デジタルトランスフォーメーションへの道

理想科学工業、10年越しの「思い」が進めたデータ活用

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 データをまとめて格納する「データウエアハウス」というITシステムには米テラデータの製品を利用した。

 ところが、このデータ分析の仕組みにもやがて限界が見え始める。一つは一定レベルのデータ分析が社内に文化として根付いたものの、データがビジネスで十分生かされているのかわからなくなったことである。データ分析の定着それ自体は喜ばしいことだが、現場が何をどう分析しているのか、情報システム部から見えなくなり、高度化に向けた支援ができなくなった。

 「現場に聞くと、過去の実績データを集計するといった基本的な活用にとどまっているようだった。もっと高度なデータ分析ができないか、10年ほど前からなんとかしたいという思いが強くあった」(庄司氏)

現場とともにビジネスを変革する覚悟で再構築を企画

 その「思い」に本格的に火を付けたのは、市場環境の変化だ。デジタル印刷機で高い世界シェアを持つ理想科学工業だったが、ペーパーレス化の進展といった抜本的な変化に対して大きな危機意識を持たざるを得なくなっていたのだ。

 庄司氏は「厳しさを増すプリンター業界で生き残るために、データ分析を“予測”に活用して業務を改善するとともに、最終的に新しいビジネスモデルを開発することがとても重要だと考えていた。コンピューターに任せられることは任せて、人間はより価値のあること、創造性の高いことに集中できるようにITを活用してビジネスをサポートしたいと考えた」という。

 しかし、それには一度作り上げたデータ分析の仕組みをより高度なものに再構築しなければならない。技術面でも人材面でもハードルは高かったが庄司氏は「しつこく訴え続けた」という。

 データ分析高度化のような課題は、すぐ実現しなくても経営上の問題になるわけではなく、老化のようにじわじわと影響が出てくるものだ。言わないと誰も重要性がわからないし、協力もしてくれないうえ、知らないうちに他社に後れを取る。その課題が、解決へ向けて一歩前進したのは2015年のことだった。庄司氏はとうとう当時の情報系システムの統括責任者に「今後はデータ分析や新規ビジネスの創出に、会社として人を割く必要がある」と直訴したのである。

 その思いは伝わり理解は得たが、データ分析システムのコスト対効果を計算するのは一般に容易ではなく、再構築は実現に向けてなかなか動き出せない。

 そうした中で追い風が吹いた。統括責任者の交代により、コスト削減から「未来を考える」ことへと情報システム部のマインドが変化していったのである。

 同時に、情報システム部としても次の一手を打った。それが2015年に実施したデータ分析のPoC(実証実験)である。小規模ながらインターネット経由でプリンターから実際のデータを収集して分析し、「どんな状態の機械」が「どんなとき」に故障するのか、故障したらどうしたいのかを検証。これがさらなる前進につながる。

 特に、実際のデータを分析した結果を、現場のセールスエンジニア、フィールドエンジニア、統括するスタッフ部門、技術統括部などに示すことができたことは大きかった。「自分たちが業務上必要とする情報がIoTを活用したデータ分析によって手に入るんだということを、ビジネスサイドや現場が理解した」(庄司氏)。

 こうしてプロジェクトは始動。庄司氏の「思い」は具体化へ向かう。

情報システム部自身の変化も求められる

 データ分析の高度化を進める中では、情報システム部自身の変化も求められた。

 「これまでの社内システムでは、完成したら情報システム部の役割が終わると考えがちだった。しかし、高度な分析を通じて現場のビジネスを変える仕組みにまでするには、実際のデータ分析によって変革がどう進んだのかまでを評価するなど、現場とシステム部が一緒に責任を持って取り組むことが不可欠になる」と庄司氏は語る。

 そうした二人三脚の取り組みを実行するには、現場へ単にシステムを提供するのではなく、情報システム部が現場の活用を支援したり、現場の意見をフィードバックしたりと、一歩踏み込んだ関係性を作ることが重要になる。そうして情報システム部と現場が一緒に仕事をすることで、情報システム部に「このようなことも頼める」ことが伝わり、システムを活用すれば「こんなこともできる」という気付きにつながるなど、互いが互いを高めるようになり、新しいビジネスモデルの創出を下支えすると庄司氏は考える。

 導入した新たなデータ分析システムでは、2017年10月から2018年3月にかけて、センサーデータなど35のデータソースから収集した1億件のデータを活用し、分析用に約500のジョブ(処理)を記述した。

 収集するのは、国内で直販した機器から得られるリアルタイムのIoTデータや、フィールドエンジニアの修理報告書のデータ、電話オペレーターと顧客のやり取りなどのデータで、これらをテラデータのデータ集積サーバーに蓄積する。収集したデータは夜間のうちにジョブで分析して、翌日には分析結果をフィールドエンジニアやセールススタッフなど、実際に顧客と対応する社員が手軽に活用できるようにする。

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