると、手書きで「福清炒米粉」「福清蕃薯丸」「福清雑フィ湯(ザー・フィ・タン、フィは、火へんに「会」)」と書いてある。値段は一品が1000~2000円程度で、スープや主食系の料理のようだ。

 福清とは福建省福清市のこと。店員に聞くと、福清市出身の客が多いから、彼らの故郷のメニューを増やしたという。日本ではあまり知られていないが、福清といえば、中国では華僑を数多く輩出している地で、「僑郷」(華僑のふるさと)とも呼ばれている。海に面した県級市(県クラスの市。中国の行政単位では市よりも県のほうが小さい。日本でいえば郡くらいのイメージ)で、人口は約135万人。

 中国では100万人でも大都市とはいえないが、かつて「蛇頭」(スネークヘッド。密入国を斡旋するブローカー犯罪組織)の拠点として、数多くの中国人がここから日本に送り出された。一方、東南アジアで成功した華僑の多くも福清の出身である。

 それにしても、こんな中国の一地方都市でしか食べられていない郷土料理が、ここ西川口チャイナタウンでは、ごく自然に食べられている。そのこと自体、私には新鮮な驚きだった。

(つづく)

中島恵 著 『日本の「中国人」社会』(日本経済新聞出版社、2018年)、「第1章 なぜ、この街にばかり集まるのか」から
中島恵(なかじま・けい)
1967年、山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経てフリージャーナリスト。中国、香港、アジア各国のビジネス事情、社会事情などを執筆している。著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』『なぜ中国人は財布を持たないのか』(ともに日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論社)、『「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?』『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(ともにプレジデント社)などがある。

キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営、営業、国際情勢

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