トランザム注目プログラムより

MaaS導入、産業・暮らしにインパクト 二つのワークショップで専門家らが議論

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 日本経済新聞社は12月6~8日、移動ビジネスの最前線にスポットを当てるグローバルイベント「TRAN/SUM(トランザム)」を東京ビッグサイト(東京・江東区)で開催した。同7日午後、移動手段をサービスとして提供するMaaS(マース)をテーマに連続して開いた二つのワークショップでは、日本の産業や人の暮らしに及ぼすインパクトについてパネリストらが議論した。

◇  ◇  ◇

■日本のゲーム技術、データ管理に貢献も

ワークショップ(1) 「Beyond MaaS: モビリティー革命の先にある全産業のゲームチェンジ」

<パネリスト>

須賀 千鶴氏(世界経済フォーラム第4次産業革命日本センター長)

石村 尚也氏(日本政策投資銀行 産業調査部兼企業投資部兼企業金融第2部 調査役)

信朝 裕行氏(内閣官房IT総合戦略室政府CIO補佐官/次世代用法通信基盤研究所 研究員)

渡邉 佑規氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパル)

<モデレーター>

日高 洋祐氏(MaaS Tech Japan 代表取締役)

 日高 MaaSでは様々な事業者が連携しながら統合されたサービスを提供します。ほかの分野のプレーヤーと連携する時、交通事業者がもつデータをどのように活用するのが望ましいでしょうか。

 信朝 交通領域ではまだ課題が多く、難しいかもしれませんが、望ましいのはできるだけオープンデータにすることです。一部企業が独占するのではなく、あらゆるプレーヤーがデータを利活用できるようにするのが理想的です。

 須賀 世界経済フォーラムでも、これからのデータガバナンスの在り方は最も重要なトピックの一つとして議論されています。現状、世界にはデータガバナンスの三つのモデルがあります。これらのモデルは、「誰もが自由にデータにアクセスでき、その利益を得られるか」「データを活用して富を得られない人への再分配の仕組みはあるか」という課題の両方をクリアできていません。今後「第4のモデル」を提示しうるのはインドか日本だろうと言われ、世界中から注目されています。

 信朝 政府は「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」の策定等を通じ、「第4のモデル」に最も近いといわれるAPIエコノミーを実現できる基盤づくりを進めています。データガバナンスは、しばらくは国の研究機関主導で研究を進める予定ですが、数年後には公共性を損なわない範囲で自走できる組織へと進化させていきたいです。

 日高 ビジネスとしてみた時に、MaaSにはどのような特徴がありますか。

 渡邉 投資先としてみる時、「投資したい」「見込みがあるな」と思える企業の多くは、最初からMaaSありきでビジネスを展開しているところより、課題解決のための手段としてMaaSにたどりついたというところが多いです。投資家の立場からみえる、MaaS市場の特徴は三つです。(1)課題意識があまり切実でないこと、(2)サプライチェーンが複雑でステークホルダーが多いこと、誤解を恐れずに言うと(3)エスタブリッシュメントが合理的選択をしないことがあることです。

 日高 MaaSでどのようなイノベーションが起こるでしょうか。

 石村 MaaSは、人の流れをどのようにコントロールするか? という課題にも密接に関わってきます。その時に活用できるのが人工知能(AI)です。実はゲームではすでにAIを駆使して、リアルタイムに多数の人のデータを管理しながら、1カ所に集めたり分散させたりできます。これらの技術は現実世界での応用も進んでいるところ。個人的な見解ですが、日本のお家芸でもあるゲームの技術は、日本版MaaSの進展に貢献できるのではないかと思っています。

◇  ◇  ◇

■「出かけたい」と思える仕掛けづくりを

ワークショップ(2) 「走り始めた日本のMaaS: 誰もが自分の意思で移動できる交通と社会の在り方を考える」

<パネリスト>

日高 洋祐氏(MaaS Tech Japan 代表取締役)

西村 潤也氏(小田急電鉄 経営戦略部モビリティ戦略プロジェクトチーム)

菊池 宗史氏(ヴァル研究所取締役事業統括本部長)

サーラ・レイニマキ氏(フィンランド運輸通信省 市場部門サービス開発上席専門官)

<聞き手>

塚田 剛志(日本経済新聞社 特別企画室シニアプロデューサー)

 塚田 自由に移動できるということは、人が社会とのつながりを維持するうえでの重要な意味をもちます。周りとのつながりが生きがいとなる場合もあります。誰もが自由に自分の意思で移動できる社会を実現する日本版MaaSの可能性について考える前に、まずはフィンランドのMaaSについて教えていただけますか。

 レイニマキ 国として、MaaSに新しい事業者が参入しやすくなるよう、法整備などを通じて環境整備を進めています。現在、ヘルシンキでは1カ月に約50ユーロで公共交通機関やシティーバイクに乗り放題です。月数百ユーロ払えば、それに加えてタクシーも乗り放題。夏の気候の良い時期には、タクシーの乗り放題サービスを利用しているユーザーもバイクや公共交通機関を使いたがるなど、人が移動手段を選ぶ際には、必ずしも合理性のみ追求しているわけではないということが最近分かってきました。

 日高 様々なモビリティーを融合させ、利便性の高いサービスを提供するには、新しいプレーヤーが市場に参入しやすい環境であることが大切です。日本とフィンランドとでは交通事情は異なりますが、政府によるアプローチが必要なことは変わりません。規制当局には、様々なモビリティー、事業者がつながり合ってこそ有意義なMaaSが成り立つことを踏まえ、事業者同士の連携がうまくいくような制度設計も期待したいところです。

 西村 江ノ島地域で行なった実証実験では、「次世代モビリティー」を84歳の女性とその家族に体験していただきました。女性はサービス付き高齢者向け住宅にお住まいで、外出は月1回の通院のみだそうです。住宅から江ノ島まで自動運転バスで移動していただき、江ノ島についてからはレジャーや食事を楽しんでいただきました。最後に「近くに住んでいるけど、江ノ島に来たのなんて何十年ぶりよ」という言葉を聞いたとき、交通事業者はもっとユーザーの潜在的なニーズに寄り添って、「出かけたい」と思えるような仕掛けをつくっていかなくては、と実感しました。

 菊池 今回、小田急さんと連携して、次世代モビリティーのためのアプリを開発しました。乗車予約から支払いまで簡単な操作で済ませられるアプリです。開発者として、連携する事業者と課題を共有することの重要性を改めて学べました。事業者間の連携によってビジネスを横へ広げていくためには、課題意識を共有し合えなければ求める成果にたどりつけません。また、データの質に自負があるからこそ、他社とも胸を張って連携できます。各事業者が自社の強みを自覚し、磨きあげることも、MaaSに不可欠な事業連携を成功させるうえでは大切です。

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、営業、技術、製造、プレーヤー、イノベーション、AI、IoT、ICT

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