デジタルトランスフォーメーションへの道

理想科学工業、10年越しの「思い」が進めたデータ活用

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3要件の効果的な実現に向けた新機能を装備

 導入成果は表れている。冒頭で紹介したように、理想科学工業ではプロジェクトの当初の目標として、「修理のベストプラクティスの実現」「離反顧客の検知」「コミュニケーションレポートの充実」の3要件を掲げた。

 「修理のベストプラクティスの実現」では、経験の少ない新人フィールドエンジニアの対応品質を向上させるとともに、修理訪問をできるだけ1回で済ませることが可能になった。作業時間の平均値、対処内容のベストテン、持っていった部品のベストテンなどのデータを簡単に確認できるようにしたことで、予想される障害に対応するための部品の持ち忘れをなくすような業務支援が可能になっている。

 それに加えて、技術統括部門では教育内容の充実に、開発部門などでは品質改善や対策パーツの開発に役立つ知見をデータから得ることができるようになったという。

 「離反顧客の検知」では、機器の稼働状況やフィールドエンジニア、セールス担当者のコミュニケーションの状況などのデータから、顧客が契約を継続してくれる確率を分析する。「新規顧客を開拓するコストを考えると、既存顧客に契約を継続してもらうほうがビジネス上の効果は高い。フィールドエンジニアやセールス担当者にわかりやすい形でデータを表示して、活用を推進できるようにした」(庄司氏)。

 「コミュニケーションレポートの充実」では、セールス担当者が顧客に故障予測や部品交換の提案などを含んだレポートを出す必要がある時期をデータから予測できるようにした。コミュニケーションレポートの提出が必要とされるタイミングから30日以内ならば提出する各種レポートを示す「★マーク」の色が「緑」だが、30日を超えると「黄色」になり、61日以上になると「赤」に変わる。使い手にとってわかりやすいビジュアルで表現することを徹底している。

「ハッピー」になることを成功の評価軸に

 現場に寄り添い、業務改革からビジネスモデルの変革までを目指す理想科学工業のデータ分析プロジェクトを同社は、社内でどう評価しているのだろうか。庄司氏は、業務効率の向上といった硬い言葉ではなく、「ハッピーになったらいいね――を評価軸にした」と、柔らかい表現で説明する。分析した結果を活用して、社員がハッピーになり、そして顧客にもハッピーが広がる。そんな評価軸で、RABBITの成果を測ろうとしている。

 「現場にヒアリングしたところ、『こんなシステムを待っていた』『残業が減った』『使いやすい』といった声が上がっている。グーグルの感情分析を使った社員の意見の分析結果でも、ポジティブな意見の比率が非常に高く、社員には満足してもらったプロジェクトだと思う」(庄司氏)

 一方で、顧客の「ハッピー」はなかなか確認することができない。そこで、顧客にとってはプリンターのダウンタイムが少ないことがハッピーにつながると想定し、プロジェクトの実施から約3カ月のデータを実施以前のデータと比較した。すると、ダウンタイムの総時間数や件数は減少し、部品の持ち合わせがないなどで持ち越す訪問修理の件数も減少しているとの結果が得られたという。庄司氏は、「まだ始まったばかりで大きな成果とは言えないが、お客さまもハッピーになっていただけていると思う」と微笑む。

 さらにプロジェクトでは、この成果に満足することなく、定期的に分析処理内容の見直しを実施する計画だ。分析するデータには着々と新しい情報が加わり、社員や顧客の対応も変化していく。「ハッピーの継続のためには、インプットする情報の変化に伴いアルゴリズムを変える必要がある。モデルを作り変えるなどの対応をすることで、効果を継続させていきたい」(庄司氏)。

 分析に活用するデータそのものも、よりバリエーションを増やしていきたい考えだ。そこには二つの視点がある。

 一つは、IoTデータの充実。既存の機器から得られるのは、「インクが減った」「紙詰まりを起こした」といった製品内部に関するセンサー情報だけだ。より確度の高い原因を突き止めるには、どのような環境でどのような使われ方をしているのかといった利用環境のデータもほしい。製品の原価との見合いで、どのようなデータが必要で、そのためにはどんなセンサーを製品に装着すべきなのか、検討を続けていく考えだ。

 もう一つは、社外のデータとの連携である。現状では自社の機器のIoTデータや、エンジニア、オペレーターの対応内容といった社内のデータを分析している。しかし、次の目的であるビジネスモデルの変革を実現しようとすると、「オープンデータなど外部データと組み合わせた分析が必要になるだろう。多くのデータを現場が見たり触ったりすることでさらに可能性が広がる」と庄司氏は指摘する。

 庄司氏の「思い」で始まった理想科学工業のデータ分析プロジェクトはこれからも、皆の「ハッピー」を生み出すために進化を続けていくことになりそうだ。

(ライター 岩元直久)

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、営業、技術、製造、プレーヤー、イノベーション、AI、IoT、ICT

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