パワーハラスメント

「ほんま。辞めてしまえ」、裁判に見るパワハラの実態 クオレ・シー・キューブ 岡田 康子、稲尾 和泉

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 今や世の中に広く認識された「パワハラ」。その言葉を作ったクオレ・シー・キューブ 岡田 康子、稲尾 和泉の両氏が最新動向を踏まえて、『パワーハラスメント<第2版>』(日本経済新聞出版社)を著しました。今や社会問題化し、労災にも認定されるようになったパワハラ。今回は裁判例に見るパワハラの実態と企業・加害者が負うリスクについて説明します。

◇ ◇ ◇

(1) 加害者だけでなく企業も責任が問われる

 実際のケースを見ながら、裁判の中で明らかにされたパワハラの実態とそのリスクについて考えてみたいと思います

〈U銀行(パワハラ)事件〉(岡山地判 平24.4.19 労判1051号28頁)

 銀行の社員Xが、上司3名のパワハラで退職を余儀なくされたとして、上司および会社に損害賠償を請求したところ、上司1名のパワハラが認められ、その上司および会社の責任が認められました。

 パワハラは、Xが病気(脊髄空洞症)で約2カ月半の入院、約2カ月の自宅療養を経て復帰し配属された支店で、上司(支店長代理)により行われました。なお、Xには後に身体障害者4級の認定を受けるほどの後遺症(左肩、左肘の障害)があったのですが、行為者は、Xの病状、体調について、ほとんど把握も配慮もしていませんでした。その後、Xは数回の異動を経て定年の6年前に退職したのち、銀行を提訴しました。

 上司はミスをしたXに対し、「もうええ加減にせえ、ほんま。(…中略…)辞めてしまえ。足がけひっぱるな」「足引っ張るばあすんじゃったら、おらん方がええ」「今まで何回だまされとんで。あほじゃねんかな、もう。普通じゃねえわ、あほうじゃ、そら」と言ったり、ほかの社員を引き合いに出して「XはB以下だ」と言ったりするなど、厳しい口調で頻繁に叱責していました。

 裁判所は、上司の叱責は健常者であっても精神的にかなりの負担を負うものであり、復帰直後で後遺症もあったXにとってはさらに精神的に厳しいものであって、上司がXの病状、体調に無配慮であったことに照らすと、これらの行為はパワハラに該当する、と判断し、上司個人の不法行為責任(民法709条)と、雇用主としての銀行の使用者責任(民法715条)を認め、上司と銀行に連帯して慰謝料の支払いを認めました。

 この裁判例は、ハラスメント行為に対して、加害者はもちろんのこと、職場にハラスメント行為があった場合の使用者の責任を明らかにしています。加害者の行為が不法行為に該当するだけではなく、それに対処をしなければ企業が使用者責任を問われるということが明確になっています。パワハラを「単なる人間関係の問題」として見過ごし、適正に対処しないと、企業の責任まで問われる事態になってしまうのです。

 加害者について言えば、その行為はまったく許されるものではありませんが、自分でも気づかないうちにエスカレートしてしまった可能性があります。過去に自分も同じように指導された経験があると、自分自身の痛みに鈍感になることもあります。

 自分が受けた指導を「こういうものだ」と信じ込み、だれからも、何の注意もされず、その行為自体が許されないという認識を持たずに続けた結果、被害者は健康を害して退職、その後、裁判で訴えられることになってしまいました。パワハラ行為に気づかずにいると、このような事態に発展してしまうのです。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。