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香港グルメ、「イノベーション」の40年

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周中シェフの代表的な逸品「木瓜のスープ」

 そのヌーベルシノワの旗手が周中・ハイアットリージェンシー香港料理長だった。86年に就任して西洋の食材を中華の技法で調理し、大皿から取り分けるのではなくコース料理にして1品ずつ提供した。油脂の使用を減らし、素材の持ち味を活かす日本料理や仏料理の「ヌーベル・キュイジーヌ」の技法を取り入れたという。

  ベアトリス・チャン氏は周中シェフの代表的なメニューの筆頭に「木瓜(パパイヤ)のスープ)」を挙げる。中国料理に従来からある「冬瓜(トウガン)のスープ」の調理方法をベースに、より香りがあって甘い味のするハワイ産パパイヤを用いて、フカヒレをとろ火で長時間煮込んだ料理だ。

 「フォアグラやキャビアを中華の食材に導入したのも周氏が最初といわれている」(チャン氏)。マンゴーやタピオカを用いたデザートである「楊枝甘露」やマンゴープリン、ツバメの巣を用いたタルトの「燕窩蛋撻」といった料理がこの時期に生まれたとチャン氏。

 谷垣真理子教授は「物流面のインフラ整備や技術革新も大きく寄与した」と話す。香港は海鮮料理が有名だが、近隣の海域だけでは地元の漁民料理で扱う小エビなど食材の種類が限られるという。空輸・冷凍技術の進歩などがヌーベルシノワの質の向上を支えた。「ロブスターのチーズがけといった東西融合の料理は、オーストラリア産のロブスターが空輸されるようになってから普及した」(谷垣教授)。

 ベアトリス・チャン氏は「ヌーベルシノワは中華と西洋の融合に重きを置くから、さまざまな国・地域の食材を最短の時間で香港に運び込むことが重要だ」と強調する。「最近の海外の海鮮食材は供給が安定しているため、香港の料理人は新しい食材を用いて、顧客のニーズや自身の創作意欲を満たしヌーベルシノワの創造に挑戦している」という。

 97年の「アジア金融危機」以降、香港料理界は小規模な海鮮レストランの展開やセントラルキッチンの導入などの経営の効率化を進めたという。ベアトリス・チャン氏は今後の香港料理の方向性としてオーガニック(有機)、サステイナビリティー(持続可能性)、素食(精進料理)の3点を指摘する。「新しい料理を開発するために中国本土で自ら特色ある食材を生産する料理人も出てきている」とチャン氏。植物由来の疑似豚肉「オムニポーク」の商品化など健康志向けの新工夫が欠かせないとしている。

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