学校で教えない経済学

守銭奴は悪くない~『クリスマス・キャロル』の正しい読み方~

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 英文豪チャールズ・ディケンズの中編小説『クリスマス・キャロル』は、ご存じの方も多いでしょう。欲深い商人のスクルージは、クリスマスイブの夜、相棒だったマーレイの亡霊と対面し、翌日から第一、第二、第三の幽霊に伴われて知人の家を訪問します。炉辺でクリスマスを祝う、貧しいけれど心暖かい人々や、自分の寂しい将来の姿を見せられ、心を入れ替えます。

 クリスマスが近づくと、この物語がよく映画やドラマになります。今年はディケンズを主人公に、物語が生まれた経緯を描く映画『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』(バハラット・ナルルーリ監督)が公開されています。

 けれども残念なことがあります。どの映画やドラマも、いや実は原作も、スクルージをカネのことしか考えない非情な人物として描くことです。たしかにスクルージはカネに執着する守銭奴かもしれませんが、見えない形で、社会に恩恵をもたらしています。

 まず、スクルージが長年商売を続けられているということは、多くの取引相手を満足させていることを意味します。取引相手はスクルージの性格を嫌っているかもしれませんが、それでも取引を続けるのは、商売相手として信頼できるからです。

 光文社古典新訳文庫版の訳者あとがきで、池央耿さんは、スクルージについて「付き合いにくいのは事実としても、ずるはせず、人に迷惑をかけないから、信用があって商売は成り立っていたはずである」と正しく指摘しています。

 スクルージは取引相手を満足させることで、間接的に取引相手の顧客も満足させます。つまり、社会全体の満足向上に貢献しています。

 次にスクルージは、争いを好まない平和的な人物です。暴力は振るわないし、他人の物を奪うこともありません。カッとなって他人に「死ねばいい」と口走ることはあっても、行動に移しはしません。死者から物を奪い手柄を誇る盗人には、怒りを燃やす正義感もあります。

 これはディケンズが正直な作家だったあかしでもあるでしょう。商人というものの姿を、不自然な嘘を交えず生き生きと描いた結果、暴力を振るわず、略奪もせず、争いを好まない平和的な人物にしかならなかったのです。政治家ではこうはならないでしょう。

 社会に平和的な人物が一人でも増えれば、社会はそれだけ平和になります。スクルージはその意味で、社会に貢献しています。

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