NEXT GENERATION BANK

「デジタルテクノロジーで浮かれる時期はもう終わり」 黒鳥社 コンテンツ・ディレクター 若林恵氏に聞く

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 翻って日本を見ると、労働者という個人の多くはいまだに保険・税金など、お金に関することを会社任せにしている。銀行をはじめとする金融機関もその状況にオプティマイズ(最適化)されてきたように見える。企業が右肩上がりで成長していたときには、それでもみなハッピーだったし、銀行もビジネスが安定していた。ところが、成長が曲がり角を迎え、テクノロジーも発展したら、いよいよ産業システムが回らなくなり、金融も変わらないといけなくなったのが現在だろう。

 折しも、EUでは、新たな規制「決済サービス指令2(PSD2)」が1月に発効し、オープンバンキング――銀行がシステムのAPI(システムに接続するための技術仕様)をオープン化すること――が義務化された。顧客データへのアクセスを第三者に認めたり、第三者への支払いを実行したりしなければならなくした。

 僕が思ったのは「こういうことがなぜ必要になったのか、ちゃんと考えたほうがよい」ということ。これまでは、新しいテクノロジーができたので、それを使ってビジネスをすればよいという流れだったが、EUでは違っていた。たとえば、オープンバンキングを義務化した裏側には、テクノロジーで社会全体が変わっているという認識があり、国家やEUというレベルで、制度も変えないと未来がなくなると考えたはずだ。実際、GAFA(グーグル、アップル、フェースブック、アマゾン・ドット・コム)をこれ以上野放しにしていては、社会は壊れるばかりという認識は強くある。

 ただ、このテーマをストレートに扱うと、かなり包括的な話になる。その例としてGDPRを扱っても、日本ではあまり多くの人が興味を持って読んでくれないかもしれない。そこで、銀行を入り口にしてGDPRなどへ展開する流れでこのテーマを扱うのがよいだろうと考えた。銀行が変わっていくというのはそれだけの大きい射程を持つ話であるためだ。

――「銀行」を扱う背景に「GDPR」が大きなテーマとしてあった?

 僕の中ではそう。『さよなら未来』に掲載したWIRED時代の記事にあるように、デジタルテクノロジーのあり様もマネタイズのされ方もまったく好きじゃなかった。「こんなことのためにあったんだっけ」という感じ。

 そういう問題意識が世界では2016年ごろを境に吹き出しており、「インターネットの第1段階は失敗に終わった」というのが、特にヨーロッパにおける基本的認識だった。友人と話しても「インターネットは壊れちゃったよね」と普通に出てくる。テロや社会の右傾化におけるインターネットの役割はホントに大きく、ちゃんとガバナンスされねばならないという意識がある。ではどういう運営がなされていくべきかという議論が新たにされ始めているが、本来、それはインターネットの初期から問題となってきたことでもある。

 初期のころ、インターネットは「コモンズ(誰の所有にも属さないところ)」と考えられていたはずだった。それが実際には、使えば使うほど特定の企業が儲かるばかりだという状態になり、GAFAのような巨大民間企業が公共インフラに近いものを占有している今の状態は危険だ。また中国ではインターネットを、国家が一元管理するものになっているが、どちらも望ましくない状態である。

 だから、今はその状態を前提に、どういう打開策があり得るのかについて考えないといけない。市民、民間企業、公共組織がいっしょに何かをやる話はこれまでも一杯あったし、インターネットのガバナンスという課題への打開策もその延長線上にあると思うが、おそらくこれまでと違うやり方を開発しないとだめだろう。このムックもそこまで考えて作った。

 そもそも銀行は公共組織に近い側面を持っている。国民のお金を預かるため、国が預金保険制度で保護をしているが、それをフィンテックでどうする実装するのか――。インド政府が作った公共のデジタルインフラ「インディア・スタック」についてのムックの記事では、どの部分を行政がやり、どの部分を民間企業がやるといった切り分けにまで踏み込んだ。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。