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「機密費外交」が示す日中関係の虚実 「アジアを読む」 (1)  井上寿一・学習院大学学長に聞く

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 外交機密費は、昔も今も「秘中の秘」でミステリアスな存在だ。特に諜報(ちょうほう)活動のイメージの強い戦前は、関連資料がことごとく焼却されているはずだった。ところが満州事変(1932年)期の史料が偶然残っていたという。井上寿一・学習院大学長は使途などを分析し、本来戦う必要の無かった日中戦争が続いた理由を「機密費外交」(講談社現代新書)で浮き彫りにした。井上学長は約80年前の日本と現在の中国は、国際的な立ち位置が酷似してきたと指摘する。友好的でも敵対的でもない、現在の日中関係を考えるヒントにもなりそうだ。

インテリジェンス・接待・広報の三位一体

 ――2017年度の内閣官房長官報償費(官房機密費)は約12億3千万円であることは開示されていますが、内外の情報収集を目的とするだけで使途の公表や提出義務はありません。戦前の機密費はもっと大ざっぱな「つかみカネ」ではなかったのですか。

 部外秘ではあっても公費として記録はあったようです。終戦記念日の前日である1945年8月14日に、閣議で重要機密文書の焼却を決定しましたが、満州事変期の外交機密費の史料が外務省外交史料館に残っていました。戦前の日中関係の変遷がより具体的に分析でき、今日への教訓を得ることもできです。

 ――日本軍が中国東北部を侵略した満州事変で、約80年前の日中関係は極度に悪化。日本は国際的に孤立して、結局太平洋戦争(1941~45)の敗戦につながったとされます。実際の歴史はもっと複雑な軌跡をたどったのですね。

 1933年に日中停戦協定が成立すると、日中間は戦争でも平和でもない「冷戦状態」に入りました。機密費を活用して外交関係の修復に努めた時期でもあったのです。

 ――機密費外交という言葉には、スパイ行為や非合法活動も含むようなイメージがあります。

 実際の外交機密費の支出は常識的で金額も当時として妥当なものだったといえます。機密費外交にはインテリジェンス外交、接待外交、広報外交の3つの機能があります。満州事変が拡大するなかで、中国人だけで無く、朝鮮人、ロシア人、中国政府内にも秘密情報の提供者を求めました。外務省は上海の公使館内に情報部を設置しました。

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