私が30代の頃、50代後半の先輩(つまりはシニア世代)と仕事をする機会があった。朝、「おはようございます」と挨拶すると、その先輩はいつも「おはよう」と返事をする。これに違和感を持っていた。
「『おはようございます』と言ってくれてもいいのになぁ」となんとなく思ったが、娘ほども年齢が離れた後輩に「ございます」を付ける必要はないと思われていたのかもしれない。当時は、違和感の正体を突き止めることもなく、そのままにしていた。
そんな経験をしたことを、20年が経った今、ふと思い出したのはこんなことがあったからだ。
普段私は、企業向け研修に講師として携わっている。最近、30代前後のリーダークラスの方たちを対象に、研修でグループディスカッションを行った時のことだ。「信頼できるリーダーとは?」についての議論になったのだが、「ウソをつかない」「時間を守る」「感情的にならない」に加えて、「誰に対しても“さん”付けする」という意見が出たのである。
どういうことか聴いてみると、「部下だ、年下だと思うと、“呼び捨て”にしたり、“クン付け”にしたりする人、いるじゃないですか。なんだかイヤだなぁと思って」とのこと。
私が30代のときに「おはよう」と言われて感じたのと似たようなことを、今の若い世代も年長者に対して感じている。シニアが悪気なく、そして当然のように口にする言葉が実は若い人たちをモヤモヤさせているようなのだ。
単語で返答することでも偉そうに聞こえる
ほかにもシニアの言葉遣いで気になることがある。
出張先のホテルでのできごとだ。あるシニア(男性)の話し方が印象的だった。彼は朝食会場で、私と同時に席へ案内されたが、私の後ろを歩いていた彼の会話に「おや?」と思った。案内係とすべて「単語」で話していたのだ。
――「お一人ですか?」
「一人っ」
――「奥のソファ席と手前のテーブル席、どちらがよろしいですか?」
「テーブルっ!」
――「和食と洋食、どちらになさいますか?」
「洋食っ!」
――「コーヒーか紅茶をご用意できますが、いかがなさいますか?」
「コーヒーっ!」。
こんな感じで、返事がすべて単語だ。
子どもが「お母さん!牛乳!」などと言おうものなら、「お母さんは、牛乳じゃありません。ちゃんと文章で話しなさい」と言われるのに、いい齢(とし)のシニアが他人からの質問へ「単語」だけで応じている。ちゃんと文章で話せばよいのに、と傍から見ていて思ったものだ。