泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

トヨタのMaaS戦略、世界での現在地はどこか テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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2018年からトヨタのMaaSへの取り組みは加速

 もちろんトヨタがオーガニックに成長しなくてもM&A(合併・買収)で他社ブランドを買収していき、グループ全体で成長していればよいではないか、という意見もあろう。

 しかし、トヨタのトップからすれば、自社ブランドの生産台数自体が過去5年近くもあまり成長していないということは、株式市場から指摘されるまでもなく、危機意識がかなりのレベルにあるのだろう。

 2018年のCESにおけるe-Palette Concept発表直前となる2017年12月に、トヨタはモビリティーサービス事業会社として、「トヨタモビリティサービス株式会社」の設立を発表している[5]。同社はトヨタフリートリースとトヨタレンタリースを統合するもので、これまでの法人向け自動車リース事業に加えて、新たなモビリティーサービス事業の創出をしていくことが期待されている。

 そもそも自動車リースとMaaSと呼ばれるモビリティーサービス事業は相性が良いと思われる。サービス事業者からすれば、自社所有として車両を抱えるために資金を投下するよりもサービスのレベル向上そのものにリソースを注ぎたいと思うであろう。

 また、今後、自動運転技術などの新しいテクノロジーを活用する時代ともなれば、自社でエンジニアなども含めたリソースを抱えて、最先端のテクノロジーを常に追い求めるのは、すべてのモビリティーサービス事業者ができることではなかろう。そして仮に、モビリティーサービス事業者がMaaSのプラットフォームを安価にそして安心して活用することができるのであれば、自社のコア事業に専念することができる。まさにこれは、ICT業界のクラウドサービスで起きたことと同じことである。

 トヨタのモビリティーサービス事業への取り組みは自社プラットフォームの開発・推進だけではない。2018年は外部との協業の取り組みも活発化している。

 たとえば、2018年4月にはパーク24とカーシェアリングサービスについての業務提携が発表されている[6]。6月には東南アジアでライドシェアサービスとして存在感のあるグラブ(Grab)社に、MaaS領域での協業を深めるため10億ドル(1ドル110円換算で約1100億円)を出資することを発表した[7]。また8月にはウーバーに対して、自動運転技術を活用したライドシェアサービスの開発促進などを目指し5億ドル(1ドル110円換算で約550億円)の出資を発表している[8]

世界に見るトヨタMaaSの現在地

 自動車メーカーとしてトヨタにおけるMaaSへの取り組みが活発化していることはよくわかった。では、海外の自動車メーカーの動きと比べての現在地はどうなのであろうか。

 海外で注目すべきは、独大手ダイムラーである。ダイムラーは外部との連携だけではなく、投資や買収・合併などを通じて2008年からモビリティーサービス事業に力を入れている自動車メーカーだ。

 ダイムラーは、2008年にカーシェアの「car2go」へ出資、2012年にマルチモーダルプラットフォームの「moovel」へ出資、2014年に配車サービス「mytaxi」の買収といった動きをしている[9]

 そして最近では、さまざまなモビリティーサービス事業展開の中でも「3つの柱」として、先にあげた「mytaxi」「car2go」および「moovel」をあげている。

 「mytaxi」には1530万人のユーザーがおり、13カ国80都市でサービスが展開されている。「car2go」には320万人のユーザーがおり、欧州・北米・アジアにおいて1.4万台以上のカーシェア事業が展開されている。また、「moovel」にはチケッティングアプリやオンデマンド・シャトル・サービスなどを通じて500万人のユーザーがいる。

 加えてこうしたサービスをダイムラーだけにとどめることなく、本来は競合企業である独BMWとも推進し、将来的に自動運転やオンデマンド利用のEVプラットフォームを共同で構築しようとさえしている。

 BMWとダイムラーはそもそも競合企業では?とお考えの方も多いであろうが、この2社はモビリティーサービスの取り組みに関してはかなり真剣だということを認識しておくべきであろう。

 2018年9月20日に、この2社は現在のモビリティーサービスを統合する許可申請をEC(欧州委員会)に提出している[10]。自動車というハードウエアを扱う事業領域では引き続き競争関係にはなるが、モビリティーサービス事業においては50%ずつの株式を保有する合弁会社を予定している。合弁会社は(1)マルチモーダルおよびオンデマンドモビリティー、(2)カーシェアリング、(3)ライドシェア(Ride-hailing)、(4)パーキング、(5)充電といった5つの領域を扱うことになっており、その本社をベルリンに置くことを計画している。ここからは地方都市で実験的なサービスを始めるというのではなく、ドイツの両雄がドイツの首都をはじめとする都市へ本格的にビルトインする姿を目指している様子がうかがえる。

 そのダイムラーは現在のモビリティーサービス事業を単なるカーリースの延長のようなサービス事業としてとらえているのではない。ダイムラーは同事業を「将来の自動運転車を活用したサービスの入り口」としてとらえていると明確に説明をしている。

 その観点で先にあげた3つのサービスを見ると明らかにユーザーとのタッチポイント(接点)の確立とその規模拡大に資本やそのほかのリソースを投下しているように見える。

 しかし、モビリティーサービスを事業として確立させるのは容易ではない。ウーバーはグローバル展開を行っていることもあり知名度は高いが、現時点では売上高が伸びても収益が上がる体質にはなっていない。2018年第2四半期は、売上高が28億ドル(1ドル110円換算で約3080億円)である一方、当期純損失では8億9100万ドル(同980億円)となっている。同年第1四半期には海外の一部事業を売却することで当期純利益は黒字に転換したが、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は過去1年について四半期ごとに見ても赤字となっており、常に現金が会社から流出している状況だ[11]

 ウーバーですらこのような状況であり、大手自動車メーカーが束になっても、すぐにモビリティーサービス事業を収益の柱とできるかは疑問が残る。事業規模を追求するとともに、事業としての収益をどこで獲得するかの検証も必要であろう。

 また、これまでの自動車メーカーはややもするとディーラーなどにユーザーとの接点は任せっきりで、積極的にかかわろうとしてこなかった。ただ、今後、自動車の利用がモビリティーサービスを起点にするようになったときに「ユーザーが誰であるか」を知らないということはMaaSを運営する際に致命的だ。まさに「Know Your Customer(KYC)」が必要なのである。ユーザーに直接サービスを提供するために必要なこうしたプロセスも自動車メーカーからすると場合によっては時間がかかることもあるであろう。モビリティーサービスを自動車メーカーが提供しようとすれば自社のサービスとしてユーザーと直接接点があることが理想的である。

 ダイムラーのモビリティーサービス事業の取り組みは「car2go」をスタートとするならばもう10年近く経過していることになる。トヨタのモビリティーサービス元年をいつからととらえるかで議論はあろうが、ダイムラーはトヨタに対して10年近く先行しているともいえる。今後、トヨタがユーザー数をどう拡大していくのか、また、どのように競争優位を確立していくのが試金石になる。

参考情報)

[1] 『トヨタ自動車、カーシェア等のモビリティサービスに向けたモビリティサービス・プラットフォームの構築を推進』(トヨタ自動車)

[2] 『トヨタ自動車、モビリティサービス専用EV“e-Palette Concept”をCESで発表』(トヨタ自動車)

[3] 『2018年3月期決算発表 豊田社長挨拶』(トヨタ自動車)

[4] 『自動車誕生から今日までの自動車史(前編)』(Gazoo)

[5] 『トヨタ、モビリティサービスの新会社を設立』(トヨタ自動車)

[6] 『トヨタとパーク24、東京都内におけるカーシェアリングサービスのトライアル実施に関する合意書を締結』(トヨタ自動車)

[7] 『トヨタ自動車、東南アジア配車サービス大手Grab社とモビリティサービス(MaaS)領域での協業を拡大』(トヨタ自動車)

[8] 『トヨタ自動車とUber社、自動運転車に関する技術での協業を拡大』(トヨタ自動車)

[9] 『DAIMLER Q2 2018 Corporate Presentation』(ダイムラー)のpp.100-101

[10] 『BMW Group and Daimler AG plan to headquarter joint mobility company in Berlin』(ダイムラー)

[11] 『Uber CEO Embraces Losing Money With Revenue Growth Slowing』(ブルームバーグ)

泉田良輔 (いずみだ りょうすけ)
 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表。個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)編集長、および株1(カブワン)LIMO(リーモ)の監修も務める。それ以前はフィデリティ投信・調査部にて日本のテクノロジーセクターの証券アナリスト、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネジャーとして従事。慶応義塾大学大学院卒。著書に『銀行はこれからどうなるのか』『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』。東京工業大学大学院非常勤講師。産業技術大学院大学講師。

キーワード:経営、企画、技術、製造、経営層、営業、管理職、プレーヤー、経営、イノベーション、国際情勢

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