パワーハラスメント

パワハラと指導の境い目はどこにあるのか クオレ・シー・キューブ 岡田 康子、稲尾 和泉

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 今や世の中に広く認識された「パワハラ」。その言葉を作ったクオレ・シー・キューブ 岡田 康子、稲尾 和泉の両氏が最新動向を踏まえて、『パワーハラスメント<第2版>』(日本経済新聞出版社)を著しました。今や社会問題化し、労災にも認定されるようになったパワハラ。最終回はパワハラと指導の境い目について解説します。

◇ ◇ ◇

 これまでパワハラについて語ってきましたが、果たしてパワハラと指導の境い目はどこにあるのでしょうか。パワハラが職場にさまざまな悪影響を与えるならば、それを防止しなければならないのは当然とはいえ、具体的にどのような場合にパワハラと判断されるのか理解できなければ、予防することはできません。

 ここでは、判例をもとに創作したケースや新聞報道などから、パワハラと指導の境い目について考えていきます。

1 暴力、暴言によるパワハラ

ケース1 言うことを聞かないと嫌がらせをする上司

 Aさん(53歳)は、中堅の広告代理店で長年、部長職をしている。このAさんは、自分の指示にすぐ従わなかったり、異論を唱えたりする部下には「バカヤロー!」「辞めちまえ!」「給料泥棒!」なとど怒鳴り散らすことがしばしばあった。

 また、自分がプライベートで活動しているNPO団体の冊子を会社で配り、その内容を理解しているかどうか部下に確認することもあった。そしてそれを断る部下に対しては、執拗な嫌がらせを繰り返していた。

 たとえば、契約社員のBさん(27歳)には、自分が提案した業務のやり方をしていなかったことを、「オレの言うことを聞かないということは懲戒に値する」という理由で、「今後このようなことがあった場合には、どのような処分を受けてもいっさい異議はございません」という始末書を無理やり書かせていた。また、会議でBさんが業務改善の提案をしても「おまえはやる気がない。何でこんなことを言うんだ。明日から来なくていい!」と怒鳴ったりした。

 また、タバコを吸っている契約社員のCさん(30歳)には、「おまえはタバコ臭い」という理由で、冬にもかかわらず1日中、扇風機を当て続けた。それは12月ごろから翌年の5月まで断続的に続き、その結果、Cさんは抑うつ状態となって、1カ月休職することになってしまった。

 別の契約社員Dさん(30歳)は、事務所の席替えのときに突然Aさんから「うるさい! 静かにやれ!」と言われて背中を殴られたり、面談のときには「仕事がうまくいかないなら、おまえが職を失うだけだ」と言われたり、さらに椅子に座ったままヒザをけとばされたりした。また、「よくこんなヤツと結婚したな。もの好きもいるもんだ」と、妻をバカにするようなことを言った。

 Bさん、Cさん、Dさんは、3人で共同して会社にAさんの嫌がらせを直訴したが、会社は何も対応をとらない。むしろこのまま自分たちの契約が終了してしまうのではないか、と不安な日々を送っている。

〈解説〉

 このケースは、2010年の日本ファンド(パワハラ)事件をもとに創作したものです(東京地裁 平成21年(ワ)第11541号 平成22年7月27日判決)。その裁判では実際に、上司が気に入らない部下2名に対して、真冬に扇風機を当て続けたことが明らかになりました。

 そのような行為に対して、「長期間にわたり執拗に2名の身体に著しい不快感を与え続け、それを受任することを余儀なくされた2名に対し、著しく大きな精神的苦痛を与えた」とし、不法行為と認定しました。また、暴力行為は当然のごとく、「何ら正当な理由もないまま、その場の怒りにまかせて殴打したものであるから、違法な暴行として不法行為に該当する」としました。

 また、始末書を書かせた点や、業務改善の提案について「明日から来なくていい」などと言った点、妻をバカにした発言については、被害者が契約社員(有期雇用)であったことを考慮して、「被害者に雇用を継続させないことがありうる旨を示唆することにより、今後の雇用に対する著しい不安を与えた」ため、これらの行為を社会通念上、許される業務上の指導を超えて、被害者に過重な心理的負荷を与える不法行為としています。

 そして、この裁判では、このような行為が上司としての職務遂行中に行われていることから、会社の使用者責任も認めています。暴言や暴力行為だけでなく、上司側の理不尽な嫌がらせに対しても、会社に責任があることを認めたのです。

 さらに、この判決では正規雇用者よりも有期雇用者のほうが、同じ発言を受けても雇用不安が強まり心のダメージが重くなるということを示唆しています。非正規雇用者が増えている職場でのパワハラは、会社にとって大きなリスクとなっています。

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