学校で教えない経済学

守銭奴は悪くない~『クリスマス・キャロル』の正しい読み方~

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

経済学者なら主人公のスクルージを批判できる?

 経済学者なら、スクルージがお金を貯め込むことをこう批判するでしょう。貯蓄は個人や家族にとっては理にかなっているかもしれないが、社会全体にとっては良くない。なぜなら経済全体で貯蓄が増えるほど、消費への支出が少なくなり、雇用も減るからだ、と。ケインズ経済学でいう「貯蓄のパラドックス」です。

 けれども、この説は正しくありません。貯蓄は有益です。穀物をすべて食べてしまったら、殖やすことはできません。同様に、富をすぐに使ってしまう代わりに、必要になるまで貯めておく人々がいなかったら、多額の投資で機械や工場をつくることはできず、私たちはこれほど高い生活水準を享受することはできないでしょう。

 もし金融機関を信用せず、稼いだお金をすべてタンス預金にしたらどうでしょう。この場合も社会の役に立ちます。世間に出回るお金の量が減り、物価が安くなるからです。ディケンズが同情した貧困層にとって、物価安は何よりありがたいことです。

 今の世の中では、物価安(デフレ)は不況を招くから悪いという説が広まっています。けれども、物の値段が下がっても不況にはなりません。衣服、自動車、コンピューターの値段は昔に比べ大きく下がりましたが、不況は起こりませんでした。

 物価安で経営が苦しくなるのは、需要が落ちているのに値下げしない企業だけです。まともな企業なら、商品が売れなければ、社員をクビにする前に、商品の値段を下げます。商品そのものに問題があるのでないかぎり、商品は売れるようになり、失業と不況の悪循環から抜け出せるでしょう。

 米国の経済学者ウォルター・ブロック氏は、著書『不道徳な経済学』(橘玲訳、講談社+α文庫)で、現金を貯め込む守銭奴は英雄だと称えます。その行為によって物価は下がり、私たちはその恩恵に浴することができるからです。

 ケチな守銭奴のおかげで私たちが保有する現金の価値は高まり、同じ金額でより多くの物が買えるようになります。「ドケチが必死になってお金を貯めるたびに、わたしたちの購買力は上がっていく。スクルージは、わたしたちの恩人なのだ」。ブロック氏は強調します。

 百歩譲って、お金は使わなければ経済が活性化しないとしても、心配はいりません。守銭奴本人はお金を使わなくても、その遺産相続人は往々にして遺産を食いつぶす浪費家だからです。

 多くの取引相手を満足させ、争いを好まず、経済にも貢献するスクルージ。原作で十分に語られないそのすばらしさを描いてくれる映画やドラマがないかと期待していますが、なかなか現れません。

 公開中の『ロンドンに奇跡を起こした男』では、小説から抜け出したスクルージが「わしの言い分が書かれておらん」と不満を漏らし、せっかく論陣を張ろうとするのに、作者ディケンズにさえぎられてしまいます。惜しいことです。もしスクルージにその言い分を十分に語らせていれば、『クリスマス・キャロル』の正しい読み方を教えてくれる傑作映画になったことでしょう。

(木村貴)

キーワード:経営・企画、人事・経理、営業、技術、製造、経営層、管理職、プレーヤー、経営

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。