学校で教えない経済学

現代経済学は「見せかけの知」?~数学の誤った利用~

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 経済学が数学を多用することには理由があります。自然科学の手法をまねてきたからです。物理学者の長沼伸一郎氏は経済学で用いる数学について「物理や天体力学の世界で成功した数学技法で使えそうなものを寄せ集めて作られた」(『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』)と指摘します。

経済学は数学で自然科学と同じような成功を収めているか

 しかし肝心なのは、経済学が自然科学の手法を模倣することで、自然科学と同じような成功を収められるかどうかです。

 ニュートンが自ら考案した数学の微積分に基づき理論化した力学の法則は、今でも通信衛星の軌道計算、ミサイルの誘導、津波や地震のシミュレーションなどで幅広く活用されています。アインシュタインが発見した相対性理論のおかげで、人工衛星を使った全地球測位システム(GPS)によって現在位置が正確にわかります。

 これに対し、経済学はどうでしょうか。毎年、ノーベル経済学賞が発表されるたび、学問上の業績がうやうやしく紹介されますが、その業績が実際に人々の暮らしを豊かにしたり、経済危機を防いだりしたという話は聞いたことがありません。

 むしろ失敗談のほうが目立ちます。100年に1度といわれた2008年のリーマン・ショック以降の経済危機を事前に予測した経済学者はほとんどいませんでした。1997年にノーベル経済学賞を共同受賞したマイロン・ショールズ、ロバート・マートンの両氏が経営にかかわった投資ファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)は同年発生したアジア通貨危機による市場の変化を読み誤り、破綻しました。

 なぜ自然科学の手法に学び、数学に基づく緻密な論理を築いたはずの「社会学の女王」が、ふがいない姿をさらしてしまうのでしょう。そもそもの出発点である、自然科学の模倣が間違っていたのではないでしょうか。

 一部の経済学者はそう考えています。その一人は、1974年にノーベル経済学賞を受賞したフリードリヒ・ハイエクです。

 ハイエクは「見せかけの知」と題する受賞記念講演で「経済学者が政策をもっと成功裏に導くことに失敗したのは、輝かしい成功を収める自然科学の歩みをできるかぎり厳密に模倣しようとするその性向と密接に結びついているように思われます」と自然科学の模倣を批判しました。そして、自然科学の手法を社会科学に無批判に適用する態度を「言葉の真の意味において決定的に非科学的」(『哲学論集(ハイエク全集 第2期)』)だと厳しく戒めたのです。

 じつは、今年の受賞者の一人であるローマー教授も、経済学における数学の使用のあり方に苦言を呈したことがあります。

 2015年、ローマー教授は経済学の権威ある学術雑誌「アメリカン・エコノミック・レビュー」に寄せた短い論文で、現在の経済学には真の数学と異なる「数学っぽさ(mathiness)」がまかり通っていると批判しました。

 同氏によれば、普通に人が話したり書いたりする言葉(自然言語)が、数学という形式言語と緊密に対応していれば、言葉遣いはより論理的で正確になり、経済学の科学的な発展に寄与するはずです。ところが実際には、数学を厳密に使用せず、うわべだけの「数学っぽさ」によって言葉との関係をわざとあいまいにする経済学者が少なくないといいます。学会で政治的な勢力を保つには、学説のシロクロがつきにくいほうが好都合だからです。

 学者とは世俗を超越し真理だけを追求するものだという幻想を抱く人にとって、ローマー教授のこの指摘はショックでしょう。けれども経済学者も人間です。

 アラン・レビノビッツ氏という米国の宗教哲学者は2016年の話題になった記事で、ローマー教授の「数学っぽさ」批判に触れつつ、議論を掘り下げます。今の経済学は古代中国における占星術のような、難解なだけで役に立たない科学もどきであるにもかかわらず、政府は経済政策の口実として利用します。なぜ心ある経済学者は警鐘を鳴らさないのでしょうか。

 ある経済哲学者はレビノビッツ氏にこう答えたといいます。「力のある理論を捨てたら、経済学者は王座から引きずり下ろされてしまう。社会学者みたいにはなりたくないのさ」。科学的に正しい理論より、素人に理解できないもっともらしい「見せかけの知」のほうが政治では力になるのです。

 ローマー教授は12月に予定されるノーベル賞記念講演で、できれば受賞理由となった技術革新と経済成長の話などより、44年前のハイエクのように、経済学における「数学っぽさ」の横行を世界が注目する中で批判してもらいたいものです。きっと「人類のために最も偉大な貢献をした人」という真のノーベル賞の趣旨にふさわしいものになるでしょう。

(木村貴)

キーワード:経営・企画、人事・経理、学生、営業、技術、製造、経営層、管理職、プレーヤー、経営、イノベーション

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