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怒りに対処するには?キレないシニアになる! トレノケート シニア人材教育コンサルタント 田中淳子

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 では、人が感情的になる、特に、「怒りを感じるのはなぜか?」を考えてみたい。

 人にはそれぞれ「期待値」(こうあってほしい)と「許容範囲」(ここまで許せる)がある。その期待値に到達しなかった場合、それが許容の範囲を超えるものだと、「なんでこんなことになるのか?」と思い、イライラしやすい。

 たとえば、「業務のメールには24時間以内に返信するべきだ」と考えている人は、24時間を超えて返信がないと、「なんなんだ!」と感情的に反応してしまい、怒りを感じるかもしれない。

 こういうとき、許容範囲が広ければ、怒りの感情は湧きづらい。自分とは考えや行動が異なっていても、「そういうこともあるかー」とおおらかに捉えられる。

 「メールには24時間以内に返信が来るのが望ましいが、必ずしも返信が来ない場合もあるだろう」と思えば、24時間以内に返信がなくても、感情が揺さぶられたりはしない。「忙しいのかな?そろそろ、もう一度メールしてみようか」とか「電話かけてみるか」などと考え、落ち着いて次のアクションが取れる。

 この許容範囲は、物事を捉える際に、「べき」「ねばならぬ」と考えやすい場合ほど狭い。だから、もし感情的になったら、「自分の“べき”や“ねばならぬ”に捉われていないか」を考えてみることが大事だ。

怒りを感じさせずに伝えにくいことを言う方法がある

 そうやって、「許容度」の狭さに気づいたとしても、「言わねばならない」という場合はあるだろう。メールの例であれば、「24時間以内にメールを返信してもらわないと、顧客との約束を守れない」といった場合だ。

 そんなとき、「なんでメールの返信を寄こさないのだ」「メールの返信がないとお客さんに迷惑をかけてしまうってこと、分かってるの?」などと相手に詰め寄るようなセリフを口にしたり(そういうメールを書いたり)してしまうことがある。

 が、これは、得策ではない。

 問題を解決したいのなら、「なんでメールの返信を寄こさないのだ」「メールの返信がないとお客さんに迷惑をかけてしまうってこと分かってるの?」と相手を責めるような表現をするより、自分が相手にしてほしいことを率直に表現するほうが効果的だ。

 「お客様を待たせたくないので、返信が欲しい」と自分の期待をしっかり伝える。こういった表現方法をアサーティブな表現(またはアサーション)と言う。これは「自分も相手も大切にする自己表現」のことだ。

 アサーティブであろうとするなら、「自分の希望、期待」を「肯定的な表現」で伝えるとよい。「●●をしてほしい」「●●を期待している」といった表現であれば、相手を必要以上に追い詰めることはないだろう。

 理由や原因を知りたい場合も「なぜ●●なんだ?」とWhy?を使わないほうがよい。

 一般に、「なぜ〇〇なんだ?」と「なぜ?」を使った表現は、相手を責めているニュアンスになりやすい。もし、原因を探りたくても、「メールの返信が遅れた理由を教えて欲しい」と、自分の“希望”として伝えるとよい。これもアサーティブな表現の一例である。

 ポイントを整理する。

●自分の期待値や許容度はどこにあるのか、考えてみる

●特に、「べき」「ねばならぬ」という思考が強すぎないか振り返る

●相手にしてほしいこと、相手に期待していることを直接伝える

●「なぜ〇〇なのだ?」といった相手を追い詰める表現は使わない

 これらを意識し、実践するだけでも効果はあるだろう。

 心理学者でアサーションの専門家である平木典子さんの本『図解 自分の気持ちをきちんと「伝える」技術―人間関係がラクになる自己カウンセリングのすすめ』には、“人は、自分に対処できることには怒りを感じない。対処できないと思った時、つまり、自分の能力では対応できないと思ったときに怒りを感じるのだ”といったことが書いてあった。

 この本を読んだとき、わが身を振り返った。

 そう言われてみれば、「自分にとってどうってことないことであれば、サクサクと涼しい顔で対応できるが、自分にどうにもならないと思うとき、そして、それが、自分の期待している範囲を大きく逸脱していると思ったとき、「一体なんなんだ!」と怒りに変わっていくことがあるかも知れない」。

 その本を読んで以来、「怒りは自分の能力不足の表明なのだ」と自分に言い聞かせ、冷静になるように務め、最近はどんなことにもほとんど怒り自体を感じなくなってきた。

 カッとしてもよいことなど一つもない。自分の評判を下げることにしか作用しない。だから、落ち着いて対応することが大事だ。

 昭和世代には、往年のテレビアニメ「一休さん」の言葉が役立つのではないだろうか。

 「あわてない、あわてない、一休み、一休み」

 深呼吸して、自分が「何にどう怒っているのか」をメタ認知(自分を客観視すること)してみよう。

シニアを部下に持つ管理職へのメッセージ

 感情的になる年上部下がいると、扱いに困ると思う。それが後輩に向けられている場合は、即刻対処が必要だが、上司との会話の中で感情的になってきた場合は、どうすればよいか。あるマネジャーの取り組みが役立つと思うので、紹介したい。

 彼は、10歳ほど年上の部下を持っているそうなのだが、会話中に時々感情的になられることがあると言う。

 そんなとき、どう考え、どう対応するか、教えてもらった。

 彼曰(いわ)く、

 ――感情的になるということは、何か言いたいことがあるはず。だから、反論せずに、「まずは傾聴」する。何が言いたいのか、聴き切る。その上で、言葉の裏側にある何か、たとえば、その年上部下の価値観とか過去の経験とか言葉の背景にあるものを探ってみる。「そう考えるのはどういう理由からか」「過去にどんな経験をしてきたのか」などを聴くと、真因のようなものが浮かび上がってくることがある。だから、「いい歳なのだから、落ち着いて!」などと一言で済ませず、まずは聴くことが大事だ。その上で、「●●さんの言いたいことは理解はしたが、そういう風に怒らないで話して欲しい」と伝える――

 この年下上司もまたアサーティブで部下と会話するとよい、という例である。

 別のあるリーダーが、“扱いにくい”と評判の年上部下の話をとにかく徹底的に聴いているうちに、その部下が心を開くようになり、よくよく会話してみたら、別に“扱いにくくもなんともなかった”という経験をしたと話してくれたことがある。人は、たいていの場合、「北風」よりは「太陽」作戦のほうがうまくいくということなんだなと思ったエピソードだ。
田中淳子(たなかじゅんこ)
1963年生まれ。トレノケート株式会社 シニア人材教育コンサルタント、産業カウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント。1986年日本DECに入社、技術教育に従事。1996年より現職。新入社員からシニア層まで幅広く人材開発の支援に携わっている。著書『ITマネジャーのための現場で実践!部下を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『はじめての後輩指導』(経団連出版)など多数。ブログは「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」。フェイスブックページ“TanakaJunko”。

キーワード:人事、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修、働き方改革

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