NEXT GENERATION BANK

金融に求められる「競争」と「協調」 FIN/SUM 2018 & REG/SUMリポート

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 2018年9月25日から28日にかけて、東京・丸の内全域で開催された「フィンサム2018&レグサム」。「フィンサム」こと「フィンテック・サミット」は今年で3年目を迎え、さらなる注目のなか、大盛況のうちに幕を閉じた。折しも「キャッシュレス」が国をあげて推進されようというなか、ファイナンシャル・テクノロジー、そして、それを制度として枠組み化する「レギュレーション・テクノロジー」は、社会の姿を大きく変えてしまうものであるだけに、ダイナミックかつ繊細な議論が求められる領域となっている。今年の「フィンサム2018&レグサム」は、メインテーマとして「競争と協調」を謳った。そこには果たしてどんな含意があったのか。いま一度、振り返ってみよう。(TEXT BY KEI WAKABAYASHI)

 9月25~28日の4日間にわたって、金融包摂、デジタルバンク、AI(人工知能)、ブロックチェーン、インシュアテック、GDPR(一般データ保護規則)、仮想通貨といった最先端のテーマを、世界中から集まったスタートアップ、大手企業、行政など多種多様な領域の関係者が一堂に会し、侃々諤々(かんかんがくがく)語り合った。丸の内の7カ所のそれぞれの会場では、シンポジウム、ワークショップや展示、さらにはピッチコンテストなどが行われ、1万人以上の来場者が詰めかけた。今年は、3回目になるフィンサムと、規制対応のコストを先端技術をもって引き下げる「レグテック」(Regulation Technology)を扱う「レグテック・サミット」(レグサム)が統合され、議論により深みが増した。

ファイナンスの欠かすことのできない両輪

 「フィンサム」の2018年のプログラムを一瞥して、すぐさま「これは面白そう!」と思った。お世辞ではない。メインテーマは「競争と協調」。そのなかに「インクルージョン」などという気になることばが大々的に躍っており、ほかのお客さんはいざ知らず自分はいたく感心した。

 テクノロジーをモチーフとしたカンファレンスは、とかくテクノロジーのポジティブな側面を一方的に語りたがるものだ。開発者やサービス提供者がそれを前面に押し出すのは仕方ないにしても、「デジタルテクノロジーがもたらすバラ色の未来」については、そろそろ眉に唾をしながら慎重に耳を傾ける必要があることは、世界的にもコンセンサスになりつつある。昨今やたらと「GAFA」という語を目にするが、そこに激しくポジティブな色合いを込めて語る人は、いまとなってはさすがに少ないだろう。それらがもたらした独占状態、そのビジネスモデルの強欲さ、そして大企業として担うべき社会的責任感の低さは、欧米メディアをして「いい加減、大人になれ」と言わしめたほど。デジタルテクノロジーは、そろそろ青年期を脱する時期にきているのだろう。

 とりわけ、ことが命の次に大事な(?)、お金に関わる話ともなれば、「若気の至り」で済ますことはできない。フィンテックやレグテックは、まさに社会生活の根幹をなす事業であるがゆえに、テクノロジーをいかに成熟したやり方で取り扱うかが深く問われる。その意味で、ビジネスの「効率化」「高速化」といった観点ばかりではなく、その「公正さ」や「社会性」に焦点をあてたセッションが目についた今年のフィンサムは、とても時宜に適っていた。

 初日のメイン会場では、NEC・新野隆社長のプレゼンテーションから「デジタル・インクルージョン」という論点が提出され、その不可欠な条件となる「デジタルID」をよりセキュアに整備し構築するための技術について語られたが、それは同日、まさに「金融包摂」と題されたセッションでも論じられたことだった。キャッシュレスが進みお金と個人との結びつきがますます強まっていくことで、デジタル格差はすぐさま経済格差となっていくことが予測されている。

 このセッションのなかで、モデレーターがふたりの登壇者に、「金融包摂にとって、最も重要なことは?」と問う場面があった。ゲイツ財団のマシュー・ボーハンは、「ペイメントが大事。誰かにお金を払うことができれば、その行為が一番世の中を変えていくことになる」と答え、500 Startupsのベンチャーキャピタリスト、シール・モーノットは「まずユーザーのIDをしっかりと築くこと。金融システムのなかにアイデンティティをもったという事実が、ユーザーを鼓舞し、貯蓄をしたり、アイデアを実現したり、他者に対する信用を内面化し、成長を促す」と答えたが、そのふたつの答えが示すのは、「お金」と「アイデンティティ」がコインの表裏をなして、もはや分かつことができないものになっているということだ。

 そうして「わたし」も「お金」もすべてデータとしてやり取りされていくことになっていけば、当然、それをいかにガバナンスするのか、という問題も避けられないものとなっていく。GoogleやFacebookがこの間槍玉に挙げられてきた理由が、基本データガバナンスのあり方の問題だったことを思えば、今後、データは、大きなビジネス資源であると同時に、大きなリスクやコストともなっていくことが、特にビジネスの現場では考慮されねばならなくなる。

 急成長を遂げるデジタルバンク「Revolut」のCEO、ニコライ・ストロンスキーは、GDPR施行以降の欧州では、「セキュリティ管理こそが第一のリスク」と語り、管理コストがかさんでいくこともリスクになると語っている。データは、これからのビジネスにとってまさに諸刃の剣なのだ。

 新興のフィンテック企業が、これからの新しい経済の主要なドライバーになっていくことは間違いなく、そこに健全な競争が生まれることは社会の益にもなる。しかしながら一方で、その競争が不公正なものであったり、人や社会を侵害するものであってはならない。ストロンスキーが、今後スタートアップは、規制当局との対話をもっと積極的にすべきだということも語っていた。規制当局者側からも数多くの参加者が集まり、より公正かつ健全なビジネスに向けて、どのような規制や、規制に関わるテクノロジー(RegTech)が求められるのかが盛んに議論されたのも、今年印象に残ったことだった。

 「競争と協調」。このふたつは、これからのファイナンスの世界に欠かすことのできない両輪なのだ。

(『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』より転載)

NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える
若林恵・責任編集
制作:黒鳥社、発売:日本経済新聞出版社 
1,200円(本体価格)+税

フィンテックの勃興、仮想通貨や電子通貨の広まり、キャッシュレス化の波によって、猛然とデジタル化・モバイル化が押し進められ、さらに、マイナス金利、低成長、働き方改革などによって、産業、経済のルールまでもが抜本的に見直しを迫られてもいる。この変化の混乱のど真ん中にあって、「金融」の世界はいったい何を指針に、どこへ向けて、どう自らを刷新しうるのか? これからの新しい社会の「金融」を担うべき新しい機関=次世代銀行とは、いかなるものなのか? お金とテクノロジーと社会が織りなす社会変革の壮大なシナリオを、ダグラス・ラシュコフ、デイビッド・バーチ、武邑光裕、山本龍彦、池田純一、出井伸之、tofubeatsから、現役メガバンク取締役まで、時代を牽引する識者とともに、『さよなら未来』の著者でWIRED前編集長の若林恵が考えた、次世代ビジネスマン必読の「次世代銀行論」! <Amazonで購入する>

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